26. 皆で『帰ろう』
「……」
仰向けになったままの体の瞼を開けば、そこには青い空が見えた。
「生きてる……?」
自問自答ではあるが、どうやらそうらしい。
視点を横へとずらせば、私に抱き着きながら眠るシルクと、座りながら私の様子を見守っていたイルマがいた。
「目覚めたか?」
「みんな……無事?」
「幸い、な」
「……よかったぁ」
改めて空を見上げた。
どうやら本当に、シルクが唱えた魔法は、彼女の考えた通り、伝えた思い通りになったらしい。
煌びやかだった天上は爆発で全て吹き飛び、見事に外壁のみが崩れ、それはアーガストの死体を埋め尽くした。
そして、何よりも幸いなのは、私達がこの空間へと足を踏み入れた際に通って来た道が瓦礫にも塞がれていなかったという事だった。
「あのさ、イルマ」
「どうした」
「ごめん……なさい、私、ちょっと色々あって……」
「許すさ。その代わり、一体何があったのかを話してくれ、その……剣の事もな」
そうだ、魔剣……!
上半身を持ち上げれば、私の足元にはその魔剣、血啜りの大剣ダインスレイヴ・マァニがあった。
私はその魔剣を手に取り、改めてその見た目を目に収めつけた。
血の様に紅い片刃の刀身、丁度この場所に刺さっていた剣の錆びが剥がれた見た目だ。
大きさは刀身だけで私の足元から胸元までの大きさがあり、持ち手までを含めると私の身長と同じ程ではあるが、先程振るった時にだんだんと今の大きさよりも大きくなっていたのを見ると、今が通常の大きさという訳では無さそうだ。
怪しい光を放つのは血を取り込んだ際だけなのだろうか、今はその光を放ってはいない。
「歪んでいる」
「ん?」
「その剣は生きているのか? そこらの魔物か、それ以上の歪みを感じる」
「……生きてるかもね」
「そうか、なぁ、プレタ少しそれを貸してはくれないか?」
「……いいけど、気を付けて、何があるのかまだ私もはっきりしてないから」
私は魔剣を両手で持ち上げ、寝ているシルクの体の真上へ出されたイルマの手にそっと乗せた。
「放すよ、それなりに重たいから気を付けて」
「ああ」
と、手を離した途端。
「何──ッ!?」
ズンッと、魔剣が驚くイルマの手と共に下へと一気に落ちて行くのが見えた。
「危ない!」
私は神経が反応するがままに、手を反射的に下へと入れた。
危うくシルクの上へと落ちそうになる所ではあったが、その直前で受け止める事ができた。
「だから重たいって言ったじゃん!」
「いやプレタ、お前、いつの間にそれ程までに力が付いた?」
「え?」
「『どうしてそれほどまでに重たい剣を持てるのか』と、聞いているんだ」
「いや、そんなに重くないよ? 何ならイルマの方が軽々と持ち上げられるんじゃないかって思ってるんだけど?」
「う”う”、何”を”持”っ”て”……話”じでい”る”ん”でずが?」と、剣の下、私の傍で寝ていたシルクが目を覚ました。
「シルク……!」
「え”……生”ぎでま”ず? な”ん”が暗”い”ん”でずげど?」
「ああ、ゴメン、ずらす……」
私がシルクの頭上から剣を退かすと、降り注いだ太陽の光に彼女は目を細めた。
「あ”う”……」
「ありがとうシルク、シルクのお陰で私達、生き残れたよ」
「へへへ……お”だがい”さ”ま”でず」
「えっと……声、めっちゃガラガラだけど大丈夫?」
「だい”じょ”う”ぶでず、ごごま”でごう”な”っ”だの”ば久”じぶり”でずげど、慣”れ”でま”ずじ、時”間”が経”でば治”り”ま”ず」
「そう……」
確か前世の記憶でもこんな声の芸能人がいたなと思い浮かぶ。
いや、それよりも。
「そんなに重かった?」
「ああ、もう一度持たせてみろ。シルクにはすまないが一度退いてくれ」
