第47話
ソニの村からタゴヤの町へ向けての遠乗りは、その中間地点にある村を通り過ぎ、あと2回程で済む所まできていた。
村の土木作業は急ピッチで進み、既に1万坪以上の更地ができている。
カナエ達がここ数日で持ち帰った魔石によって潤った村は、共同浴場での入浴回数を一時的に週2度に増やし、その残り湯の一部を洗濯に用いることで、住人達の衛生管理をし易くするようにした。
身奇麗になって、それまで以上に労働意欲が涌いた女性達は、折角上がった生活の質を落としたくない一心で、夏海が提案した矢の製作に真剣に取り組んだ。
土木作業によって伐採された、まだ若い雑木の枝葉を切り落とし、小枝や葉の部分は焚き付け用に、それ以外はある程度の長さと太さに切り分け、矢の材料に加工する。
熟練に達するまでの矢は、売り物ではなく、夏海達や村人達の練習用やジョブ獲得用に用いることにしてあるため、矢を100本の束にしたもの1つを、500ギルで夏海が買い取ることにしてある。
その際、おまけとしてリトルボアの肉500gを付けると言ったら、皆喜んでくれた。
今朝もカナエ達を連れ、迷宮の9階層に連れて行く。
6階層のスケルトンでは相手にならないので、7、8階層は飛ばした。
最初の1、2戦だけ様子を見て、問題ないようなので彼女達と別れる。
転移で家まで戻り、ミーナとゼマを連れ、ギルドに顔を出す。
「こんにちは。
この
顔馴染みの受付嬢に、ゼマの登録を申し出る。
「かしこまりました。
登録料と、この方の身分証、夏海様のギルドカードのご呈示をお願い致します」
受付カウンターの上に、銀貨1枚と、神殿に出向いた際、ゼマが女神様から授かった身分証、私のギルドカードを載せる。
2分もしないで手続きが完了する。
彼女にお礼を述べ、その足で迷宮の1階層に入った。
「先ずはゼマを私のパーティーに入れるから、承認してね」
彼女に加入申請を送り、その返事を確かめる。
「次はジョブ設定をするね。
メインとサブの2つは、人に見られても良いものにしておくから」
昨夜、ゼマにも私の秘密を粗方教えてある。
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氏名:ゼマ
人種:ダークエルフ
性別:女性【処女】
年齢:14
*スタイル:160・84(D)・54・84
地位:奴隷
所有奴隷:なし
ジョブ:{【森の民】1 ☆【魔法使い】1 ☆【便利屋】1}
HP:1290
MP:2090
スキル:<PO:気配察知D>
*ユニークスキル:<PA:開錠B> <PA:アイテムボックスD> <PA:特殊鑑定D> <PO:罠感知C> <PO:全状態異常耐性B> <PO:学習B>
魔法:【火魔法】2 【水魔法】2 【隠密魔法】4
生活魔法:【浄化】3
状態:異常なし
*感情・気分:親愛 信頼 意欲増大 忠誠
犯罪歴:なし
*所持金:0
現在地:第7迷宮1階層
______________________________________
「これで良し。
ゼマにも働いて貰う以上、リーシャ達と同額のお給料を支払うから。
これは今月分の7万ギル。
ここのトイレは有料の方を使ってね」
「いえ私は・・」
「奴隷だからといって、只で働かせるつもりはないの」
皆まで言わせずに口を挿み、その手に金貨7枚を握らせる。
「それから、この階層では剣と盾を使ってね。
戦闘は全くの初めてなんだよね?」
「はい。
・・済みません」
「謝る必要なんてないよ?
今日はここで1人で戦って貰うけど、何かあったら念話で知らせてね」
昨夜の内に、彼女との魔力通しは済ませてある。
鉄の剣と鱗の盾、HP回復薬5本とお弁当を彼女に渡して、自分達も25階層に跳んだ。
「とりあえず、見えてる敵を倒したら、26階層に行くね」
少しでもHP回復薬を稼ぐべく、階段付近の半径1㎞内にいる50体に火魔法を連発する。
その後進んだ26階層には、これまでとは異なる性質の敵がいた。
『ウオーターエレメント。個人推奨ジョブレベル38。水魔法無効。弱点は土属性。ドロップ品はノーマルが魔石、レアが金貨1枚』と<特殊鑑定>に表示される。
「フフフッ」
「あ、また夏海のお気に入り登録が増えた」
「リーシャ、頑張ってね」
「はいはい。
夏海と違って、そんなにドロップしないけどね」
「私はどうしようかしら。
この相手、あまり物理攻撃が効かなさそう」
「それなんだけどね、私、【魔法使い】がレベル30を超えたから、専用技を1つ使えるようになったの。
具体的には付与魔法ね。
自分が使える魔法属性しか駄目なんだけど、その斧に火属性を付けてみる?
