第43話

 翌朝7時30分。


ソニの村での日課を終えて、5人で迷宮に入る。


先ずはカナエ達を連れて6階層へ。


「昨日は結構ドロップしたのよね?

村長さん喜んでた?」


「はい。

お肉が6つも落ちたので、保存食を作るそうです。

そのお陰で、黒トリュフ2つ分は、私とサナエのお小遣いになりました」


「フフフッ。

今日の相手からはね、とても良い物が落ちるの。

それが何かは実際に確かめてね。

武器は何を使う?」


「私は剣でお願いします」


「私は斧で」


希望する武器と鱗の盾、お昼のお弁当を渡し、2人と別れる。


自分達はその足で24階層に跳び、昨日進んだ場所から戦い始める。


2時間もしないで25階層への階段を見つけ、さっさと上に進んだ。



 『食人花。個人推奨ジョブレベル36。弱点属性は火。伸びるつたと強酸入りの袋に注意。ドロップ品はノーマルが魔石、レアはHP回復薬』


眼前の敵を<特殊鑑定>で調べた私の顔が緩む。


「2人とも、今日と明日はここで倒しまくるわよ」


「同感ね。

HP回復薬は幾らでも欲しいもの」


「私、火魔法が7になったから、ちょっと1人で荒稼ぎしてくる。

何かあったら連絡してね。

お昼に一旦戻って来るから」


「了解」


「今日のお弁当は自信作だから、ちゃんと戻って来てね」


「勿論。

楽しみにしてるから」


レベル4に設定した火魔法を連発しながら、私はどんどん先に進んで行った。



 「え?

・・お金が落ちた」


「200ギルだね。

ノーマルとレアのどちらだろう?」


「どちらでも良いわ。

凄く嬉しいもの」


「私達のお小遣いの、4か月分だもんね」


「サナエ、ここは気合を入れるわよ」


「ええ。

稼げるだけ稼ぎましょう」


只でさえやる気に満ちた2人に、更に火がついた。



 「う~ん、美味しい。

白パンに挟んだお肉が絶妙。

ちゃんと歯ごたえがあるのに、口の中でとろける感じが堪らない」


「でしょう?

2日に渡って煮込んだから、結構大変だったのよ?」


「ありがとう。

これでまた午後から頑張れる」


「2時間でどれくらい倒したの?」


「400くらいかな。

ほとんど小走りで移動したし、固まっている時は5、6体を数秒で倒せるから」


「・・見ている人がいたら、きっと呆れたでしょうね」


「折角HP回復薬が落ちるのに、ほとんど人と会わなかった。

15㎞近くは進んだはずなのに」


「ここの敵、中々手強いのよ。

夏海みたいに火魔法が使えれば楽なんでしょうけれど、飛び道具もなしに剣や槍だけで戦うのは、相手にリーチがある分めんどうなの」


「そうなんだ?」


「それで、HP回復薬はどれくらい落ちたの?」


「・・まだ90。

今日だけであと300は欲しい」


「贅沢な悩みね。

普通の人は、1日に1つでも落ちれば大喜びなのよ?」


「稼げる時に稼ぐのが、私のモットーだから」


「夏海って、いつもそんな感じじゃない?

稼げない時なんてないでしょう?」


「良いの。

努力の結果を直ぐに目視できるのは最高なんだから」


「はいはい」


食後のお茶を飲んで、また戦闘を再開した。



 夕方5時30分。


カナエ達を迎えに行く。


「今日はどうだった?」


「1200ギルも落ちました。

後は魔石が3つです」


満面の笑みでカナエがそう告げる。


「おめでとう。

かなりの数を倒したんだね」


「はい。

2人で頑張りました」


「じゃあお風呂でさっぱりして帰ろう。

夕食は何が食べたい?」


「・・今日もお肉が良いです」


サナエと顔を見合わせて、遠慮がちに言ってくる。


「分った。

好きなの選んで良いよ」


風呂に入り、屋台で夕食を買って、2人を村に送り届ける。


自宅に帰ると、<転移>がDになっていた。



 翌朝、遠乗りから戻り、リーシャの様子を見に行く。


彼女のお陰で村の拡張作業は順調に進んでいて、2日前より3000坪くらい、新しい更地ができていた。


「へえ、短時間でかなり進んだね」


「ええ。

村の人達が朝までに余分な木を切り倒しておいてくれるから、私はそれらの切り株ごと土を掘り返せば良いだけだし。

この辺りは細い雑木しか生えてないから、序でに薪や矢の材料が手に入って嬉しいみたい」


「新しい井戸も要るね」


「そうね。

3つくらいは掘らないとね」


「結構大変?

