第41話
「4階層の魔物からはね、木材(中)かトイレットペーパーが落ちるんだよ?
2人は既にギルド登録したから、ドロップ品を売ることもできるの。
トイレットペーパーは1個80ギルで売れるから、使わない物は好きに処分してね」
カナエ達を4階層に連れて来て、階段付近でそう説明する。
「・・うちの村で、トイレットペーパーを使ってる人はいないよね」
「うん、いないね。
雑貨屋でも売られてないし」
「え?
・・あ、そう言えば、あなた達、ここのトイレはどっちを使ってるの?
もしかして無料の方?」
「はい」
「・・ごめんね。
もっと早く気が付くべきだった。
とりあえず500ギルずつ渡しておくから、これからは有料の方を使ってね。
全然違うから」
そう言って、2人に銀貨5枚ずつを渡す(有料トイレは、ちゃんとお釣りが出る)。
「こんなに・・。
私達なら無料の方でも大丈夫ですよ?
家でもそうですし、浄化で何とかなりますから」
「女の子はね、できる限り清潔でいるべきなの。
身体がそういう風にできているのよ。
お金なら私が出すから、足りなくなったら遠慮なく言って」
彼女達が変に我慢しないように、優しく、穏やかな口調でそう告げる。
「・・ありがとうございます」
「ジョブのどれかがレベル30を超えればアイテムボックスのスキルを得られるから、そうしたら私が持ってる石鹼とシャンプー、歯磨粉、トイレットペーパーを分けてあげる。
それから、木材(中)は
私が預かってあげる」
「はい、そうします」
「何から何までありがとうございます」
2人が深々と頭を下げてくる。
「ううん、じゃあ頑張ってね」
転移でリーシャ達の下へ戻る。
「お待たせ。
胡椒も大分溜まったし、今日中に24階層に進もう」
「ええ。
ガンガン戦って、どんどん強くなって、夏海から置いてけ堀を食わないようにしないと」
「まだ言ってる」
苦笑しながら戦い始めた。
夕方5時頃、24階層に到達する。
<特殊鑑定>を向けた先には大型の蜂がいた。
『キラー
「フフッ、高く売れそう。
ここも火魔法連発かな」
「・・・」
「あ、今回は耐えたのね」
ミーナがリーシャを見て笑う。
「そうそう同じ轍を踏まないわよ」
「いくよ」
夕方5時50分まで、ひたすら先へ進んだ。
迷宮から出ると、皆で公衆浴場へと向かう。
カナエ達の両親から、毎回入浴後に帰すことの了承を得ている。
リーシャ達には定食屋で夕食を取って貰って、私は屋台で買ったカナエ達の食事を持参し、2人を送り届ける。
その際、村長さんから矢の製作を請け負いたいとの返事を貰ったので、製作に加わってくれる家庭に見本を配れるよう、ギルドで購入した矢の束を渡してきた。
序でに、木材が足りない時、自分達で調達できるように、鉄の斧を5本進呈しておいた。
その後、たった1人で再度迷宮に入る。
1階層で地図スキルを展開し、例のメタルスライムを探したが、見つからない。
2階層に跳んで地図を調べると、黄色い点が1つある。
ラッキーとばかりに側まで転移し、<特殊鑑定>を使うと、『ゴブリンキング。個人推奨ジョブレベル62。物理耐性E。ドロップ品はノーマルが金の延べ棒(1㎏×2)、レアはミスリルソード』と出る。
強い。
まともに打ち合ったら分が悪そうだ。
ここも火魔法レベル6でいくしかないかな。
距離を取って、2発放ったところで突進してくる。
透かさず転移でその後ろ側に跳び、再度魔法を連発する。
まるで暴れ牛を往なす闘牛士の如く、何度もそれを繰り返し、5回目でやっと消滅させた。
その跡には、金の延べ棒が落ちている。
自動回収されていくそれらに頬を少し緩ませて、さっさとリーシャ達の居る定食屋へと向かった。
お酒を飲みながら食事を楽しんでいた彼女達の顔は、ほんのり赤い。
私は食事だけにして、2人の会話に加わった。
「私達、たった数日で随分強くなったよね」
サナエと2人で夕食を取りながら、しみじみとそう語る。
「うん、そうだね。
ほんの1週間くらい前まで、【村人】2だったものね」
「それが今では・・」
2人して、午後に夏海が設定してくれた自分のジョブを再確認する。
______________________________________
氏名:カナエ
ジョブ:{☆【騎士】2 ☆【戦士】1 【槍使い】9 【斧使い】5} 【剣士】1 【農民】19 【村人】15