水属性相手には威力が減少するけど、只の物理よりは良いんじゃないかな」
「そうね、じゃあお願い」
「分った」
ミーナが差し出した鉄の斧に、火属性を付与する。
「効果は元の魔法レベルに
私の場合、火魔法はレベル7だから、1回の付与で70分持つよ」
「何度も掛け直す必要がなくて助かるわ」
「じゃあ始めよう。
今日中には階段を見つけたいし」
その後お昼まで、ひたすら先に進んだ。
『カナエ、そっちは大丈夫?』
お弁当を食べながら、彼女に念話を送る。
『はい、大丈夫です。
ただ、ドロップ品が
『ああ、そこは剣と盾が落ちるものね。
もしかして鱗の盾が落ちた?』
『残念ながら、まだ鉄の剣が6本だけです』
『フフッ、じゃあ午後に期待だね。
あと10分くらいでそっちに行くから』
『ありがとうございます』
次にゼマに念話を送る。
『ゼマ、どう、何とかやってる?』
『はい、夏海様。
お陰様で大分コツが摑めました』
『何か落ちた?』
『石鹼が10個と歯磨粉が3つ落ちました』
『・・短時間に大分落ちたね。
何体くらい倒したの?』
『ギルドカードには、383と記載されています』
『・・随分頑張ったね。
もしかして、【剣士】のジョブが取れてない?』
『・・ありました』
『おめでとう。
設定を変更しに行くから、少し待ってて』
『はい』
丁寧に、でも
「ご馳走様。
ちょっとあの娘達の所まで行ってくる」
「お粗末様でした」
器をミーナに返却し、お茶を一口飲んで転移する。
カナエから剣を預かり、ゼマの下へ跳ぶ。
「お待たせ。
早速始めよう」
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氏名:ゼマ
ジョブ:{【森の民】4 ☆【魔法使い】2 ☆【便利屋】2 【剣士】1}
HP:1470
MP:2270
*所持金:6万9980ギル (内訳非表示)
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やはり成長が速い。
彼女の持つ学習スキルは、物事をする際の効率化を図り、成長速度を速める、<努力>の上位版スキルだ。
「これなら直ぐ強くなるね。
盾を使って欲しいから、午後から2階層に進もう。
ゴブリン相手だけど、今のゼマなら楽勝だと思う」
「分りました」
彼女も既に食事を終えていたので、そのまま転移で2階層へ連れて行く。
「今度はこの槍で戦ってね。
戦闘基本職を3つ取れば、【戦士】が手に入るから。
その剣はあなたのアイテムボックスに入れておいて、好きに使って良いよ」
「ありがとうございます」
「少し様子を見ていようか?」
「いえ、大丈夫です。
集団で襲われそうになったら、火魔法で焼きますから」
「もう戦うのは怖くない?」
「はい。
私は水月家のメイドです。
夏海様に恥ずかしい思いをさせる訳には参りません」
「いやいや、私は平民だから」
「それは形だけです。
本来のあなたは、国王以上の存在なのですから」
「この国の地位や身分なんて、私にはどうでも良いの。
大事なことは、女神様に与えられた役割を果たし、私の家族を守り、仲間を手助けすることだけ。
だからあなたがそこまで気負う必要はないのよ?
決して無理をしないでね?」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「それじゃあ頑張ってね」
私もまた、自分達の戦いをするべく、26階層に戻った。
夕方5時45分。
他の階層にいるカナエ達とゼマを拾い、迷宮を出る。
皆で公衆浴場に行き、その後、リーシャ達には先に帰って貰って、カナエ達を村に送る。
「今日の戦果は鉄の剣14本だったよね。
はいこれ。
村長さん達も喜んでくれそうね」
「ありがとうございます。
これからのこの村には、自衛のための、ある程度の武力が必要になってきますから。
村に居る若い人達には、剣か弓の練習をさせようと話し合っているところなんです」
「良いと思うわ。
乗馬も合わせれば【騎士】が取り易くなるし、結局のところ、自分達が強くならなければ、何も護れないから」
2人に夕食用の食べ物を渡し、村を後にする。
その足で、夜の迷宮に跳んだ。
迷宮の1階層から順に地図スキルを展開し、黄色い表示があれば倒しに行く。
今日は2階層に居たゴブリンキングを倒した後、3階層、4階層を見て回る。
4階層で黄色い表示を見つけ、近くまで転移する。
『エンシェントトレント。個人推奨ジョブレベル70。土属性無効。ドロップ品はノーマルがハイエーテル、レアが白金貨1枚』
<特殊鑑定>を使って調べた相手を前にして、ほんの少し考える。
行くべきか、退くべきか。
自分のステータスを確認し、危なくなったら転移で逃げることにして、火魔法が届くぎりぎりのラインからレベル7の魔法を連打する。
物凄い火力でぶち当たった魔法に、2発目も耐えた相手は、こちらに移動しながら幾つもの枝を鞭のように
転移で反対側に跳び、とにかく魔法を打ちまくる。
4発目で、やっと消滅した。
戦いが終わった跡には、白金貨が1枚と、今の戦いで巻き込まれたトレント達が落とした木材やトイレットペーパーが散乱していたが、直ぐに回収される。
先程のゴブリンキングが何も落とさなかったので、少しほっとした。
【女神の使徒】を得て、ジョブを10個も設定できる私は、HPやMPが凄い勢いで伸びている。
各ジョブの取得(設定)効果が相乗効果を齎し、実際のレベルを遥かに超える力を発揮できる。
ゴブリンキングも、もう強敵だとは感じられない。
あまり遅くなるとリーシャ達が心配するので、今日はこれで帰る。
家に帰ったら皆のステータスを調べることにして、そっと迷宮を後にした。
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