第2話 異例の入学式典

「爽やかな風を感じる今日という良き日に――」

 壇上でアルバートが新入生代表として挨拶を述べているのを、シャーロット・フェルーエン侯爵令嬢は新入生席で見つめていた。

 ちらりと横目に来賓席を見る。外務大臣に財務大臣などなど。要職に就いている錚々たる面々がこの会場に集まっていた。さながら、国家の一大行事のような様相を呈している。

皆、王太子であるアルバート・エニュア・ソルヴェーヌの入学を祝うために来ていると言っても過言ではないだろう。

 ……王室の子息、それも王太子が学院に通うのは、極めて異例のことであった。

 本来ならば、王室付きの家庭教師らが王子らに付きっきりで教育を施すものなのだ。

 しかし、アルバートは学院で学びたいと言い出したらしい。なんでも、『見識を広め、同じ年頃の者たちと意見を交えることのできる環境に身を置きたい』とのこと。

 当初は伝統を重んじるべきだと反対の声も上がったが、最終的には彼の熱意に押し負ける形で、学院生活が許されたのであったのだとか。


(それにしても、どうして殿下は学院に興味をお持ちになったのかしら)

 シャーロットは今更になって、そんなことを考える。

 同世代の有力貴族の子弟や、才能のある生徒たちと交流し、切磋琢磨し合うこと。各分野に優れた教授たちの指導を受けて学ぶこと。

 そのどちらも、素晴らしいことではある。

けれど、シャーロットは考えてしまう。


――アルバートが周囲を説得してまで、この学院に入りたがったのは、何故なのだろう、と。


王室付き家庭教師たちの技量が、この学院の教授たちに勝るとも劣らないことは明白であった。

それに、アルバートは以前から頻繁に学会などに顔を出している。同じ年頃の学者や、それを志す者たちとの親交は深いという話も聞いたことがある。

アルバートが入学を希望した理由。そのどちらも、エシュニット学院でなくても達成できていると言えなくもない。


そこまで考えてから、この学院が寄宿舎制度を導入している点に思い至る。

この学院は原則、全生徒が寄宿舎にて共に生活をすることになっている。かく言うシャーロットも、今日から侯爵家を離れての生活になる訳だ。

(確かに、寄宿舎での生活は、王室では得られない経験と交流をもたらしてくれるとは思いますけれど……)

 王室を離れて得る経験は、貴重なものであることは分かる。けれど、それが反対する周囲を説得するほどの熱意に結びつくのか、甚だ疑問であった。

(……ですが、やはりような気がしてしまいますわね)

 彼を突き動かすほどの情熱。それがこれらの理由の中にあるとは、シャーロットには思えなかった。

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