第40話

 翌朝、センカの町には入らずに、ソニの村から南へと馬を走らせる。


1時間、馬に回復魔法を掛けながら、ひたすら走った。


そこから転移で村まで戻り、3人と合流する。


「今日は先ずギルドに行きたいの。

この際だから、2人もギルド登録しておけば?

費用は私が出してあげる」


「ありがとうございます。

是非お願い致します」


「いつも済みません」


「気にしないで。

じゃあ行きましょう」


家で待つミーナを回収し、久し振りに入ったギルドの受付で、馴染みの彼女と目が合う。


「おはようございます。

ギルドカードの更新をお願いします」


「おはようございます。

お久し振りですね。

身分証とカードのご呈示をお願い致します」


言われた通り、3人分をカウンターに呈示する。


「・・また随分と倒されてますね。

あ、20階層もクリアされたんですね。

おめでとうございます。

お三方ともBランクに昇進致しました」


書き換えられたギルドカードを渡されながら、満面の笑みを向けられる。


「ありがとうございます。

それから、今日はこちらの2人の登録もお願いします」


カナエとサナエを紹介する。


「かしこまりました。

それでは身分証のご呈示と、銀貨2枚のお支払いをお願い致します」


2人が手続きを終えると、受付の女性が私に話しかけてくる。


「時に、夏海さんに是非ご紹介したい依頼があるのですが、お話を聴いてはいただけないでしょうか?」


「時間が掛かりますか?」


「5分ほどいただきたいです」


「・・それくらいなら、まあ」


「ありがとうございます。

では早速。

2か月ほど前から、町の南に広がるシエナの森で、行方不明者が増えております。

魔物の仕業なのか、盗賊の類なのかも判明致しておりません。

調査に向かったCランク冒険者数名が戻らないことからも、当ギルドではこの案件をBランク以上と定めております。

私としては、進境著しい『黒い関係』にこの案件をお任せしたいと考えておりますが、如何でしょうか?

依頼内容は原因の解明、及び可能ならその除去。

期限は1か月、報酬は10万ギル。

違約金は5%、依頼で得た品はご自由に処分されて結構です」


「う~ん。

・・どうする?」


後に居るリーシャとミーナの意見を聴いてみる。


「原因の解明だけでも達成したことになるなら、私は賛成」


「そうですね。

私達で手に負えない場合は報告のみで良いなら、私も賛成します」


「・・ということなんですが、それで問題ありませんね?」


「はい。

原因の除去はあくまでも任意です」


「ならお受けします」


「ありがとうございます。

ギルドカードのご呈示をお願い致します。

それから、こちらが詳細を記した依頼書になります」


「矢を買いたいのですが、ギルドで販売してますか?」


「はい。

2階に販売カウンターがございます」


こうして、私達はギルドから初めての依頼を受けるのだった。



 「今日は午前中は3階層、午後は4階層で戦ってみようか。

もう直ぐ【戦士】まで取れそうだから、昨日と同じ、剣を使って頑張って。

お昼に念話を送るから、その時にそちらの状況を聴くね?」


「はい」


カナエ達が魔法陣で3階層に跳ぶのを見送り、自分達は22階層の階段付近まで転移して、直ぐに上に上がる。


<特殊鑑定>の結果、23階層の敵は『戦根花。個人推奨ジョブレベル34。火属性が弱点。毒を持つ根の攻撃に注意。ドロップ品はノーマルが魔石、レアは胡椒(500g)』と表示される。


「めんどうだから、燃やすね?」


「了解。

私達は盾を使いながら、適当にさばいていくわ」


レベル4の火魔法をバズーカ砲のように放ち続けながら、どんどん先へ進む。


5㎞ほど進んだ所で、脳内に効果音が響いた。


「あ、地図作成のスキルがレベルアップした。

それに、いつの間にか乗馬スキルも2になってる」


ステータスウインドウを確認した夏海が、2人にそう告げる。


「おめでとう。

今度はどんな効果があるの?」


「ちょっと待ってね。

今見てみる。

・・地図作成のレベル5は、『罠の位置が表示される』だって」


「へえ、便利で良いわね」


「でもさ、今まで罠になんか掛かったことないけど」


「偶々なんじゃない?」


「一般にですが、迷宮の30階層までは、罠がないと言われています」


ミーナがそう教えてくれる。


「そうなんだ?」


「ええ。

その代わり、宝箱も出ないのですが」


「あ、それ疑問に思ってた。

迷宮と言えば宝箱だもんね。

道理で見つからない訳だ」


「宝箱は誰でも開けられるの?」


「はい。

取り立ててスキルとかは必要ないと言われております。

尤も、現状では金の宝箱までしか見つかっておりませんので、絶対とは言い切れませんが」


「やっぱり宝箱には色の区別があるんだ?」


「ええ。

銅、銀、金までは確認されております」


「リーシャが以前、40階層以降で出ると言ってたハイエーテル入りの宝箱は、金なんでしょ?」


「王宮で見た記録には、そう書いてあったわね」


「フフフッ、楽しみ」


「また夏海の目の色が変わった。

美人は得よね。

欲にまみれたような顔をしてても、ちゃんと綺麗に見えるんだから」


「・・リーシャは今日から3日間、抱き枕担当から外します」


「ええ!?

