【6-8】
ステージの周辺で、シユウ達はそれぞれ分かれてツバメとカラスの姿を探した。
植樹祭や仕事の事など頭からすっぽりと抜け落ち、シユウは人を掻き分けながら、二人の事を思い出しては考えていた。
(もし再会したら、何と言おう)
遅いだとか、心配させるなだとか、文句も山程ある。けれどそれ以上に、言葉にできないくらいに嬉しい気持ちがある。
断られても嫌われてもいいから、力一杯に抱きしめたい。好きだっていっぱい言いたい。愛してるという言葉もかけてやりたい。もう二度といなくならないように、ずっと手を繋いでいたい。
探している今でさえ目頭が熱くなって、泣きそうになっている中、シユウは久々に沢山走り回った。
履き慣れない革靴が何度も脱げかけて、躓きそうになりながらも、黒い髪の彼女の姿を探し求める。
それからしばらくして、シユウは肩で息をしながら立ち止まったその時、耳に入ってきたとある声にハッとして顔を上げた。
「待てツバメ。もう少し掘るから」
「うん。分かった」
倒れかけていた長い耳がピンと立つと、シユウは辺りを見回す。汗とともに一筋の涙が頬を伝うと、その声が聞こえる方向へと顔を向けた。
沢山の親子連れに混じり、若い黒髪の兄妹が楽しげに作業をしている。兄がスコップで掘る中、それをしゃがみながら妹は眺めていた。
その二人に向かって、シユウはゆっくりと歩み始める。二人はシユウに気付かず、桜の苗木の穴を掘っていると、ふと兄は手を止めシユウを向く。
「!」
兄は目を見開くと、傍にいた妹もそちらを向く。そしてやはり同じ反応をみせれば、その場で立ち上がる。
シユウは息を吸うと、嗚咽が出そうになるのを堪えながらも、二人の前までやってきた。
「やっと……見つけた」
「……全く、なんて顔してるんだよ」
涙をぼろぼろと流すシユウに、兄……カラスは苦笑する。そんなカラスの言葉に、シユウは「うるせえ」と言った後、視線を妹……ツバメに向ける。
ツバメは眉を下げて心配そうに見つめていると、シユウは小さく笑った。
「ツバメ」
「っ」
名前を呼ばれ、ツバメはびくりと身体を震わせる。そして一歩ずつ前に出ると、小さく困ったように笑った。
「その、ごめんね。心配かけちゃって」
「……っ、ああ全くだ!遅いんだよ……! もう、帰ってこないと思ってた!」
声を荒らげれば、ツバメは眉を下げたままより笑みを深くする。と、人目も憚らずシユウはツバメを強く抱きしめた。
カラスが一瞬ムッとしたが、その後すぐに溜息をつくと、目尻を下げて二人を見つめる。
抱きしめられたツバメは、蒼玉の目を大きくさせると、そっとシユウの背中に手を添えた。
「大きくなったね」
「当たり前だ。何年経ったと思ってるんだ」
「……うん」
以前よりもさらに伸びた身長に、ツバメは時の流れの違いを知ると目を閉じて「ごめんね」ともう一度謝る。
その言葉に対してシユウは首を横に振り、より腕に力を込めた。もう二度と会えないと思っていただけに、感極まって泣きじゃくると、ツバメが優しくシユウの頭を撫でる。
そんな二人の様子に、周りは木を植えるのを止めて見守る。中には感動の再会を喜び、シユウにつられて涙を流す者もいた。
人々の拍手や歓声によって、最初にヒューガとソメイがやってくると、続くように燕寺やラクーン、コムギもやってくる。
やってくる仲間達に、カラスは照れながらも挨拶をする。
「久々だな。……その、待たせたようですまない」
そう言うと、ラクーンは涙を浮かべながらも笑って「良かった」と言う。すると隣にいたコムギが小さく声を震わせると、ツバメとシユウの元へ駆け寄った。
コムギに気付いた二人は抱擁を解き、コムギを受け止める。会いたかったと泣きじゃくる彼女に、ツバメも頷き涙した。
五年もの間があったせいか、年齢もコムギに越されてしまったようだった。
「もう、コムギがお姉さんだね」
「お姉さんどころかもう母親だけどな」
「母親……?」
シユウの言葉にツバメは目を見開く。ふと視線をラクーンに移せば、コムギに似た小さな子どもを抱いているのが見えた。
以前から薄々ラクーンとコムギの仲は気づいていたものの、まさか子どもまで出来ているとは思いもせず、ツバメやカラスは驚いていた。
ラクーンは照れながらもコムギの傍に来れば、改めて挨拶をした。
「その、今更なんだけど……コムギちゃんとお付き合いした後に結婚して今は夫になってます」
「あ、ああ……はい。えと、これからもコムギをよろしくお願いします」
「こちらこそ」
にこりとしてラクーンが言えば、コムギも涙を拭いながら笑みを浮かべる。ツバメはコムギの頭を撫でて「よかったね」と言えば、こくりとコムギは頷いた。
「あのね。ツバメ。いっぱい話したい事があるの。復興の事とか、皆の事とか」
「ふふ、そうだね。私もね、皆の事たくさん聞きたい。だから教えて? ……ね、お兄ちゃんも聞きたいよね」
振り向きカラスに訊ねれば、カラスも微笑して頷く。
「俺達も紹介したい人がいるから」
「紹介……? あ」
ツバメはキョトンとした後、すぐにそれが両親だと分かると、「そうだね」と返す。
こうしてツバメ達は再び出会えた奇跡に感謝しつつ、再会を喜び、思い出を語り合った。
そして、ツバメ達龍族にはなかった五年間の話もすると、いつしか植樹祭は料理や酒を持ち込んでの大宴会となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます