第39話
朝6時。
ソニの村で馬を借り、前回の地点まで転移してから走らせること約40分、新しい村が見えてきた。
側に寄って馬を降り、門の近くに居た人に村の名を尋ねる。
「ここはニエの村だよ。
センカの町の食料を担う村の1つさ」
「ここからセンカの町までどのくらいですか?」
「馬だと1時間くらいだね」
「ありがとう」
『リーシャ、聞こえる?』
『どうしたの?』
『今日はあと1時間くらい遅くなる。
村に戻って、カナエ達にそう伝えてくれる?』
『良いけど、何かあったの?』
『新しい町の側まで来たから、今日中にそこまで行ってみようと思って』
『分ったわ。
ミーナにもそう伝えておく』
念話で彼女と話した後、私はもう1時間、馬を走らせた。
「おかえり。
新しい町には入ったの?」
ソニの村に帰ると、リーシャ達が厩舎の側で待っていた。
「今日は正門の手前まで行くだけにしておいた。
第7迷宮の町より、一回り以上小さな町だったわ」
「センカの町ですか?
あそこには迷宮がありませんから」
カナエがそう教えてくれる。
「騎士団は、迷宮がある町にしか常駐しておりません。
あの時、私が遠くてもあそこまで出向いたのは、それが理由です」
「そうなんだ。
じゃああまり用がない町なのかな」
「迷宮のある町に比べると、何もかもが劣りますからね。
ただ、ここから南へ馬を8時間くらい走らせるとタゴヤの町があり、そこでは特産品の味噌が売られています」
「え、味噌?」
「はい。
昔からの製造元が何軒かあり、種類も3種類以上あるそうです」
「良い情報をありがとう。
食の楽しみが増えた」
「夏海は味噌が好きなの?
私は少し苦手」
「もしかしてリーシャ、味噌を単なる調味料としか考えてないんじゃないの?
鍋やラーメンに使うと凄く美味しいよ?
ほとんど臭いもしないから」
「ラーメンがどんな物か分らないわ。
味噌って、肉や野菜に付けて焼くだけじゃないんだ?」
『まあ、王女時代にそれが食事に出る訳ないか。
鍋すらしてなさそうだし』
「それはまた後で教えるね?
いつもより遅くなったから、直ぐ迷宮に行こう。
待たせちゃってごめんね」
1時間余計に馬を借りた分を、前回と同じ魔物の肉で支払い、待っていた3人を連れて、迷宮の入り口まで跳ぶ。
リーシャの方からミーナに連絡を入れて貰ったので、彼女はそこで元同僚達と話をして待っていてくれた。
「遅くなってごめん。
今日もしっかり稼ごう」
5人揃って中に入り、入り口付近でカナエ達と内緒話をする。
「あのね、訳あって、あなた達が私のパーティーにいる間は、ジョブを4つまで設定することができるようになったの。
これは絶対に内緒ね?
決して誰にも言わないこと」
「「!!!」」
「だからとりあえず【農民】を加えておくけど、もし【斧使い】も取れるようなら、それさえ設定できるよ?
今日は2人だけで2階層で頑張って貰うから、しっかりね」
「「はい!」」
「それからカナエには、私への緊急連絡手段を授けておくね。
『念話』と言って、私と心で会話ができるものなの。
何かあったら、心で私に呼びかけてね」
「そんな事が可能なんですか!?」
「うん。
ごく限られた人としかできないから凄く貴重な手段なんだけど、あなた達を預かっている私には、親御さん達に対する責任があるから特別にね。
これも内緒だよ?」
「分りました。
お気遣いありがとうございます」
深々と頭を下げるカナエ。
その後、彼女と魔力通しをやって、2人分の装備と昼食を渡し、2階層まで送り届ける。
夕方5時50分に迎えに来ると伝えて、自分達は21階層へと転移した。
前回で大分距離を稼いだお陰で、1時間程度で階段を見つける。
直ぐに22階層へと上がり、目の前のグ○みたいな魔物に<特殊鑑定>を使う。
『エルダースライム。個人推奨ジョブレベル33。物理耐性E。魔法耐性E。ドロップ品はノーマルが魔石、レアはシャンプー』と表示される。
「ここでシャンプーなのね。
今後のためにもしっかり補充しておかなくちゃ」
「武器は何でも良さそうね」
「うん。
3人共、既に【戦士】を取ってるし、弓は矢がないから」
各々好きな武器を取り出し、私は剣と盾を装備した。
「さあ、始めるわよ。
今日1日はここね」
久し振りに、思い切り剣を振り回した。
「夏海はカナエを、私達の仲間に加えたいの?」
昼食を取りながら、リーシャが尋ねてくる。
「ああ、念話を授けたこと?