MP回復薬を余計に渡しておこうか?」


「以前貰った分で大丈夫。

ジョブレベルがどんどん上がってるから、使わないでも何とかなるの」


「そっか。

じゃあ今日も沢山稼いでレベルを上げよう。

明日はお休みだからね」


「やっとお休みなのね。

1週間が凄く長く感じるわ」


「得してるみたいで良いでしょ?」


「そう感じるのは夏海だけよ。

ミーナだって、毎日回復魔法を掛けて貰わなければ、きっと朝起きるのが大変よ?」


「そう?

・・生活が落ち着いたら、もう少し休みを作ろうか。

今は戦闘力を上げるのが急務だからね」


「そうね。

暫くは仕方ないわね」


家の前で待っていたカナエ達を連れて、迷宮前へと転移した。



 「ミーナ、お待たせ」


今後、迷宮前で合流することにした彼女は、元同僚の1人と何かを話していた。


「あ、夏海、ちょうど良かった。

今少しだけ時間をくれないかな。

彼女の話を聴いてあげてくれない?」


「良いけど、何かあったの?」


「町の東側に、クエの村っていう、少し大きい村があるんだけど、そこで最近夜盗が発生するみたいなの。

騎士団に捕縛要請があったらしいんだけど、あの団長が・・」


「ごめん、カナエ達は先に入ってて。

昨日と同じ6階層なら、入り口の転移魔法陣で行けるから」


「はい!」


何だか嬉しそうな彼女達に、装備とお弁当を渡して、先に行って貰う。


「詳しいお話を伺っても宜しいですか?」


ミーナと話していた女性にそう尋ねる。


「ありがとう。

少しこちらに」


入り口から脇に逸れて、彼女の話を聴く。


「ここ1か月の間に、の村で12件の被害が出ております。

何れもその村では有力な、比較的裕福な家々です。

共通しているのは、死人や怪我人が全く出ないということ。

盗まれる物は、お金よりも食料が多いということ。

家人達は、犯行に朝まで気付かなかったと言っているそうです」


「被害総額はそれ程でもないのですね?」


「ええ。

それも団長が動かない理由になってます」


「仮に捕まえたとして、その者の処分はどうなりますか?

処分権は誰にあります?」


「死者や怪我人が出ておらず、被害額も軽微なので、こちらに引き渡されればせいぜい牢に1、2週間入れる程度でしょう。

正式な依頼という形を取っていないため、犯人の処分は捕らえた者の自由です。

抵抗されれば殺しても構いませんし、奴隷に売ることも可能です」


「・・つまり、民間で捕らえるよりも騎士団で捕まえた方が、この件に関しては罪がずっと軽くて済むのですね?

犯人の処遇をお任せいただけるのなら、私が捕まえます。

近い内に、クエの村まで行ってみることにします」


「!

ありがとうございます。

ミーナが信頼する貴女なら安心できます」


満足したように持ち場に戻る彼女と別れて、自分達も迷宮に入る。


「ありがとう夏海。

騎士団時代は彼女にお世話になったから、できれば手伝ってあげたかったの」


「気にしないで良いよ。

話しを聴いて、私も興味が涌いたから。

明日の休みに遠乗りでその村まで行って、少し調べてくる。

犯人の動き次第だけど、2、3日以内には解決するつもり」


「私達もちゃんと連れて行ってよ?」


「明日は私1人で行く。

捕まえに行く時には連れて行くね。

2人はゆっくり休んで」


「・・ならそうさせて貰うわ。

1日中、家でごろごろしていようかしら」


「私も明日は身体を休ませます。

済みませんが、宜しくお願いします」


「うん。

その代わり、今日はガンガン稼ぐよ?」


「はいはい」


それから夕方5時50分まで、ひたすら25階層でHP回復薬を稼ぎまくった。



 カナエ達を公衆浴場に連れて行った後(私も一緒に脱衣所まで行って、彼女達の衣類などを預かった)、3人でギルドに向かい、素材の買い取りをして貰う。


その間に、リーシャとミーナに、シエナの森の件についての詳しい報告をして貰った。


暫く売りに来ていなかったので、その数は必要分を差し引いてもかなりの数に上り、のおばさんを以てしても約30分ほどかかった。


21階層以降の魔石はどれも1個500ギル、鳥の羽(4枚)は矢に付けると速度が増す効果があるらしく、1セットで800ギル、シャンプーが1本700ギル、胡椒(500g)が1袋1500ギル、ローヤルゼリーが1本900ギル、10本だけ出したHP回復薬が1本5000ギルで、総額153万5000ギル。


HP回復薬はまだ手元に700以上あるし、その他の品も、それぞれ100以上はストックしていてこの数字だから、十分満足する。


受付のおばさんにローヤルゼリーを1本あげて、カナエ達を迎えに行った。

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