第33話

 朝の9時。


日課を終えた私達は、到頭20階層の扉の前に居た。


「2人ともボス戦は初めてだよね。

この扉を開けて中に入ったら、敵を倒すかこちらが全滅するまで出られないから、気を引き締めてね」


「正真正銘の命懸けね。

夏海に抱かれるまでは死ねないもの。

絶対に勝つわ」


「こんな時に何を言ってるのよ」


呆れて苦笑いする。


「あら、大事なことよ。

死にたくない1番の理由だもの」


「じゃあ一生リーシャを抱かない。

長生きしてね」


「・・やる気が無くなりそう」


「ミーナも大丈夫?」


「ええ。

一応は騎士団員でしたし、厳しい戦いも何度かありましたから・・」


「じゃあいくよ」


扉を開けると敵が5体いる。


透かさず<特殊鑑定S>で情報を探る。


『ハイオーク。オークソルジャー×3。オークマジシャン。個人推奨ジョブレベル33。弱点属性は火と雷。オークマジシャンは風魔法レベル2を使用。ドロップ品はノーマルが魔鉱石3、レアは金貨1枚』


益々ますますやる気が出てきた。

向こうの魔法使いは風魔法レベル2を使うから気を付けて!」


戦闘開始と同時に、オークソルジャー3体に火魔法レベル5を連発する。


敵がこちらに到達する前に3体とも一瞬で消え、残された2体が猛然と攻撃を仕掛けてくる。


ハイオークは大剣を振り回してくるが、リーシャはそれを盾で弾き、隙を見ては剣で斬りつける。


【剣士】がレベル35を超え、『攻撃力上昇(中)』の効果を持つ【戦士】まで順調に成長している彼女は、身長も高く、それなりに体重があるせいもあって、ハイオークと対等に打ち合っている。


オークマジシャンが放つ風刃は、その特徴を知るミーナの盾で防がれ、魔法使用後のタイムラグを槍で突かれてどんどん追い詰められている。


直ぐに加勢しようと考えていたが、危ない時以外は彼女達に任せることにした。


数分後、2人ともそれぞれの相手を倒し切る。


しかし、肝心のドロップ品が出ない。


え!?


もしかして、ボスは私が倒さないと駄目なの?


