第31話
翌日から、私の1日は更に忙しくなった。
朝5時に起き、身支度を整えて朝食を取ったら、リーシャを連れてソニの村に跳ぶ。
私は1時間の遠乗り、リーシャは見回りをして、7時くらいに一旦家に戻る。
その時間を使ってお昼のお弁当を作り始めたミーナと合流し、今度は迷宮へ。
彼女達を17階層まで送り届けたら、私だけ14階層で1時間の無双。
走りながら手当たり次第にエルダートレントを倒し、MP回復薬を入手しまくる。
レベル3の火魔法1発で済むので、1時間でも200体は倒せるのだ。
その後、転移で17階層へ。
<特殊鑑定>で調べた結果は、『キラーウルフ。個人推奨ジョブレベル28。弱点属性は火。ドロップ品はノーマルが毛皮、レアは魔石』と出る。
正直そそらないので、この階層はさっさと通過することにして、先に戦っている2人の所まで走る。
リーシャは既に【戦士】持ちで、アイテムボックスも使えるので、剣、斧、槍を渡して好きな武器を使って貰っている。
今は☆2つ付きの、先日打ち直したばかりの剣で戦っていた。
その傍で槍を振るうミーナと、上手く連携が取れている。
「お待たせ。
この階層は美味しくないから、さっさと上を目指そう」
「夏海なら、きっとそう言うと思った」
「私が火魔法でがんがん倒して道を作るから、2人ともどんどん先に進んで」
「了解」
進路以外の敵には脇目もふらず、ひたすら前に進む。
4時間後、通路の片隅でミーナの作ったサンドイッチを皆で頬張り、お茶を飲んだらまた進み出す。
夕方4時10分、やっと18階層への階段を上る。
目の前に現れたのは、鎧で武装したトカゲ。
<特殊鑑定>に、『リザードソルジャー。個人推奨ジョブレベル29。弱点属性は火と風。ドロップ品はノーマルが魔石、レアはシミター』と表示される。
シミター辺りは良い値がつくかも。
「ミーナ、この敵は風魔法も弱点だよ。
ここは無理して槍を使わず、首筋に魔法を放つのでもオーケイ」
「分ったわ」
「じゃあいくよ」
夕方6時ぎりぎりまで、敵を
翌日の朝8時30分。
14階層での無双を終えて、18階層の2人と合流する。
剣と盾を構える敵に対して3列に並び、3方向から攻撃を仕掛ける。
私とリーシャは剣、ミーナは槍を持ち、更に私は火魔法、ミーナが風魔法で先制する。
特に、少し離れた場所にいる相手には、ミーナが風魔法で挑発し、怒って走り寄って来たところを私が火魔法で消滅させるという戦法が功を奏し、余計な距離を歩くことなく多くの敵を倒せた。
4時間後、昼食のために一休みする。
ミーナの作るお弁当はかなり美味しい。
生活費の節約のため、なるべく自炊していたというミーナは、料理のスキルが4だ。
これは、先日まで泊まっていた宿の主人(女性)が、料理スキル3だったことを考えればかなり高い。
しかも、彼女が1人暮らしをしていた時とは異なり、今は食材にも調味料にもお金をかけられる。
あく抜きや灰汁取りなど、丁寧に下仕事がしてある彼女の料理は、基本的に薄味なせいもあり、健康にも良い。
以前は心身ともに疲れていて、掃除は手を抜いていた彼女も、料理だけはきちんと作っていた。
美味しい物を食べて、精神的に満たされることで、日々の疲れをできるだけ残さないようにしていたのである。
今の生活は、ある意味、以前よりもずっと忙しい。
けれどそこからくる疲れは身体的なものであり、それも適宜回復魔法で癒して貰える。
そしてその心は、以前とは比べ物にならないくらい充実している。
そのことは、毎朝迷宮に入る際、入り口に立つ騎士団員の羨ましそうな表情からも明らかだ。
彼ら(彼女ら)と交わす短い会話にも、以前は知らず知らずに漏れ出ていた諦観の色が全く見えない。
団員の中には、この朝の短い時間を楽しみにしている者も多かった。
『ご馳走さまでした』
食前は勿論、食後もきちんと皆でそう声に出し、両手を合わせる。
2人に【神官】のジョブを得させるためでもあるが、感謝の心も決して忘れない。
ミーナも進んで行っていた。
ゆっくりとお茶を飲んだら、まだ戦い始める。
