蓋…

〈ミア視点〉










ミドリ「じゃあ、行ってくるよ」






自分の口の端に力を入れてニッと微笑み

「はい」と頷いて遠くなっていく背中を見つめた







( 2時間かな… )







クルッと向きを変えて

スタスタと私が足を向かわせたのは

良く使われる来客用の待合室だった





蓮の池や奥の間へと続くあの場所に立っていると

また…蓮君に会ってしまうんじゃないかと思い

もうずっと、人の目のあるこの場所を選んでいた






もう10月半ばになろうとしているのに

なかなか紅葉へと切り替わらない

庭の木をぼーっと眺めながら

翠さんが出て来るのを待っていると

お手伝いさん数人の「不憫よね」と話す声が耳に届いた






「・・・・・・・」






きっと…

私の事を言っているんだろう…





仮にも身内となるのに

奥の間へとは進めず…

こんな…待合室にいる私をみて…






レン「幸せ?」







もし今…蓮君にそう問いかけられたら

私はなんて答えたのかな…







( ・・・・・・ )







もし…もしも、あの日…

翠さんに抱かれなかったら

私は、間違いなく蓮君に会いに行っていただろう…






変わる事のない景色に小さくため息を溢して

お腹に手を当てながら「パパか…」と呟いた…






蓮君が私に〝秘密〟をくれたあの日

彼は避妊をしていなかった…

夫である翠さんとは

もうそう言う行為をずっとしていなかったし

万が一妊娠などしてしまったら大変な事になると考えた私は

アフターピルを処方してもらおうと思っていた…





だけど、その日の深夜に

私は翠さんから抱かれ…

彼も、避妊をしなかった…







( ・・・・・・・ )








翌日…

アフターピルを買いには行かず

私はこの秘密に蓋をしようと思った





翠さんと蓮君は同じ血液型で

気づかれる事はないだろうと思ったし…

家政婦である私の…

心のよりどこりが欲しかったから…






勇逸の…

確かな家族の形が欲しかった…







「悪いママだね…」







お腹へと顔をむけてそう呟き

もう3週間以上遅れている生理の事を考えた





妊娠しているのは多分間違いないだろう…

だけど、誰が父親なのかは…

全く分からない…






「しっかり…泥の中だな…」






蓮君の言う通り…

私は、泥の底に足をつけてしまったのだろう…









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hi-mitsu みゅー @myu0226

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