「あ”い”」
シルクが横へと退くと、私はもう一度イルマの手に剣を持たせた。
「良いか、今度は何があっても手をださないでくれよ?」
「うん、じゃあはなすよ……」
私が剣から手を離した途端──、
「──ッ!」
ズンッと、剣はイルマの手ごと地面へと落ちた。
イルマの手は剣の下敷きになるが、それが原因で押し潰れるという事はなさそうではある。
が、イルマが幾ら踏ん張ろうにも、やはり剣は持ち上がるどころか微動だにしない。
「どう……?」
「ダメだ……ビクともしない……力をいくら入れても持ち上がらない」
「嘘でしょ……じゃあ、次シルク、持ってみ」
「ええ! 私ですか?」
「「あ、声治った」」
「ホントだ!」
私はイルマの手から剣を取り上げ、シルクの元へと差し伸べた。
「ぶっちゃけ聞くけどさ」
「はい」
「持てると思ってるでしょ?」
「……はい」
「『イwルwwマwwwが持てないwwとかwwこれで持てたら私最強じゃんw』とか内心思ってる?」
「言い方はちょっとアレですけど、内心……ちょっとだけ、思っちゃいました……」
「だってさ、イルマ」と、私は視線をイルマに向けた。
「え”!? 何ですかコノ言わされた感!?」
「まぁ、物は試しだ、手に乗せてみろ、シルク」
「え! ええ! やってやりましょう!」
私はシルクの手の上に剣を乗せた。
「……ほらー! やっぱり軽いじゃないですかー!」
「じゃあ手放すよ」
「乗せただけえええ!? ってッうっわああ!」
イルマ同様に、シルクの手の上に置かれた剣は、一瞬にして手と伸ばしていた足ごと、その身を下へと留めた。
「……どう?」
「えっと……ナメました」
「そっかー」
私はイルマと視線を合わせると、二人してうすら笑いながら無言で頷き、立ち上がった。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうだな、そろそろギルドが窓を開けているかもしれないしな」
「え? ちょっと待ってください?」
「じゃあシルク、達者でな」
「お供えくらいはそこらの人々が渡してくれるだろうな、達者で」
「なんで! なんで置いて行かれようとしてるの! 嫌です! このままこの剣と一緒に最後を迎えるとか、来世にどう申し訳を付ければいいんですか!」
「「ッハハハハハ」」
「笑うとか鬼ですか! 鬼なんですか! この後輩いびりー!」
そう叫ぶシルクの手と膝の上に乗っている剣を私はそっと持ち上げた。
「ま、冗談だけどね」
「良かったです……」
「ホラ、立てる?」
私はシルクに手を差し伸べ、シルクはその手を取って立ち上がる。
「っとっと、ちょっと立ち眩みが……」
「あまり無理をするなよ、帰り道まではそれなりに距離もあるし、途中で昨日の土蛇の様な奴と出会えばまた戦う羽目にもなる。なんならおぶろうか?」
「え! 良いんですか!」
「一人にさせてしまった詫びと、あの状況を打破した褒美だ。さぁ、乗れ」
「えー! 私もイルマにおんぶしてもらいたいー!」
「プレタはそれなりに元気だろ、荷物を持て」
「はーい」
シルクはイルマにおぶられ、一方で私は荷物を背負った。
戻ったら簡易的に鞘でも作ろうかなと、手で剣を持ち、皆して帰り道へと歩いて行く。
「帰ろう」
「ああ、帰ろう」
「帰りましょう」
こうして私達が一つの歪みを修正すると同時に、私は曖昧であった前世の記憶を取り戻し、新たな魔王が生まれた事を知ったのだった。
ド貧乳転生 ~巨乳なんてク〇くらえ!~ リクトシヨン @l19044
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