第42話

 「ここからがシエナの森なのね。

地図スキルを展開しながら進むから、ゆっくり行こう」


大きな森だ。


でも鬱蒼としているというほどじゃなく、きちんと人が通れる道がある。


「ミーナはここに来たことあるの?」


「はい。

騎士団の任務で何度か通ったことがあります。

この道を進んで行くと途中で3つに分かれ、その内の2つが港町へと続きます。

険しい山岳地帯にも隣接しているので、そこに住む亜人や獣人の姿も見られます。

シエナはこの国最大の森なので、4つの町と直に続いているのです」


「亜人や獣人?

因みにどんな種族?」


町でも迷宮でも、見かけたことがあるのは、エルフと猫系、犬系、兎系の人達くらいだ。


「亜人ならダークエルフとドワーフ、獣人なら猿系と虎系です。

女神様がお創りになられたこの世界では、人種間に差別は存在しません。

神殿がそれを許さないからです。

ただ、人種によっては住む場所を拘る傾向が見られます。

亜人であるエルフや、犬、猫、兎系の獣人達は、人間の社会に完全に溶け込んでおり、比較的どの場所でも目にすることができますが、ダークエルフやドワーフは、あまり人前には姿を現さず、猿や虎系の獣人達は、山岳地帯を好んで暮らしています」


「(ゲームなんかでは悪いイメージがある)ダークエルフも差別を受けてないんだね」


「ええ。

寧ろ人間には人気のある種族です」


「分る気がする。

『私もゲーム内では好きだったし。

何と無くエロいからね』」


「異種族間では子供を作れないこともあり、彼らは単一種族での集落を好む傾向もあります。

元々の個体数も、犬や猫、兎系の種族と比較して、かなり少ないので」


「猿系の人達も少ないんだ?

どちらかというと、多産のイメージがあるけど」


「山岳地帯や深い森林には、高レベルの魔物が多く、活動範囲の広い猿系の獣人は、生まれてもその犠牲になることが多いようです」


話しをしながらも、どんどん奥に進んで行く。


地図スキルに表示される未到達領域は、大体1㎞先辺りまで。


時折魔物の表示もあるが、近付いてこない限り、今は無視する。


ギルドで貰った依頼書には、行方不明者は、何れも商隊や旅行者の人間であると記載されている。


調査から戻って来なかったCランクパーティーも、5人全員が人間族だ。


そのことから考えると、ほぼ道沿いで襲われた可能性が高い。


なので、最初は道なりに進み、地図の完成度が高くなってから、改めて道から外れるつもりでいる。


森に入って約2時間、道を塞ぐようにしてたむろする、オークの集団と出くわす。


「私達で片付ける」


リーシャとミーナが前に出て、魔法と剣で6体ほどを瞬殺する。


「迷宮に慣れてると、死体が残るのに違和感を覚えるね。

ドロップ品もないし」


「夏海はそれが不満なのよね?

死体を町に運べば、ギルドや業者に売れるわよ?」


「・・じゃあ一応持って行こうか」


私のアイテムボックスに入れて、先へ進む。


更に1時間進むと、今度はビックボアが1頭いる。


「大きいから良い値が付きそう。

ただ、迷宮と違って火魔法だと燃えちゃうから駄目だよね。

・・ミーナ、風魔法で何とかなる?」


「任せて」


彼女の風魔法が、魔物の首を刎ねる。


「・・血抜きだと思えば平気かな。

迷宮ではビックボアの肉は2㎏しか落ちないけど、これ1頭で500㎏以上あるよね。

外部で戦う冒険者が多いのも分るな」


「リトルボアと違って野生のビックボアは、そう数が多くはないそうよ。

他の魔物にとっても良い餌だからね。

運が良かったんじゃない?」


「<幸運B>を持つミーナのお陰だね」


「でも、騎士団時代はそんなに恵まれなかったのよ?