負ければ死ぬ戦いであるのに、今はほとんど恐怖を感じない。
そこに在るのは、適度な緊張感だけだ。
食後なので、最初は歩きながら、だが次第に小走りで突き進む。
今日中に19階層に上がるため、進む道はほぼ直線だ。
「あ、やっと見つけた」
午後4時40分、19階層への階段を見つける。
もう十分、シミターは取った。
私は迷わず階段を上がった。
「まあ、蛇そのものよりは増しかな」
30mくらい先に居る魔物を見て、私はそう言うしかない。
<特殊鑑定>には、『ラミア。個人推奨ジョブレベル30。弱点属性は火と雷。毒爪と巻き付き攻撃に注意。ドロップ品はノーマルが毒消し(改)、レアは蛇弓』と出ている。
「結構大きいわね。
上半身が140㎝くらいあるから、体長は4m近いかしら」
「ちゃんとブラをしてるのね。
剝き出しじゃなくて良かった」
「外部のラミアはそうでもないわよ?」
「ええ!?」
「騎士団での討伐任務で、1度見たことがあるの」
「顔があんなだからまだ救われるけど、男性団員とか、やりづらくないのかしら?」
人に多少は似ているが、瞳孔や大き過ぎる口が明らかに違う。
「命懸けで戦っている最中に、そんなことに目がいくようでは長生きできないわ」
「えーっ、私は何か嫌だな。
男性の姿をした魔物が裸で出てきたら、問答無用で消し炭にするけど、目が
男性のはカズヤしか目にしたくない」
「こんな場所で何言ってるのよ。
本当にむっつりなんだから」
リーシャが呆れて突っ込む。
「あの、敵がこちらに気付きましたよ?」
「動きが気持ち悪いから、出し惜しみせずにいくね。
ここは私が火魔法を連発するから」
そう言いながら、近寄って来る魔物に火魔法4をプレゼントする。
身をよじらせて消滅する敵を見ながら、2人に呟いた。
「ここもさっさと通過しようか。
蛇弓はたくさん欲しいんだけどね」
その後、夕方6時まで進めるだけ進んだ。
「今日のリーシャには、お風呂でのハグハグはなし」
「ええ!?
どうしてなの?」
「私のこと、『むっつり』って言った」
「だってそれは・・」
「私は別にエロい意味で言ったんじゃないの。
本当に、純粋な気持ちでそう口にしたの。
だって私は(主観的には)彼のものだから」
「・・ごめんなさい」
「さあミーナ、おいで」
身体を流したばかりの彼女に向かって両手を広げる。
リーシャを見ながら、遠慮がちに近付いて来た彼女を抱き締める。
お互いの肌が触れ合う感触に、ミーナが満足げな溜息を漏らした。
「ううっ」
それを見て、切なそうに身をよじるリーシャ。
「ごめんね、半分は冗談だから。
あなたにそんな意地悪なことなんてできない。
カズヤに関することは本当だけど、リーシャに言ったことは嘘。
・・お願い、来て?」
ミーナへの抱擁を解くと、今度はリーシャに向けて両腕を広げる。
「信じてはいたけど、少しだけ泣きそうになったわ」
リーシャがしっかりと抱き付いてくる。
「本当にごめんね。
あなたのそんな表情もそそるから、1度やってみたかったの。
お詫びに、エロいこと以外なら、できる範囲で言うことを聞くよ?」
「じゃあ今日の抱き枕当番は私ね」
「分った。
ミーナにはもう1度ハグハグするから、それで許してね」
首だけを彼女に向けて、2日続けてリーシャを当番にすることを詫びる。
「ええ、勿論」
「でもさ、こうしてると、何か『禁断の園』って感じがするよね?」
「『感じ』じゃなくて、そのまんまじゃない」
「えーっ、全然違うよ。
みんなだって、小さい頃はお母さんと一緒にお風呂くらい入ってたでしょ?
湯船の中で、抱っこして貰ってたでしょ?
それと同じよ」
「「・・・」」
「・・え、何で2人ともそんな顔するの?」
「今日の抱き枕当番は辞退させて貰います」
「私も」
「ええ!?
どうしてなの?」
「自分で考えなさい」
その夜、夏海は久し振りに、1人寂しく眠るのであった。
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