嘘、冗談だから許して」


「もう駄目。

ミーナ、今晩から宜しくね」


「はい。

精一杯、お役目を果たします」


「うう」


「へこむくらいなら、いちいち口に出さなければ良いのに。

夏海の性格くらい、もう分っているでしょう?」


リーシャを見て、ミーナが苦笑しながらそう告げる。


「だって、かわいいからつい口に出てしまうんだもの」


「・・お風呂でならハグしてあげる」


「!

ありがとう!」


「・・夏海、もう魔物が沢山涌いてる」


「はいよ。

胡椒を落とす、お得意さんいらっしゃい」


それからお昼まで、また無言で狩り続けた。



 「あ、そうだ思い出した。

ミーナに聴こうと思ってたんだ」


お昼の休憩時、右隣に腰を下ろした彼女に尋ねる。


「外部での戦闘ってさ、HPとかの要素はどうなるの?」


「?

どういう意味ですか?」


お弁当を渡してくれながら、彼女が首を傾げる。


「迷宮だと、攻撃されても血も出ないし、HPが0になるまでは死なないじゃない?

だけど外部の戦闘では、普通に血が出るし、首や腕が飛ぶよね?

仮に、レベルの低い弱者が運だけで強者の首に剣を当てた時、そのまま相手を倒せるのだとしたら、外部ではジョブやレベルが大して意味を成さないんじゃないかなって思って。

だって、HPが1万以上あったとしても、急所を狙われたら1撃でやられてしまうから」


「ああ、なるほど。

ジョブレベルが上がれば上がるほど、ステータスウインドウにさえ表示されない要素によって、人の身体は強化されていきます。

筋力、持久力、耐久力、敏捷性などがそうですね。

なので、より高位のジョブを持てば持つほど、そのレベルを上げれば上げるほど、そのジョブに隠された要素によって肉体自体も強化され、普通の剣や魔法で攻撃されても傷さえ付かなくなります。

外部での攻撃力は、自身の筋力やスピードに、武器や魔法での補正が加わって決定しますので、【村人】1しか持たない者が、【戦士】20を倒すなどということは、聖剣でも持たない限り不可能です。

恐らく流血さえさせられません」


「じゃあ普通に首を落とすなんてことができるのは、武器を考慮しなければ、ある程度実力が伯仲する相手か、圧倒的な強者のどちらかなんだね?」


「その通りです。

それ以下だと、何度も攻撃を加えて、軽傷を増やしたり、HPを削るような戦いしかできません。

神殿での教えによると、女神様は、勤勉な者、努力を惜しまない者に対して非常に好意的です。

その者達が払ってきたであろう時間や苦労、熱意に対して、仇で返すようなことはなさらないそうです」


「やっと安心できた。

ギルドの依頼を受けたのは良いけれど、リーシャやミーナにもしもの事があったらと、気が気でなかったの。

最悪、1人で行こうと考えてたくらい。

でも今の話の通りなら、余程の事がない限り、まず大丈夫だね」


「大丈夫じゃないわ。

もし本当に私達を置いて行ったら、抱き枕係を暫く止めていたかも」


「ええ、そうね」


「だって2人には〖女神の加護〗がないんだよ?

私1人なら直ぐ転移で逃げられるし」


「それでもよ」


「それでもです」


「・・まあ、その辺りは今後の課題ということで」


「何それ。

夏海だって頑固じゃない」


「大事なものの護り方は、人によって異なるの。

安全な場所に居てくれるからこそ全力で戦える人だっているし、側で励ましてくれるからこそ力を発揮できる人だっている。

私はもう、二度と大事な人を失いたくはないの。

危ないと分っている場所に連れて行けるほどの勇気もない。

置いて行くから大事じゃないなんて、2人を信用していないなんて、決して思わないでね?」


「「・・・」」


「さて、カナエにも連絡しないと」


少し気まずくなったけど、私の気持ちは知っておいて欲しいから。


もっともっと強くなろう。


そうなれば、2人もきっと納得してくれる。

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