やっぱり気持ちの問題なのかしら」


話しをしている内に大分血が抜けたようなので、これもアイテムボックスに終う。


再び歩き出して、もう直ぐお昼になるという頃、地図上に緑の点が4つ表示される。


「前方に誰か居る。

気を付けて。

全部で4人」


「「!!」」


程無く、道の両脇に獣人の男性が3人倒れていた。


もう1人の姿は見えないが、地図上では近くの木の上に居る。


立ち止まり、警戒しながら3人のステータスウインドウを調べる。


案の定、何れの感情・気分欄にも、緊張、憎悪、殺意、興奮などの表示が見られる。


『リーシャ、ミーナ、そのまま聴いて。

彼らは起きている。

そして私達に対して明確な殺意を持っている。

もう1人は左の大木の上に居るはず』


『こちらから攻撃する?』


『とりあえず警告してからにする。

前方の3人は私が受け持つ。

3人とも、【剣士】や【弓使い】のレベル40程度だから問題ない。

2人は木の上からの攻撃に備えて』


『了解』


「そこのお猿さん達、倒れた振りをしていても無駄よ。

殺気が全然消せてない」


「!」


ガン。


私を目掛けて木の上から放たれた矢を、リーシャの盾が弾く。


それと同時に、前方の3人が起き上がった。


「忌々しい人間め。

どうして分った?」


ガン。


再度木の上から矢が飛んで来る。


「人に質問をするなら、もう1人のお猿さんをどうにかしなさいよ。

・・何で私達を殺そうとする訳?」


「人間に恨みがあるからに決まってるだろ」


男の1人が吐き捨てるように告げる。


「私はあなた達に何かをした覚えがないんだけど」


ガン。


「そりゃあ、お互い初対面だしな。

でもそんなの関係ねぇ。

俺達の子供を殺した人間族が許せねえ。

ただそれだけさ」


「あなた達の子供を殺したという、その人間はどうしたの?」


ガン。


「勿論殺したさ。

嬲り殺しにしたよ」


「ならもうそれで良いじゃない。

何で他の人まで殺すのよ?」


「気が収まらねえからに決まってんだろ!

やっとできたガキだったんだよ。

かわいくて仕方がなかったんだ。

それを・・」


「でもそれ、私達には関係ないんだけど」


「!!!

死ね!」


男達が駆け出して来る。


ガン。


「ああもういい加減うざい。

2人は木の上の相手を始末して」


「分った」


私は向かって来た2人に、火魔法レベル5をぶち込む。


「ギャッ」


「グッ」


火だるまになって転がる2人を無視して、少し先から矢を放つ男に駆け寄る。


障壁魔法で矢を弾き、両腕を切り落とす。


「最後に教えてあげる。

復讐して良い相手は、何かをされた、その当人だけ。

無関係な人にまで手を出した瞬間に、あなたもその憎い相手と同じになるの。

八つ当たりされて殺された人達にだって、それぞれ大切な人がいて、愛されていた存在がいたかもしれないのよ?

憎み、殺し合う相手は、お互いその当事者だけで良いの」


男の首を刎ねる。


「・・夏海、こっちも終わったよ」


ミーナが言葉をかけてくる。


男から浮かび上がった身分証を拾い、振り向くと、彼女が1枚の身分証を差し出してくる。


名前を見ると、女性の物だった。


夫婦だったのかな。


火だるまだった2人も、既に燃え尽きている。


その身分証はリーシャが拾った。


「彼女が居た木の周辺に、殺された人達の身分証が散らばっていたの。

全部で19枚もあった。

ギルドカードも、・・5枚あったわ」


「そう。

・・お墓を作って帰ろうか」


「作ってあげるの?」


「何となく、今はそんな気分」


その後、リーシャに魔法で掘って貰った穴に、4人の遺体を埋める。


今回ばかりは、その装備品や所持品に手をつけなかった。



 転移で自宅まで帰り、3人でお風呂に入る。


嫌な気分まで洗い流し、軽く食事を取ってギルドに向かう。


「こんにちは。

先日の依頼を達成してきました」


馴染みの受付嬢にそう声をかける。


「!!

ありがとうございます。

あなた方3名のギルドカードと、何か証明となるものがございましたら、それをお預かり致します」


「こちらが犯人達4名の身分証。

そしてこちらが、犠牲になられた方々の身分証とギルドカードです」


「・・確かにお預かり致しました。

評価と報酬については今この場で済ませますが、後日、詳しいお話を伺っても宜しいでしょうか?」


「・・今日でなければ」


「ありがとうございます。

では後程のちほど改めて。

・・こちらが今回の報酬になります」


差し出されたトレーの上には、自分達のギルドカードの他、20万ギルが載っている。


「10万ギルのはずでは?」


「原因の解明だけではなく、解決までなさってくださったので。

ギルドカードの回収分も含まれております」


「なら遠慮なく。

ありがとうございます」


ギルドを出ると、今度は迷宮へ。


カナエ達を迎えに行くまでの僅かな時間、3人で蜂を倒しまくった。

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