事故に遭うんだろうなぁ
あぁ、ここで靴を変えたせいで事故に遭うんだろうなぁ。
そんなことを思ってから私は玄関を出る。毎朝だ。
昨日はスマホを忘れて戻ったから。一昨日はエアコンを切り忘れていたから。
事件や事故というのはほんの些細な時間のズレにハマって巻き込まれてしまう。いくら注意していようと回避できないものもある。まさかこんなことになるなんて、と皆口を揃えて言う。誰も自分が巻き込まれるなんて思っていない。そんなものだ。
私の人生は昔から思うようにいかなかった。欲しかったおもちゃは買ってもらえなかったし、行きたい高校にも行けなかった。部活では無理矢理部長をやらされたし、第一志望の企業にも落ちてしまった。旅行に行く日は雨になり、好きになった人には振り向いてもらえなかった。
いつしか私は自分の人生に期待しなくなった。期待したところでどうせ思うようにはいかずに落ち込んでしまう。それなら最初から無理だと思って生きていた方が楽なのだ。
そう思い初めてから不思議なことに自分の人生は少しだけうまくいくようになった。仕事で怒られることもなくなれば、旅行の日に晴れるようにもなった。なんとなく申し込んだ懸賞には当たり、人生で初めての告白もされた。
私はそこで気がついたのだ。自分の思い通りにならないのであれば逆に常に悪いことを考えておけば良かったのだと。期待したことが起こらないのであれば、期待しなかったことが起こる法則があるのだと。
現に私は、どうせ上司に怒られるんだろうなと常に考えていたし、明日はどうせまた雨が降るのだろうと考えていた。懸賞にも外れると思って申し込んだし、気になっていた人も私に興味がないものだと思っていた。
もっと早くに気がつけばよかった。運命が私にしてきた意地悪を逆手にとればよかったのだ。それはまるで北風と太陽のような話で、私は起こって欲しいこととは逆のことを考えるようになった。
毎朝自分が事故に遭う妄想し、上手くいないだろうと思いながら仕事もしている。運命は私が嫌がると思ってそれとは真逆のアクションを起こしてくる。ようやく私は運命を手玉に取れたのだ。。
おかげで私の人生はうまいこといっている。明日は懸賞で当たったハワイ旅行だ。ワクワクが止まらず眠気が来ない。それはそうだ。初めての海外旅行に初めての飛行機だ。高所恐怖症なので飛行機は特に緊張する。映画みたいに墜落しないといいなぁ。
サクッと読める短編小説 コウイチ @kouichitv
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