東京ユグドラシル

浅川さん

第1話_目覚め

目を開くと、僕はそこにいた。

長い間眠っていたかのようなけだるさの中、ゆっくりと体を起こす。硬い砂利の上に倒れていたので、全身に痛みがある。薄暗い場所だが野外ではない。トンネルの中だろうか。立ち上がろうと足元に目をやると、鉄製のレールが薄明かりの中きらりと光った。二本のレールはまっすぐに伸びて先の方は闇に消えていた。反対側も同様で、ここが列車の線路上であることが分かった。慌ててあたりを見渡す。よく見ると、すぐ後ろにはホームらしき空間があるが、そこに人影はない。ここはどこかのトンネルの中なのだろうか。それとも地下鉄の駅なのか。現時点では判別がつかなかった。改めて線路の先に目を凝らしてみるが、電車が走ってくる気配は無い。耳を澄ましてみたが、風が流れる音以外は特に聞こえなかった。とりあえずすぐに電車が来るということはないようだ。

まだ頭は混乱していて、現状を理解できてはいなかったが、ここでじっとしているわけにもいかない。誰かに見られればトラブルになってしまうだろう。

どこからか登れそうな場所は無いかと見まわしてみたが、階段やはしごは見当たらなかったので、頑張ってホーム上によじ登った。線路に立ってみるとわかるが、プラットフォームは通常下からよじ登るように設計されていないので、絶妙な高さがある。足をかけるような取っ掛かりもないし、よじ登るのにはなかなか苦労した。何とかよじ登って、改めて辺りを見渡す。

さて、ここはどこだろう。見た感じどこかの駅のようだが、人気が全くない。完全に無人の駅で、駅というよりは廃墟に近い。古めかしいデザインのベンチやタイル張りの壁など、どこをとってもレトロだ。天井近くに巨大なモニターがロープで括り付けられていて、画面は砂嵐が表示されている。このモニターだけがレトロとは無縁なものだが、設置の仕方がどう見ても普通じゃないし、使われているわけでもないのに電源が入っていることがとても不気味だ。しかも、不思議なことに蛍光灯などは取り外されており、天井のモニターだけが唯一の明かりだった。

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