【6-7】
数週間後。
シユウと燕寺は職員としてステージの傍で立っていたが、市長が上がるのを見て、周りの人々に合わせて共に二人も拍手をする。
視界の端でキラキラと輝く白龍川の水面が見える中、シユウはゆっくりと視線を市長や来賓から植樹会を見にきていた人々に目を写す。人々が見つめる中、ふとその中に見知った姿を見かけた気がした。
「……!?」
夢だろうか。最初はそう思った。
何度も目を袖で擦っては、顔を顰めて必死にその姿を探していると、隣にいた燕寺が呆れた表情を浮かべて言った。
「何してるのシユウ」
そう小声で訊ねれば、シユウは表情を崩さずに呟いた。
「ツバメが、いた気がした」
「……ツバメさんが?」
こんな時に何を言っているのだろうと燕寺は困惑し、シユウを見つめる。と、再び拍手が聞こえ、ステージを見ればテープカットが行われた所であった。
カメラのフラッシュが焚かれ、市長達がにこやかに笑みを浮かべ手を振る中、シユウは溜息を吐いて姿勢を正す。
(見間違いか……そりゃ、そうだよな)
我ながら何を言っているのだろうと思いつつ、心の中で自分を戒めながら式典に集中する。
そうして式典は何事もなく無事に終わり、いざ河川敷沿いに桜の木を植えるとなった時、その桜の木を運び出す業者に目が入った。
「……?」
シユウよりも真っ白な髪で、けれど屈強な人々。人間にもあんなに綺麗な白髪の人達っているんだなとそう思っていると、深く被られた帽子の下からどこかで見覚えのある顔が見えた。
はて? どこかで会っただろうか。不思議に思いながら、搬入作業を眺めていれば、別の所から話し声が聞こえた。
「まさか、人間と仕事をする事になるなんてな」
「ああ。なんか不思議だよな。生前はあれだけ恨んでいたというのに。生まれ変わってから、清々しい気持ちなんだよ」
「だなー」
(生まれ変わってから? どういう事だ?)
気になったシユウはその話をしていた男達に話しかけようと近づく。
すると不意に肩を掴まれ、振り向く。そこには黒いスーツを着こなしたヒューガがいた。
どうしたのかと訊ねれば、ヒューガは口元に笑みを浮かべ、「ちょっと来い」と言った。
「来いって……なんだよ」
「いいから」
ヒューガもまた、シユウ達とはまた違う部で働いていた。空気も昔より少しだけ柔らかくなり、シユウに対しても優しさが見えるようになっていた。
だが、こんなに楽しげに誘われた事は今までになく、付いていきながらも、訝しげな様子でヒューガの背中を見つめていると、先程見かけた桜の木の業者の人達が立っていた。
彼等もまた白い髪をしており、近づくにつれその顔が見えてくると、シユウの表情が驚きに満ちていく。
「もしかして……白龍族の」
「ああ」
「いやでも、白龍族は……」
「驚くのも分かるが、まずは挨拶してくれ」
「あ、ああ」
どういう事だと戸惑いながらも、シユウはヒューガに言われた通り、紹介された人物に挨拶をする。
するとそちらも気づいたようで、瞬きすると柔らかく笑んで「お久しぶりです」とソメイは言った。
「驚いたでしょう? 何故ここにいるかって」
「は、はぁ……。えと、これって……」
「夢じゃないですよ。現実です。と言っても、私達も最初は現実かどうか疑っちゃいましたけどね」
そう言ってソメイはにこりと笑う。長という重圧からも解放され年相応な表情を見せると、シユウもまたつられて笑う。その後で、シユウはヒューガに問いかけた。
「いつから知ってたんだ」
「一ヶ月前だ。いきなり沢山の移住民が来たと話を聞いてな。受付に顔を出してみれば彼らがいた」
「そんな前から」
何で早く知らせなかったんだと視線で訴えれば、ヒューガは溜息混じりに「仕方なかったんだ」という。
「こちらとしても混乱していたし、先ずは彼らの居住を確保するのが先だったからな。しかし、まさか他の龍族もやってくるとは思わなかったが……」
「他の龍族?」
「ええ。実をいうと、私達白龍族以外にも他の龍族の皆様がいるんです」
「!」
紫色の瞳を丸くした後、シユウは口を開く。
「じゃあ、もしかしてツバメとカラスも……」
「いるかもしれませんね。私達も今探している途中です。そうだ。良ければ一緒に探しませんか?」
案外近くにいるかもしれない。そう言ってソメイが提案すると、シユウは頷く。と、そこで先程の式典の事を思い出す。
(さっき見たあの姿。まさか、本当に……)
固まったシユウに、ソメイやヒューガはキョトンとするとそれぞれシユウに声を掛けた。
一向に返事のないシユウに、ソメイが面前で手を振れば、シユウは顔を上げソメイに言った。
「俺、さっきツバメを見たかもしれない」
「えっ」
「見たって、一般人の中にか?」
「ああ」
「……分かった。俺も探す。お前はその一般人のいた場所へ向かえ」
ヒューガに言われシユウは頷く。ソメイも別の方を探すと言うと三人はそれぞれ違う場所へ向かった。
人々が協力して楽しげに一本ずつ植える中、その人混みをすり抜けながらステージの方へと走っていけば、丁度見にきていたラクーンやコムギ達の姿があった。
生まれた子どもを抱きながら、燕寺と三人で話していた所にシユウが走ってやってくると、三人は吃驚してシユウを見つめる。
「ど、どうかしたのシユウ」
「何かあったんですか」
燕寺とラクーンが訊ねれば、息を切らしながらもシユウはツバメ達を探している事を話すと、素っ頓狂な声を漏らす。
燕寺に至ってはまたかと少し呆れてもいたが、シユウの真剣な眼差しにつられて、燕寺も真面目な表情を浮かべると訊ねた。
「本当に、見たの?」
「……ああ。さっき」
「さっき……式典の」
それを聞いて、燕寺は式典でのシユウの怪しげな仕草を思い出す。真面目な顔が崩れそうになったが、堪えて燕寺は話を聞き続ける。
すると、同じく傍で話を聞いていたコムギが声を震わせながら、シユウに訊ねた。
「ツバメが……いるの?」
「……シユウ様、確証は」
動揺するコムギを気にかけながらも、ラクーンも訊く。
シユウのツバメに対する想いの強さは分かっているものの、妻であるコムギとツバメの仲もあり、彼女を気遣っていた。
そんなラクーン達に、シユウは少しだけ冷静になると、はっきりと「ある」と答えた。
「先程、白龍族の人達に出会った」
「!」
「え、本当に……会ったの?」
「会った。ヒューガに案内されてな」
「……」
それを聞いて三人は顔を見合わせる。
シユウの話を聞いても尚、まだ信じられない部分もあったが、シユウの表情を見て三人もまたシユウに誘われるようにツバメ達を探す事にした。
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