【6-2】
ツバメが溶岩に青い炎を吐き続けた事で、完全に溶岩が止まった頃。噴火の勢いも弱まり、火口から水蒸気だけが上がっていた。
来た道を戻り、ヒューガ達のいる東側の外輪山へと飛んでいくと、火山灰や雲の隙間から夜空が見えた。
「もう夜だな」
「だね」
「身体は大丈夫なのか?」
何度もあの青い炎を吐いているだけあって、身体の方は大丈夫なのかとシユウが心配すると、ツバメは小さく笑う。
「大丈夫……かな」
「無理はするなよ」
「分かってる。でも、あと少しだから」
そう言うツバメの視線の先には外輪山が目に入る。火の手がそこまで来ていないのもあって、沢山のススキが風に揺れていた。
距離を詰めると、ススキの原に挟まれた道にヒューガ達の姿を見つける。ヒューガ達もツバメの姿を見つけ、立ち止まった。
「ツバメ。あそこに降りよう」
ヒューガ達の近くにある草原をシユウが指差すと、ツバメは言われた通りにその草原を目指す。
その時だった。乾いた音が辺りに響くと、ツバメは悲鳴を上げ落ちていく。
突然の事にシユウ達も驚きつつ、共に落ちていく。その中で燕寺は外輪山の外にいる軍を見つけ、目を見開いた。
(しまった……そこにも軍がいたのか)
忘れかけていた軍の計画を思い出すももう遅かった。すぐ下にあった森が緩衝材となり、ツバメ達を受け止めるが、それでも尚ツバメは酷く地面に身体を打ちつける。
燕寺は木の枝に引っかかるが、コムギとシユウはツバメの上に落ちていた。
「皆……!」
枝で切り傷を負いながらも何とか地面に降りると、微かにシユウが起きて顔を上げる。
「シユウさん!」
「っ……大丈夫だ。少し折れただけだから」
「折れたって……」
シユウが押さえていたのは脇腹だった。落下の衝撃で肋骨を痛めたらしい。
シユウを心配しつつも、今度はコムギが目に入り名前を呼びかける。すると、瞼が開きゆっくりと身体を起こした。
「ツバメ……は」
「ツバメ、さんは」
周囲を見渡した後、ぐらりと揺れた事でコムギはツバメが下にいる事を理解すると、すぐにツバメの背から降りる。
コムギもやはり無傷では済まなかったようで、左腕を押さえながらもツバメの顔の所までやってくると、顔を撫でながらツバメの名を呼び続けた。
燕寺もシユウを支えながらツバメから降りると、ツバメを気にかける。硬く閉ざされた目が微かに開き、身体を起こすも、すぐに伏せてしまう。
「つ、ツバメ……っ」
「コムギ……大丈夫? 怪我してない?」
「……うん。私は大丈夫。だけどツバメが」
痛む左腕を背に隠しながらも、コムギはツバメを不安げに見つめる。
ツバメは笑みを浮かべるも、すぐに顔を顰め辛そうに息をする。
と、シユウが傷を見つけたのか、よろけながらも右前脚のの方へ向かう。鱗や皮膚に傷は付いていないものの、内側で骨がやられているのか、大きく腫れていた。
ツバメは右前脚に体重を掛けないように、何とか身体を起こすと、前脚を引き摺りながらシユウに近づいた。
「シユウ……ごめん、怪我させちゃった」
「大丈夫だ。お前は悪くない。それよりもお前こそ痛いだろそれ」
「痛いけど……大丈夫だよ……」
そう弱った声で言うと、シユウは手を伸ばしツバメの顔を撫でる。しばらく撫でられるとシユウからコムギへと顔を動かした。
「コムギ、腕」
「っ、大丈夫。そんなに酷くないよ」
コムギは笑って言うがツバメはすぐに気付くと、燕寺を見る。
「燕寺さん」
「うん。任せて」
自分では手当てできない為、燕寺に頼むと彼は快く頷く。シユウも自分が身につけていた羽織を燕寺に投げ渡すと、それを裂いて、コムギの腕に巻く。
「だ、大丈夫……っつ」
「無理しないでください。悪化すると、後に響きますから」
「……」
そう言われ、コムギは黙ってしまう。長い耳はずっと倒れたままでじっと燕寺の手当てを見つめていると、ツバメはどこか落ち込んでいた。
その表情にシユウは「どうした」と声を掛けると、ツバメは小さく笑って言った。
「今更になって、後悔しててさ。人の姿だったら、今すぐにでも手当てに行けるのにって」
「……」
シユウは眉を下げると、ツバメから目を逸らす。
(ツバメはここにいるのにな……)
ツバメはまだ生きているというのに、まるで胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちだった。
戻れるならば今すぐにでも戻ってほしい。けれども、その考えは、今のツバメを認めていないようで嫌だった。
(それに、こうして話出来るのも後少しなんだよな)
考えたくもないが別れの時は刻々と近づいて来ている。もっと話もしたいし、世話になった集落の人々とも話をさせたい。それなのに、そんな貴重な時間を邪魔された事に、シユウは再び郷田に対して怒りを抱いていると、ツバメがシユウ達に話しかける。
「もう一度空を飛ぶから。背に乗って」
「ツバメ……けど」
コムギが不安げな表情を浮かべる。
ツバメの怪我も決して軽くはないが、ツバメは困った様に笑って、「足だけだから」と返した。
「それに、皆と最後に話したいし」
「……だな」
ツバメの言葉にシユウは頷く。無理はさせたくはないが、ツバメの気持ちを尊重させてあげたかった。
燕寺も賛同するが、一つ提案を持ち出した。
「山壁に沿って上がれますか?」
「山壁に沿って?」
「はい」
「そういやさっきの攻撃は、外輪山の外側からだったな。そこに軍がいるのか?」
「恐らくは」
空に上がれば、的となり再び撃ち落とされる可能性がある。しかし山の壁に沿って登れば、黒い鱗や木々によって見つけられにくいかもしれない。
そう燕寺が説明すれば、シユウは納得しツバメも頷く。
(前に白龍族に襲われた時も、道に沿って進んでいたな)
シユウと出会ったばかりの頃を思い出しながら、ツバメは三人が背に乗った事を確認すると、地面を踏み込む。そしてそのまま地面を蹴ると、僅かにだが宙に浮かび、道に沿って進む。
木々が当たり掠れる痛みはあるが、我慢して道を進むと、一気に外輪山の壁をうねりながら沿って飛ぶ。
燕寺は片腕の使えないコムギを支えながらも、シユウと共にツバメにしがみつくと、近づく空を見つめた。やがて木々の隙間からツバメ達は抜け山頂付近に辿り着けば、ツバメは滑る様に着地する。
「ったた……」
「ツバメっ」
「大丈夫大丈夫……でも何とかついたね」
心配するシユウに、ぼろぼろになりながらもツバメは笑う。
怪我した前脚を庇いながらも、頭を上げるとツバメは目を開いた。
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