第50話

 朝の遠乗りの行き先は、到頭ソニの村から行ける最後の町、ギベになる。


ソニの村から北東より、馬を飛ばして約1日程の距離だ。


1時間走った後、乗馬スキルが3になったことを喜び、転移で村に戻る。


遠乗りの間ずっと、頻繁に回復魔法を掛けながら走らせている愛馬は、その筋肉量も増え、厩舎の他の馬より一回り以上大きい。


私が買い取った後、今までよりも飼い葉の質を高めてくれたカナエのお陰でもある。


まだ4歳だから、今後も長くお世話になるだろう。



 迷宮の7階層にゼマを連れて跳ぶ。


ここの魔物は魔法に弱いので、今の彼女なら1人でも大丈夫だ。


「あの亀には魔法だけで戦った方が早いよ?

首も弱点だから、MPが心許なくなったら、回復するまで武器でそこを攻撃してね。

回復薬の予備はまだある?」


「はい。

ほとんど使っていないので」


彼女と別れ、リーシャとミーナを28階層への階段まで連れて行く。


3人で階段を上り、宙を舞う大型の魔物に<特殊鑑定>を用いる。


『ガルーダ。個人推奨ジョブレベル42。風魔法レベル3を用いる。ドロップ品はノーマルが魔石、レアが風の弓』


今回はちゃんと名前の部分をタップする。


『HP:4000。MP:120』


う~ん、まだどのくらい強いのかよく分らない。


ただ、風魔法レベル3は、4発しか打てないみたいだね。


「天井が高いけど、矢が届かないほどではないわね。

7、80mくらい?」


ミーナが上を見上げて言う。


「普通の矢じゃ傷も付かないのではないかしら?

少なくとも魔法による補助は必要ね」


「風魔法レベル3を使うみたいだけど、最大4発だから何とかなるね。

試しに火魔法を当ててみる」


上空30mくらいの所を飛んでいる1体に、火魔法レベル7を放つ。


「あ、1発で消えた」


魔石が自分に吸い込まれる。


「じゃあ次はレベル5で」


今度も1発で済む。


「う~ん、HPは4000みたいだけど、大した事ないのかな」


それとも、あのスケルトンキングが強過ぎたのか。


「え?

HPが分るの?」


リーシャが驚いている。


「うん。

名前をタップすると表示されない?」


「・・されないわね。

鑑定スキルがBでは駄目みたい」


「今度はレベル3で攻撃してみるね」


やはり1発で済む。


【賢者】や【魔法使い】のレベルが高いせいだろうか?


2で攻撃すると、やっとまだ生きていた。


『HP:200。MP:120』


「ミーナ、風魔法でお願い」


こちらに向かって来る手負いの相手に、彼女がレベル2の風魔法を放つ。


何も落とさず消える魔物。


「・・何か効率悪そうだね。

今日は私、10階層でカナエ達の手伝いをする約束だから、悪いけど26階層で戦っててくれる?

ここは明日私が無双した方が早いもの」


「良いわよ」


「ごめんね」


「お昼には戻って来るの?」


「うん。

今日1日は彼女達に付き合ってあげるけど、ゼマの様子も見に行くし、お昼は2人と一緒に食べる」


「今日のおかずは合挽きハンバーグと温野菜だから」


「楽しみにしてるね」


2人を26階層に送り届け、6階層で時間を潰して貰っていたカナエ達を迎えに行く。


「お待たせ。

じゃあ行こうか」


3人で10階層の門前に跳ぶ。


「フロアボス戦はね、他の階みたいに逃げることができないの。

一度戦い始めたら、相手を全滅させるか自分達が死ぬまで外に出られない。

だから入るなら、十分に力を付けたと思った時にしてね。

今日は私がいるから大丈夫だけど、いない時にはしっかりと考えてね?」


「「はい」」


「ドロップ品は良い物ばかりだし、折角だから狙いたいよね?

3体の敵の内、真ん中のハイゴブリンは私が倒してアイテムを稼ぐから、2人はその左右にいる敵を攻撃して。

・・準備は良い?」


「大丈夫です」


「はい」


「今日は1日付き合うから、しっかり稼いで帰ろうね」


この日だけで何十周にも及ぶ周回戦が始まった。



 夕方6時、公衆浴場の浴槽の中で、ゼマとカナエ達のステータスウインドウを覗き、見たい箇所を調べる。


______________________________________


氏名:ゼマ


ジョブ:{☆【魔法使い】5 ☆【戦士】3 ☆【便利屋】5 【剣士】8}


______________________________________


______________________________________


氏名:カナエ


ジョブ:{☆【騎士】9 ☆【戦士】9 【槍使い】24 【斧使い】20}


スキル:<PA:盾2>


*ユニークスキル:<PO:努力D> <PO:根性F>


______________________________________


______________________________________


氏名:サナエ


ジョブ:{☆【騎士】5 ☆【戦士】5 【槍使い】17 【斧使い】15}


スキル:<PA:盾2>


*ユニークスキル:<PO:根性F>


______________________________________


カナエとサナエにユニークスキルが付いてる!


