第34話
「あ、地図作成スキルがレベル4になった。
それに、<模倣>も3になってる。
<乗馬>も取れて、【騎士】が増えた。
あとは【槍使い】を取って、【戦士】だけかな」
遠乗りの最中、頭の中に鳴り響いた効果音に気が付いて、ステータスウインドウを調べていた。
また1つ目標を達成し、喜んでいつもより遠乗りの距離を伸ばす。
村に転移で戻ったのは、いつもより30分くらい遅かった。
厩舎に馬を戻して、回復魔法を掛けてやる。
何だか少し逞しくなったみたい。
「今日はいつもより長くお借りしたから、その分、もう1枚銀貨を支払いますね」
「え?
いえいえ、とんでもない。
1枚だって多いくらいですから」
「なら何か欲しい物がありますか?
お肉や石鹼、歯磨粉やティッシュ箱なんかもありますよ?」
「・・あの、夏海さんは毎日迷宮に入っているのですか?」
「ええ、今の所は」
「・・大変厚かましいお願いなのですが、私を1度、迷宮に連れて行っては貰えないでしょうか?
村の治安や物資のことを考えると、次の村長である私も、少しは鍛えた方が良いと思いまして。
夏海さんが迷宮から出る際にお声をかけてくだされば、私もその時間に出ますから。
・・駄目でしょうか?」
「お答えする前に、あなたのステータスウインドウを見せて貰っても良いですか?
私には他人の物が見えるので・・」
「別に構いませんが」
「では失礼します」
______________________________________
氏名:カナエ
人種:人間
性別:女性【処女】
年齢:15
*スタイル:157・83(C)・55・84
地位:平民
所有奴隷:なし
ジョブ:【村人】2 【農民】2
HP:320
MP:120
スキル:<PA:乗馬3> <PO:裁縫2> <PO:料理1>
*ユニークスキル:<PO:努力E>
魔法:
生活魔法:【浄化】2
状態:異常なし
*感情・気分:焦燥 憧れ 不安 親愛
犯罪歴:なし
*所持金:0
現在地:ソニの村
______________________________________
「カナエさんは戦闘経験があるのですね?」
「ええ。
時々、水田に小さなスライムが現れるので、皆で倒していました」
「武器をお持ちなんですか?」
「武器というか・・農機具です」
「親しいお友達はいます?」
「・・1人だけ、同い年の
「その娘も戦闘経験者ですか?」
「ええ。
私と同じくらいです」
「連れて行くには条件が2つあります。
先ずは村長さんのお許しを得ること。
もう1つは、そのお友達も一緒なこと。
この2つを満たせれば、1階層だけという約束で、お連れしましょう」
「!!
ありがとうございます!
直ぐに父から許可を得てきます」
よほど嬉しかったのか、カナエは馬たちの前に餌の入ったバケツを置くと、家に向かって駆け出した。
私はその後をゆっくり歩いて追いかける。
程無く、彼女から事情を聴いた村長さんが私を出迎え、『どうか宜しくお願いします』と頭を下げてくる。
どうやら、事前に話し合っていたらしい。
村としては中規模でも、自警団もなく、食料以外の物資も乏しい。
村の将来を考えれば、早急に何らかの手を打った方が良いのは確かだ。
外部で狩りをするにしても、実力がなければ命を落とす。
この2人は、先ずは次世代の村長であるカナエが行動を起こすことで、停滞している村に風を通すつもりなのだろう。
間も無くもう1人の娘もやって来て、2人が武器として用意した草刈り鎌を『必要ないから』とその場に置き、2回の転移で迷宮前まで跳ぶ。
入場料は私が出してやり、2人を1階層に連れて行く。
「この階層はスライムしか出ないから、決してこの階層以外には行かないこと。
敵を倒しても数分でまた涌くから、なるべく入り口付近で戦うこと。
知らない人が近付いてきたら、その相手から目を離さないこと。
危なくなったら迷わず迷宮から出ること。
約束してね?」
「「はい」」
「うん、良い返事。
じゃあこれ、武器と盾ね。
慣れないだろうけど、使い続ければその内良いことがあるから頑張って。
私は他の階で戦うから、2時間後にまた迎えにくるね」
そう告げて、蛇槍と鱗の盾を2人に渡す。
「ありがとうございます」
やる気に満ちた2人を後に、私は14階層で無双(殲滅戦)を開始した。
約束の2時間後、私は1階層に戻って来る。
例の2人は私の言いつけを守り、入り口から200mくらいの所で戦っていた。
武器が良いせいか、2人とも1撃でスライムを倒している。
ステータスウインドウを覗くと、2名とも【村人】と【農民】が3になっていた。
「お待たせ。
たくさん倒せた?」
「はい!
