第30話
翌朝6時。
リーシャを連れてソニの村に跳び、銀貨2枚を支払って遠乗りを開始する。
昨夜、騎士団勤めで国の地図を見たことのあるミーナから、大体の町の位置をノートに書いて貰っていた。
毎日途中まで移動しては、そこから馬ごと転移で戻り、翌日は昨日行った場所まで転移で跳んで、そこからまた馬で走るの繰り返し。
日々そうして、ソニの村から行ける他の3つの町までの移動手段を作るつもりだ。
私の転移はやっとEになったが、1度行ったことのある場所までしか跳べないので、めんどうだが仕方がない。
ただこのお陰で、開始早々に地図作成スキルが3になり、脳内のマップ上に、私達と魔物以外の第三者の存在が緑色で表示されるようになった。
勿論、リーシャは私とは別行動だ。
彼女の場合は乗馬スキルを得るためだけなので、見回りも兼ねて、馬で村の近辺をゆっくり歩いて貰っている。
毎日1時間ほどそうしたら、馬に回復魔法を掛けて厩舎に戻し、家で待っているミーナと合流して、迷宮を攻略する。
今日は昨日の続きで16階層を進み、17階層への階段を見つけるつもりだ。
【戦士】を取れたリーシャには斧を使って貰い、前回よりも速いスピードで突き進む。
ドロップ品目当てなので、今回も16階層の入り口から始めたが、昼食までに昨日と同じ場所まで来てしまった。
私とミーナに、【斧使い】のジョブが加わったことが大きい。
私の場合、昨日から既に1200体以上のソルジャースケルトンを倒しているし、ミーナだって300は倒している。
なので、ミーナには午後から槍に持ち替えて貰い、【戦士】の取得を目指して貰う。
私は【市民】のジョブを外して、【斧使い】を3番目に設定した。
昼食後、更に夕方6時まで、16階層で狩りを続ける。
途中で階段を見つけたが、ここは今日で最後だと思うと、どうしてももう少し稼いでおこうと頑張ってしまった。
案の定、他の2人からは『分ってるわよ』という目で見られてしまった。
「フフフッ、皆様お待ちかね、ステータスウインドウ開示のお時間がやって参りました」
帰宅後直ぐに入ったお風呂の中で、私は少し浮かれてそう口に出す。
「自分のものだし、もう知っているけれど」
「まあそう言わずに。
おめでたいことなんだから」
リーシャの突っ込みを軽く往なして、皆のステータスウインドウを順番に開いていく。
情報量が多いので、変化のあったものだけを見る。
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氏名:リーシャ・エテルナ・ハイヨルド
ジョブ({ }は設定中のもの):{【剣士】35 ☆【魔法使い】19 ☆【戦士】2} 【斧使い】7 【槍使い】1 【都民】11
HP:3450
MP:4250
スキル:<PA:盾4>
ユニークスキル:<PA:アイテムボックスF>
所持金:5万500ギル
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氏名:ミーナ・ラングレー
ジョブ:{☆【騎士】25 ☆【魔法使い】14 【剣士】17} 【斧使い】1 【町民】8
HP:3150
MP:3950
スキル:<PA:盾4>
所持金:7万4567ギル
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氏名:水月 夏海
ジョブ:{☆【魔法使い】20 【剣士】41 【斧使い】3 ☆【神官】20 ★【賢者】10} 【市民】45
HP:6370
MP:9170
スキル:<PO:地図作成3>
ユニークスキル:<PA:転移E>
魔法:【回復魔法】3 【火魔法】6
生活魔法:【浄化】5
所持金:290万1500ギル
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「やっとリーシャがアイテムボックスを持てたから、預かっていた荷物を後で返すね」
奴隷の館から出る時に預かった、彼女の私物のことだ。
「ええ、ありがとう」
「ミーナももう少しだね。
このままいけば、3、4日で何とかなりそうかな」
「上位職のレベルを5も上げるのに3、4日って・・」
ミーナが苦笑いしている。
「レベルが低い内は上がるのが早そうだから大丈夫じゃないかな。
明日からは17階層だしね」
「今までだって、1年で3くらいしか上がらなかったのに。
この町の騎士団員の最高レベルは、確か48よ?」
「へえ、意外に高いんだね」
「もう50過ぎのベテランだし。
私くらいの年齢だと、みんな20以下のレベルでしかないわ」
「・・それでこの町の治安は大丈夫なの?」
「今は平和だからね。
戦争や飢饉でもなければ、そうそう治安が悪くはならないから。
外部の魔物も、冒険者達が大体何とかしてくれるから」
「治安が良い時にこそ、しっかり鍛えるべきなのに・・。
悪くなってからでは、そんな時間は取れないんだから」
「そうね。
私も何度か上にそう言ってみたけれど、『個人でやる分には構わない』としか返事が返ってこなかった。
騎士団員は、任務以外では許可なく迷宮に入れないから、外部で腕を上げるしかないんだけど、外傷を負う分、1人だとかなり厳しいからね」
「中央の騎士団もそんな風なの?」
「さすがにそれはないわ。
王都の騎士団には、レベル50や60の人がかなりいるわよ?」
「良かった。
この町だけなのね」
「多分ね」
「ねえ夏海、【戦士】を得た私に、何かご褒美はないの?」
「欲しい物でもあるの?」
「ここで思い切り抱き締めて。
1分くらいはそうしてね」
「何だ、そんなこと?