しかもカナエは<努力>まで上がってる。


盾のスキルも2になってるし、彼女達の努力がちゃんと実ってる。


思わず顔の表情が綻ぶ。


<根性>は、HPが0になった時、ランクに応じて1に戻る確率が高くなるスキルだ。


その確率は、Fなら5%、Aで30%になる。


この時点での夏海はまだ知らないが、ユニークスキルはそうそう増えるものではない。


後天的に取得できるのは、<アイテムボックス>がせいぜいなのだ。


では何故かというと、その秘密は夏海のパーティーにある。


【女神の使徒】の効果により、夏海のパーティーは彼女を除いて最大5名までその恩恵を受けられるのだが、実は隠された効果として、そのメンバー達はユニークスキルが付与され易いのだ。


尤も、無尽蔵にという訳ではなく、ユニークスキルを沢山持っている者ほど、新たに付与される確率は低くなる。


また、これと同様に、彼女のパーティーメンバーは、普通ならほぼ上がらないユニークスキルのランクも上がり易い。


そしてこれも、そのランクが高くなるほど上がり難くなる。


ユニークスキル自体、その存在を他者に隠しておくことが多いため、それが増えたり上がったりということの異常性が、元王女で秘蔵の文献を閲覧できたリーシャにすらよく理解されていないのだ。


念のため、夏海はステータスに関することを皆に口止めしてはいるが、世に知れれば大騒ぎになること必至である。


「カナエとサナエにユニークスキルが付いてるよ。

頑張っている甲斐があるね」


周囲に自分達以外の客がいないことを確認し、近くでのんびり湯に浸かっていた2人に囁く。


相変わらず、ここの浴場には客がほとんどいない。


洗い場にも、リーシャとミーナ、ゼマ以外、2人しかいなかった。


「「!!!」」


「分っていると思うけど、増えたことは、なるべくなら家族にも内緒にしておいた方が良いよ?」


「はい」


「・・本当に私にもユニークスキルがある」


サナエが呆然としている。


「カナエは、あと少しで<アイテムボックス>も取れそうだね」


「全て夏海さんのお陰です。

こんな短期間でここまで強くなれるなんて・・」


「そうなれる条件が揃っていても、本人が努力しなければ何も変わらないの。

あなた達2人は凄いのよ。

そのやる気も、根性もね。

・・明日はギルドに行って、ランクを上げて貰おうね」


「・・夏海さんにそう言っていただけて、嬉しいです。

ありがとうございます」


カナエ達は、流れ出る汗と涙を、そっと湯で洗い流した。



 ソニの村の村長宅で、本日のドロップ品をテーブルの上に並べる。


「今日は私がずっとこの2人に付いて、10階層のフロアボス戦をしていました。

これはその戦利品です。

私の取り分は結構ですから、村で使ってください」


銀板15枚、魔鉱石18個を目にした村長夫妻が目を丸くする。


「・・これは銀でしょうか?

こちらは何だか分りませんが」


「銀板と魔鉱石です。

ギルドに持参すると、銀板なら2000ギルで買い取ってくれます。

魔鉱石は売ったことがないので分りませんが、町の鍛冶屋に持参した際は、1個で3000ギルの料金と同じ価値でした。

普通の鍛冶では修復できない物や、特殊な装備を作るのに必要になります」


「!!!

・・1枚2000ギル、こちらは3000ギルですか」


村長以外の、この場に居る3人も驚いている。


「さすがに全部は頂けません。

半分も頂ければ十分です。

それから、できましたら夏海様の方で換金していただけないでしょうか?

何分、村での使い道もありませんので・・」


「換金するのは構いませんが、本当に半分で良いんですか?

今の村には資金が必要なのでは?」


「この達だけでは、きっとこの10分の1も得られなかったでしょう。

夏海様の1日を、全く無駄にする訳には参りません」


夏海は少し考える。


「この村の馬は、どうやってその数を増やしているのですか?」


村の厩舎には、夏海が買い取った馬の他にあと4頭ほどいて、現在はその厩舎を増築している最中だ。


「最初は偶然見つけた野生の馬を捕らえていたのですが、今は雌雄揃っておりますので、繁殖させようと考えております」


「でしたら、私の馬にもその機会を与えてくれませんか?

良い牝馬が1頭いるので、前から気になっていたのです。

勿論、順番待ちで構いません。

種付け料は1回1万ギル、それを2回分で2万ギル。

生まれた仔馬の飼育料として、2年間で1頭につき1万ギル支払います。

如何でしょう?」


「夏海様の馬はとても立派なので、こちらとしては願っても無い事ですが・・」


因みに、夏海の愛馬は雄である。


毎朝厩舎で見かける、かわいらしい1頭の牝馬を鑑定した彼女は、密かにその馬を気に入っていた。


「ではそれでお願いします。

今日の戦利品の合計金額が8万4000ギル。

その半分をお支払いして4万2000ギル。

種付け料と飼育料の前払いで4万ギル。

残りの2000ギルは、カナエさんとサナエさんに1000ギルずつ差し上げます」


テーブルに並んでいた品を全て回収し、代わりに金貨8枚と銀貨40枚を置く。


カナエ達の夕食も序でに出して、その日はそれで村を後にする。


門の前で転移するまで、村長夫妻とカナエ達が、いつまでも頭を下げていた。

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