第9話 謎の訪問

  夏休みも終わりに近づいてきた。計画的に進めてきた夏期課題はもう残り少しだ。この時期になるとやる事がなくなって、だいたいテキトーにスマホをいじるだけの生活へと変わる。だが一般的には避けていた宿題を一気に片付ける時期らしく、行き交っていたラインには静寂が訪れている。


「ピーンポーン」


来客者など、蒼月あいる以外来るはずもない俺の家にチャイムが響き渡った。だが蒼月は今、軽井沢へ家族と出掛けている。


「宅配便か??」

急いで玄関のドアを開けに行くと、そこには見知らぬ女子が立っていた。


「あ、あの、どちら様でしょうか??」

「えぇ〜!?私のこと、覚えてないって感じぃ〜?私、小川おがわ琉梨るり榛眞はるま君と同じクラスなんだけどなぁ〜?」

「はぁ。そうっすか。じゃ。」

「いや、待って待ってぇ!家、お邪魔するねぇ〜!」


そう言うと小川はドアを閉めようとする俺の手を押さえて、狭い隙間から勝手に俺の家に入り込んだ。

「あ、あの......、」

「今日はね、榛眞君に宿題、教えて欲しくってぇ〜......、いいかなぁ?」


 上目遣いでねだるように見つめてくるが、良いも悪いも勝手に人ん家入っておいて今更??っというかってなんだ??いきなり下の名前呼びかよ。馴れ馴れしいやつは苦手なんだよな。.........とは言え、入られてしまったものは仕方ない。テキトーに相手してすぐ帰ってもらおう、と俺は思考転換した。


「はぁ〜。で、どこ??」

「わぁーい!えっとねぇぇ、たぶん〜......、ここらへんっ!!」






……………………………………………………………………………………。






「わかりやすかったよぉ!それじゃっ!今日はあっりがとー!」

「いや、別に。でも急に来るのはもうやめて下さい......。」

今まで避けてきた人種タイプと関わり合って、俺にはもう思考能力もなにも残っていなかった。ただただ一刻も早く一人になりたい、それだけの思いだった。


「急に、かー。榛眞君って、やっぱ......のみ......だわ。」


「ん?何か言いました?」

「なーんにもっ!!じゃーねー!榛眞君っ!!」

何か言ったような気がしたがもうどうでもよくなり、すぐドアを閉じた。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。つ、つか、れた......。」

〝ここらへん〟と言いながら小川はだいたい全範囲を俺に教えろとせがんできた。おかげで追い返すのにも時間がかかった。窓の外を見ると、青かった空はもう夕色に染まっていた。





 そんなこんなで、あっという間(?)に俺の夏休みは通り過ぎ二学期が始まった。



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となりの席のかすみ草 雪蘭 @yukirann

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