深夜…

〈ミア視点〉










レン「ミア…」







暗い部屋の中で

台風の雨風の音を聞きながら眠れずにいると

10時間程前に一緒にいた蓮君の声が聞こえた気がした…






( ・・・・・・ )






隣りで規則正しい寝息をたてている翠さんに背を向け

自分のお腹に手を当てながら

声には出さずに唇だけ「蓮君」と動かしてみると

ゴーっと強い風の音が耳に聞こえ…






「雨の音が隠してくれるよ」と言って

口元に当てていた手をスッと退かされた事を思い出し

私の頭の中は益々10時間前の

あの部屋の記憶で一杯になった






「・・・・・・」






何となく…

後ろにいる翠さんを感じたくなくて…

音を立てずにベッドからそっと抜け出し

リビングへと歩いて行きながらも

私の右手はずっとお腹に添えられている





ピッと部屋の照明をつけると

明るくなった視界に一瞬目を細めたけれど

足を冷蔵庫へと向かわせた






冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出し

コップへとコポコポと注いでいき…

ふと…目の前にある小さなカレンダーへと目をとめた







「・・・病院…」







そう呟いた瞬間ガチャッと

リビングのドアが開かれハッとして

顔を向けると翠さんが立っていた






「あっ……喉が…乾いて…」






何も問いかけられてもいないのに

そんな事を口にする程

今の私は後ろめたく…





彼にとっての家政婦だと自覚してしまったせいか

益々、彼に対して一歩退いてしまっている…







ミドリ「僕も一杯貰おうかな」






翠さんも喉が渇いたのかと思い

コップを取り出し麦茶を注いでいると

いつもはリビングのソファに座って待っている筈の彼が

コッチに歩いて来たからビクッと身体が揺れた







「・・・・あっ…」






ミドリ「・・・・・・」







そんな私の態度に足を止めて

私をジッと見ている翠さんに「すみません」と謝ると

彼はスッと手を伸ばし私の手にあるコップを取り

ゴクゴクと飲みだした






麦茶を飲み干すと

私にまたコップを差し出して来たから

「あっ…はい…」と掠れる様な声で受け取り

顔をキッチンへと向けて彼が寝室へと戻るのを待っていた






翠さんは直ぐにリビングのドアの方へと歩いて行き

内心ホッと安心していると

「早くキミも寝室に戻るんだ」と聞こえ

ゾクリと…嫌な悪寒の様な物を感じた…






( ・・・寝室に… )






返事をせずに固まったままでいると

「美亜」と翠さんに呼ばれ

「はい…」としか答えられなかった…






飲みかけのコップをキッチンへと置き

狭い歩幅で翠さんの元へと歩いて行くと

彼はスタスタと寝室へと歩いて行ってしまい

とても…夫婦だとは感じられない…






きっと…

ただ眠るだけならば私を呼んだりしない…

つまり…

彼はそういう事をしようとしているのだろう…





普通ならば、それなりの甘い言葉や甘い雰囲気をつくり

一緒に寝室へと戻るのだろうけど

私達にはそんな物はなくて…






なんの為に今からその行為をするのかも

分からないまま

重い足取りで彼の後を追った…












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