「・・2人ともお疲れ様。

ごめんね。

今日はずっとここで周回ね。

ボスとマジシャンは私が瞬殺するから」


笑顔でそう言ったのに、何だか微妙な顔をされる。


「そう言うと思ったわ。

何も落ちないなんて、夏海には我慢ならないものね」


「久し振りに歯ごたえのある相手でしたから、私は問題ありません」


「今日はここでたくさん稼いで、明日はお休みにしよう」


それから昼食を挟んで約8時間。


90回の周回を繰り返し、金貨だけでも25枚を手に入れる。


満足して迷宮を出る頃には、皆のレベルも十分に上がっていた。



 「お待ちかね。

皆の現在の状況です」


夕食後、ゆったりと浸かったお湯の中で、私はリーシャとミーナ、2人のステータスウインドウを確認する。


情報量が多いから、今回も変化のあった箇所だけだ。


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氏名:リーシャ・エテルナ・ハイヨルド


ジョブ:{【剣士】47 ☆【魔法使い】25 ☆【戦士】8}


HP:4170

MP:4970


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氏名:ミーナ・ラングレー


ジョブ:{☆【騎士】31① ☆【魔法使い】20 【剣士】29} 【槍使い】1 ☆【戦士】1


HP:4230

MP:5730


ユニークスキル:<PA:アイテムボックスF>


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「おめでとうミーナ。

これであなたもアイテムボックスが使えるね。

おまけに【戦士】のジョブまで取れて、言う事無しだね。

【戦士】を第3ジョブに設定しておくね」


「ありがとう夏海。

あなたのお陰で、私もやっと一人前になれたかな」


長湯のせいで熱の籠った身体を冷やすべく、湯船の縁に腰かけている彼女が、嬉しそうに微笑む。


視線を下げると彼女の赤茶色の陰りが目に入るので、湯船の縁に頭を凭れさせるようにして上を向く。


「それから、上位ジョブの専用技を1つ覚えたね。

【騎士】レベル30で習得する、『堅牢の盾』

MPを1000も要求されるのが難点だけど、1回のみ、盾を用いた防御力が2倍になるんだね。

【騎士】には元々、取得効果で『防御力上昇(中)』が付いているから、今後は守備の要になるのかな」


「任せて。

夏海とリーシャの背中は守ってみせる」


「リーシャも大分レベルが上がってきたね。

恐らくもう少しで乗馬スキルが取れるだろうから、そうしたら【騎士】も手に入るしね。

その次は【障壁魔法】にチャレンジしてみようか」


「夏海といると、以前の己の甘さが悔やまれるわ。

私さえしっかりと鍛えていれば、彼ら(護衛2人)は死なずに済んだ。

今更遅いけど、第1王女なんておだてられて、良い気になっていた自分が許せない」


「亡くなった方々には申し訳ないけど、私はリーシャに出会えて本当に嬉しかったよ?

その方々に胸を張れるよう、もっともっと強くなろう」


「・・ええ、必ず」


「因みに私はこんな感じね」


______________________________________


氏名:水月 夏海


ジョブ:{【剣士】53 ☆【魔法使い】26 【斧使い】15 ☆【神官】26 ★【賢者】13}


HP:7540

MP:10340


所持金:585万4500ギル


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「それさ、以前いた国の主力兵でも相手にならないくらい強いかも。

夏海の凄さはジョブを5つも付けられることだけど、【賢者】と【魔法使い】、【神官】が揃っているのがね・・。

【魔法使い】の取得効果である『魔法攻撃力上昇(中)』と【神官】の取得効果である『MP回復速度上昇(中)』の2つだけでも有利なのに、【賢者】の取得効果である3つが重複可能なのが反則級なのよね。

特に、『各魔法攻撃力がレベルにより上昇』、『MP回復速度がレベルにより上昇』の2つは決定的ね。

【賢者】のレベルが上がれば、この2つは今後どんどん成長していくのだから」


「たくさん持ってるのに、MP回復薬を自分で使う必要ないもんね」


「・・夏海には、結局それが1番嬉しいのね」


「だって1本5000ギルで売れるんだよ?」


「はいはい」


「それで、約束通り明日はお休みにするけど、今後も水曜日がお休みの日で良い?」


この世界の暦は、驚いたことに、元の世界のものとほぼ同じだった。


1年は12か月、1か月は約4週あり、1週間は7日で、それぞれ月曜日から日曜日まである。


「私は良いけど、ミーナは?」


「私もそれで構いません」


「じゃあ次に給料日だけど、今日が27日だから、今後も毎月同じ日で良いかな?」


「ええ」


「問題ありません」


「額については、とりあえず月に7万ギルで勘弁してくれる?

今後何があるか分らないから、ある程度の蓄えはしておきたいの。

勿論、大きな臨時収入があった時には、そこから少しボーナスを出すので・・」


「私には多いくらいだわ。

今の所は欲しい物すらないし」


「7万!?

・・騎士団員の給料の7倍。

只でさえ食費や雑費、迷宮の入場料まで払って貰ってるのに・・」


「2人の価値からしたら、かなり安いもの」


「そこまで評価してくれてありがとう。

私もそれで十分です」


「了解。

お風呂から出たら支給するね。

明日だけど、私はいつも通り遠乗りに行ってから、14階層で3時間ほど無双して、その後は街で買いだめなんかをする予定。

2人はどうする?」


「私は遅めに起きて、その後は街をぶらつこうかしら。

この町、まだそれ程知っている訳ではないから」


「じゃあ私と一緒に行きませんか?

少しなら案内できますよ?」


「そうね。

ならそうしようかしら」


「次の日の戦闘に影響しないよう、門限を設定しよう。

夜の9時までには帰って来てね」


「そんなに遅くならないわよ。

せいぜい7時には戻るわ。

・・ねえ?」


「ええ。

夏海と一緒にお風呂に入りたいし」


「分った。

私もそのくらいには帰るから」


初めてのお休みを控え、穏やかな夜が過ぎていった。

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