・・彼女次第かな。
最初はほんの親切心だったけれど、2人ともよく頑張っているからね。
カナエはさ、凄く真面目で良い娘なんだよ。
私に乗馬を教えてくれた時も、細部に渡るまで丁寧に指導してくれたし。
いつまであそこで馬を借りるか分らないけど、その間はできるだけの事をしてあげて、最後に聴いてみるくらいはしようかとも考えてる。
尤も、将来の村長さんみたいだから、難しいんじゃないかな」
「彼女達は今2階層でしょ?
矢がないなら、あの村に副業で頼んでみたらどうかな?
ジョブを得るだけの矢なら、簡単で済みそうだし、先ずはお試しということで」
ミーナも、どうやら彼女を仲間にするのは賛成みたいだ。
「そうだね。
現金収入の手段は、多いに越した事は無いしね。
今日にでも村長さんに話してみる」
『カナエ、そっちは大丈夫?』
彼女に念話を送ってみる。
『はい、大丈夫です』
『【斧使い】はもう取れた?
さすがにまだかな?』
『今確認してみます。
・・・あ、私は取れてます。
サナエも取れたそうです』
『え、・・おめでとう。
随分頑張ったんだね』
『2人して倒しまくってましたので。
・・それで、私には【騎士】も表示されています』
『!!
おめでとう。
今からそちらに行って、設定を変更してあげる。
午後からは、3階層で頑張ってみよう』
『はい、ありがとうございます!』
「ごめん、ちょっとあの2人の所に行ってくる。
カナエ、もう【騎士】を取ったみたいなの」
「!!
<努力>があるとはいえ、早いわね。
私達は適当に始めてるから、向こうに行ってあげて」
「カナエ、将来が楽しみなんじゃない?」
喜ぶリーシャとミーナに詫びて、直ぐに転移する。
「お待たせ。
早速見せて貰うね」
「「お願いします」」
______________________________________
氏名:カナエ
ジョブ:{【槍使い】5 【村人】15 【農民】15} 【斧使い】1 ☆【騎士】1
HP:1810
MP:2110
スキル:<PA:盾1>
______________________________________
______________________________________
氏名:サナエ
ジョブ:{【槍使い】3 【村人】9 【農民】9} 【斧使い】1
HP:860
MP:660
______________________________________
「うん、順調に成長してるね。
直ぐに付け替えてあげる」
______________________________________
氏名:カナエ
ジョブ:{【槍使い】5 【斧使い】1 ☆【騎士】1 【農民】15} 【村人】15
______________________________________
______________________________________
氏名:サナエ
ジョブ:{【槍使い】3 【斧使い】1 【農民】9 【村人】9}
______________________________________
「これで良しっと。
じゃあ2人共、3階層に行って、今度は剣で戦ってね。
武器はこれ。
鉄の剣ね」
斧を回収し、剣を渡す。
「キラーラビットは意外と動きが速いから、サナエは盾でしっかり攻撃を防いでね。
カナエもなるべく彼女の側で戦うこと。
後は、食事の度に『いただきます』と『ごちそうさま』をきちんと唱えましょう」
「「はい」」
「因みに、何かドロップした?」
「木材(小)が3つと、鉄片(小)が2つ落ちました」
「・・少しここに居て」
転移でこの階層の中ほどに跳び、手当たり次第にゴブリンを倒す。
転移を繰り返しつつ、約4分で50体ほどを火魔法の餌食にして、2人の下へ戻る。
「ごめん、お待たせ」
3人で3階層に跳ぶ。
「最初の戦いを見ていてあげるから始めて」
「「はい」」
カナエが1体のキラーラビットへと突っ込み、サナエがもう1体に向けて盾を構える。
【騎士】を得たカナエは、最早キラーラビットでは相手にならない。
サナエの方も、盾で攻撃を受けてからのカウンターに徹し、無難に戦って倒している。
彼女のHPを覗いたが、減少は15ほどであった。
それを回復してやり、2人に声をかける。
「問題なさそうだね。
じゃあ時間まで頑張って」
安心してこの階層の中ほどに跳び、再度100体くらいを倒した後、リーシャ達の下へ戻る。
「おかえりなさい」
「どうだった?」
「明日は4階層でも大丈夫だろうね。
2人共やる気が凄いの」
「なら私達も頑張らないとね」
「そうね。
まだまだ先は長いし」
その後、23階層への階段を見つけた後もここに留まり続け、この日だけで800体ほどのエルダースライムを倒した後、5人で公衆浴場へと向かう。
カナエ達を送り届け、今日自分が得た分の鉄片やら肉を村長に渡して、矢の生産について話を持ち掛ける。
主だった者達と相談したいというので、返事は後日に貰うことにして、リーシャ達の待つ家へと帰った。
明日は見本となる矢を買ってこないと。
それに、そろそろギルドカードも更新しないとね。
やる事が沢山あって、毎日が楽しい。
物足りないのは1つだけ。
カズヤに会えないこと。
彼、早く戻ってこないかな。
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