この槍のお陰で、どれも1撃でした。
2人で200くらいは倒したと思います」
「凄いじゃない。
何かドロップした?」
「石鹼が2つと、歯磨粉が1つ落ちました」
「レアも落ちたんだ?
おめでとう。
じゃあ迷宮から出ましょう。
2人とも時間はまだ大丈夫?」
「「はい」」
「ならちょっと買い物に行こう」
槍と盾を回収し、汗をかいた2人に浄化を施して、共に衣類を売る店に跳ぶ。
「その服だと戦闘には不向きよね?
私がプレゼントするから、ここで一式揃えてしまいましょう。
女の子だもの、予備の下着類も選んでね」
「そんな、良いんですか?
入場料まで出していただいたのに・・」
「これでも結構稼いでいるから大丈夫。
この後は靴屋と鞄屋、防具屋にも寄って、お昼を食べてから村に送ってあげる」
あの村では多少裕福であるらしい2人も、町に出ればその服装は貧相に映る。
毎年納める税金だって馬鹿にならないだろう。
私は、少しでも上を目指そうとして、きちんと努力のできる人が好きだ。
私自身がそうであったし、見ていて気持ちが良い。
だからそんな人達が、機会すら与えられずに
遠慮する2人に、衣類と鞄(リュックサック)、革のブーツと手袋、革製の鎧を購入してやり、定食屋でご飯を食べて村に送る。
歯磨粉を1つ手渡して、村を去る前に2人に尋ねる。
「私がこの村から遠乗りをする間は、毎日でも迷宮に連れて行ってあげるけど、どうする?」
「本当ですか!?
是非お願いします!」
カナエが大喜びする。
もう1人の娘、サナエも同様に願い出てくる。
「じゃあこれから、私が遠乗りを終えたら2人を連れて行くね。
お昼くらいまで迷宮で戦ったら、私がここまで送ってあげる。
武器と盾は、今日と同じ物を私が貸してあげる。
それで良い?」
「「はい!
宜しくお願いします!」」
その笑顔は、2人が本当にそう望んでいることを物語っていた。
町に戻った私は、不動産屋で
いつものパン屋で白パンを買い占め、市場を歩いて食材や調味料、出来合いのおかずをたんまりと買い込む。
まだ明るいので、以前訪れた鍛冶屋にも足を運んだ。
「こんにちは。
少しご相談があるのですが・・」
「ああ、いらっしゃい。
また剣の打ち直しかい?」
29歳の女主人が、笑顔で迎えてくれる。
「今日は別の要件でお伺いしました。
この工房は、自作の防具や武器を制作していますか?」
「ん?
・・数は少ないけれど、暇な時に幾つか作ってるよ?」
「この場に在れば、それを見せていただきたいのですが・・」
「盾と鎧が1つずつしかないが、それでも良いなら構わないよ」
「お願いします」
「じゃあこっちにおいで」
工房の奥に通され、壁際に並んでいた品物を見せてくれる。
奇麗な品だ。
すっきりとした、実用的なフォルム。
華美な装飾などないが、その材質だけで美しく輝いている。
<特殊鑑定S>を用いると、盾の方に『☆が付く』と表示される。
材質は魔鋼とあるが、それが何だか分らない。
「この盾、材質が魔鋼と出ていますが、それは一体どういうものなのですか?」
「あなた、<特殊鑑定>持ちなんだね。
魔鋼というのは、この間分けて貰った魔鉱石と、鋼を混ぜ合わせた物のことさ。
通常の鋼よりもずっと固く、僅かながら魔法耐性も備えている。
ただ、魔鉱石の使用量が多く、この盾だけで手持ちの魔鉱石を4つ全部使っちまった。
お陰で、鎧の方は只の鋼製なのさ」
「この盾、売り物でしょうか?」
「それは勿論。
ただ、かなり高いよ?」
「お幾らですか?」
「3万ギル」
「買います」
「即決かい。
お金持ちなんだね」
「それから、注文をお願いできますか?」
「それは有難いけど、物は何だい?」
「鎧と兜です。
女性用の物を2つずつ、その女性達のサイズに合わせて作ってください。
勿論、魔鋼製で」
「・・当人達のサイズ次第だけど、魔鉱石が全部で20くらい必要になるよ?
魔鉱石を持参してくれるなら、価格は全部で5万ギルで良いけど・・」
「魔鉱石の条件は既に満たしています。
それでお願いします」
「・・分った。
間違いなく、今までで1番の仕事になるね。
納期は3か月くらい欲しいが、大丈夫かい?」
「ええ。
気長に待ってます。
明日にでもその2人をここへ連れてきますので。
魔鉱石と代金は、その時にお渡しします」
「前払いとは嬉しいね」
「今日はこの盾だけを貰っていきますね」
金貨3枚を支払い、盾をアイテムボックス内に入れる。
「ではまた明日」
思わぬ発見に、顔を緩める私であった。
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