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______________________________________
氏名:サナエ
ジョブ:{☆【騎士】1 ☆【戦士】1 【槍使い】6 【斧使い】4} 【剣士】1 【農民】12 【村人】12
______________________________________
「半日近くをずっと迷宮内で戦って過ごしているとはいえ、夏海さんのお力と装備がなければ、こうはならなかったものね」
「ええ。
他人の倍のジョブを付けられたからこそ、身体能力がぐんぐん上がって、魔物を倒す速度が飛躍的に上昇したのだから」
「おまけに、迷宮に入れるようになってから、生活が大分変ったし。
お風呂に連続で入れるなんて、この村では到底無理だもの」
「今食べている、この料理もね」
2人で苦笑し合う。
「夏海さんがいろいろと援助してくださるから、今のこの村には余裕ができ始めた。
お父さんも飼育する馬の数を増やそうと考えてる。
矢を製作するのも、農閑期の重要な収入源を増やすため。
彼女がこの村に係わってくださる間に、できる限り動いておかないと、やがてはここも寂れるでしょう。
私達2人は、村の未来をかけた希望と言っても過言ではない。
頑張りましょうね」
「ええ。
いつの日か、夏海さんに恩返しをするためにもね」
「そう、必ず」
翌朝6時。
相変わらずリーシャと2人でソニの村に跳ぶが、今日からは少し目的が異なる。
私は変わらず遠乗りに出かけるが、リーシャは乗馬スキルが2になったせいもあり、村で土木作業の手伝いをすることにした。
土魔法のレベル上げを兼ねて、浴場の建設と、村の拡張作業を始めたのだ。
浴場は、リーシャが土を掘って形を整えた場所に、加工を施した板を張り巡らせるという簡素なものだが、一度に20人以上は入れる大きなものだ。
それをすっぽりと小屋で包み、排水溝を作って、その残り湯を田畑に利用する。
1番の問題は、魔法を使わずにお湯をどうやって入れるのかであったが、それは魔石が解決した。
ミーナの家を購入した際、トイレの水を流すのに、魔石の使い方を教わった。
迷宮で魔物が落とす魔石は当初無色であり、それに何らかの魔法を吸収させることにより、それと同等の作用を引き起こす。
ただ、魔石のレベルによって再現可能な魔法が限られているため、大体は水や火を生じさせ、風を起こすために使われる。
水を生じさせるには、予め水魔法を吸収させた魔石に、少量の水(コップ半分程度)を当てれば良い。
水魔法レベル1を吸収した魔石からは、最高でその攻撃1回分相当の水が流れる。
沢山溜めたい時は、何度も流すか、よりレベルの高い水魔法を吸収した魔石を用いれば良い。
逆に、トイレなど、少量で良い場合は、水魔法レベル1を完全に行使できないような、低レベルの魔石を使う。
第7迷宮の6階層で手に入るスケルトンの魔石でさえ水量が多いので、他の迷宮で落ちる物をギルドで購入していた。
使われる魔石1つで、トイレなら約1週間、風呂なら広さにもよるが、大体3日分と言われている。
水の魔石を手前に置き、その奥に火の魔石を備えてそれぞれを作動させれば、流れた水が温められ、湯となって流れ落ちる(火の魔石は、炎を放出するのではなく、相応の熱量を発生させる)。
但し、魔石それ自体の値段が高いので、ソニの村での入浴は、暫くの間、週に1度くらいだろう。
それでさえ、夏海が馬の購入代金として差し出した分が充てられる。
夏海は、村長が馬の飼育数を増やすと聞いて、自分達専用の馬を1頭購入した。
その代金として1万ギル相当の魔石を提供し、この村で馬を世話して貰う間、魔石に魔法を吸収させる役割を担った。
リーシャが土木作業を手伝うのも、その馬の飼い葉代の代わりとしてである。
朝7時を過ぎた辺りで、カナエ達を伴い、ミーナと合流して一旦迷宮に入る。
5階層に跳び、最初の1頭をカナエ達2人だけで戦わせて様子を見る。
問題ないと判断した後、他の皆をその場で戦わせ、自分だけ転移を繰り返して、5階層のリトルボアを狩り尽くす。
1時間で400体ほどを倒し、たんまりとドロップ品を稼いだら、皆の下へ戻ってリーシャとミーナを伴い、3人だけで迷宮を出る。
迷宮に残るカナエ達は、夕方5時30分頃に迎えに行くことにして、自分達はシエナの森へと向かった。
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