・・おいで」
湯船の中で立ち上がり、両手を広げて彼女を迎える。
同じく立ち上がったリーシャが、嬉しそうに自分を抱き締めてくる。
「!」
違和感を覚えて、彼女の首に添えていた頭を起こす。
「・・どうしたの?」
それに気付いた彼女が、訝しげに尋ねてくる。
「お風呂から出たら神殿に行くわよ」
「え?」
「みんな急いで身体を洗って」
いつになく真面目な顔をした私に、2人は意味が分らないというような表情をしながらも、大人しく従ってくれた。
『女神様、夜分に申し訳ありません。
今回はたってのお願いがあって参りました』
誰もいない女神像の前で、3人で跪く。
『・・一体何ですか?』
これまでにない、強い念を込めた私の思念に、少ししてから答えてくださる。
『私達3人の身体についてですが、どんなに鍛えても、身体が筋肉質になることなく、女性らしい柔らかさとラインを保ち続けることはできないでしょうか?』
『・・・』
『どうか、どうかお願い致します。
今後のモチベーション維持のためにも、どうか・・』
『・・分りました。
主神である旦那様も同じお考えですし、願いを叶えましょう』
『ありがとうございます!!』
『但し、相応の負担はしていただきます。
帰り際、神殿に200万ギルの寄付をしていきなさい。
この国の孤児院運営に充てます』
『かしこまりました』
私達3人の身体を、神々しい光が包み込む。
『これでもう大丈夫です。
励みなさい』
私との念話の際には、いつもぼんやりと光る女神像から、その光が失われる。
今の所は最大と言っても良かった懸念が無くなり、晴れ晴れとした気分で神殿を後にする。
因みに、受付で『女神様の思し召しに従います』と言って200万ギルの寄付をしたら、担当席にいた女性2人が目を回していた。
「うん、これよこれ!」
夕食後のベッドの中で、リーシャとミーナを交互に抱き締め、その胸に頬擦りしながら抜群の弾力と柔らかさを堪能する。
神殿を出た後に寄ったいつもの定食屋で、食事を取りながら事情を説明すると、最初は呆れていた2人も、自身の身体から女性らしさが失われることがないと知って、大いに喜んだ。
強くはなりたいが、男性のような体つきに変わってしまうのは躊躇われる。
胸がなくなり、腹筋が割れてごつごつした体型になることで、夏海からそっぽを向かれるのを恐れなくて良い。
彼女の性格からして、仲間として見捨てられるなんてことは有り得ないだろうが、肝心の抱き枕係や、入浴の際のスキンシップがなくなっては非常に困る。
リーシャとミーナの2人は、あまり顔には出さないが、夏海を心底慕っている。
薄い下着越しに、お互いにしっかりと抱き合って眠る時間は、彼女達にとっても至福の
「これからずっと安眠できそう」
「どう、200万ギルの価値はある?」
「安いくらいよ!
2人なら、たとえ借金してでも500万までは払うわ」
「・・直に触れても良いのよ?」
「それはお風呂の中でだけ。
ベッドの中だと、違う目的になりそうだから」
「私はそれでも良いのに・・」
「そういうのはミーナとどうぞ。
私はカズヤに操を立ててるの」
両脇の2人が顔を見合わせる。
「・・もしそうなるとしても、それはずっと先の話よね」
「ええ。
私も最初は夏海が良いから」
「ちょっとちょっと、私、女だからね?
見て触って楽しむ分には良いけど、そういうことをするなら、基本的には男性が良いの」
「200万ギルも支払ったのに?」
「あ、そうだ思い出した。
明日から、迷宮での初めの1時間は、私だけ14階層で始めるから。
2人は元の階層で安全に戦っていて」
「私達もそこで良いわよ?」
「それじゃ意味ないの。
ドロップ品目当てだから、<レアアイテムドロップ率S>がある私1人じゃないと効率が落ちるから」
「MP回復薬で稼ぐのね。
・・仕方ないか」
「あ、また思い出した!」
「今度は何?」
「2人と念話機能を開いておかなきゃ。
女神様に頂いたこの指輪で、3人までと念話ができるの。
1人はカズヤだから、あと2人はリーシャとミーナね」
「念話って、夏海がいつも女神像の前でやっている、あれのこと?」
「そうだよ。
頭で念じるだけで相手と会話ができるから、離れていても意思疎通が可能なの。
もし危なくなったら、それで教えてね」
「夏海とだけ?
私とミーナではできないのね?」
「多分。
この指輪の機能だから」
「どうするの?」
「とりあえず起きて、一旦ベッドから出てくれる?
お互いに両手を合わせないとならないから」
言われた通りにする2人と、カズヤに教えられたやり方を試す。
「ん、んん・・何だか気持ち良い」
「お互いの魔力を循環させてるから。
カズヤにして貰った時は、この何倍も気持ち良かったよ?」
夏海の何気ない言葉に、僅かな対抗心を燃やす2人。
そんなことには全く気付かずに、夏海は2人と念話ができるようになったことを、純粋に喜んでいた。
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