第28話

 ミーナが新たにパーティーに加わった事を、試練の完了報告を兼ねて、女神様にお伝えに行く。


3人揃って女神像の前で跪いてお祈りすると、直ぐにお言葉をかけられた。


『ご苦労様でした。

あなたの今回の働きに、わたくしは十分満足致しております』


『ご満足いただけて幸いです。

今回は、こちらに控えるミーナ・ラングレーを私達の仲間に加えたことをお知らせに参りました。

私達共々、どうか彼女を宜しくお願い致します』


『今回の試練は、彼女をあなたに会わせるためのものでもありました。

よって、彼女にもリーシャと同様の便宜を図ります』


『ありがとうございます!』


『今後の試練は、ステータスウインドウのメール欄の下に表示させます。

励みなさい』


『はい』


ミーナにも便宜が図られたことにほっとしつつ、神殿を後にした。


そしてこの数か月後、ミーナを退団に追い込んだことに恨みを持った同僚の騎士達によって、本部にこの件の密告をされた団長は、その地位を剥奪され、本部へと呼び戻されるのであった。



 「これでギルド登録とパーティー登録が済んだし、次は家を購入しに行こうか」


冒険者ギルドでミーナに関する手続きを終え、外に出てから2人に話しかける。


「私の家を使ってください」


「良いの?」


「勿論です。

どうせ売ろうかと思っていたところなので」


「じゃあちょっと見せて貰える?」


ミーナに先導して貰い、町の外れに立つ1軒家へと案内される。


中を見せて貰うと、2階建てで、1階には玄関ホールの他、浴室とトイレ、食堂があり、2階は4部屋全てが客室になっていて、その内の1つを彼女が使っていた。


幸いにもトイレは水洗で、浴室も大人3人が入れるくらいには広かった。


古ぼけていることを除けば、住むには何の問題もない。


各町の迷宮攻略のためにも、拠点となる家を幾つか購入しようと考えていたので、この町の家はここで十分だ。


「問題ないね。

この家、私が買い取るね」


「良いですよ、そんな。

建ててからもう大分経ってますし」


「でも、あなたの唯一の財産なんでしょう?」


「当面の生活費はあるので、心配ありません」


「2人がレベル30になって、アイテムボックスのスキルを得て盗難や紛失の恐れが無くなったら、きちんと毎月のお給料を支払うつもりだけど、それまでは安全面を考慮して、必要な分しか渡さない方が良いと思うの。

今は金貨5枚だけを渡しておくから、後で不動産の相場を調べて、残りの分を支払うね?

この家は、あなたがご両親から受け継いだ、大切な資産だもの。

皆で使わせて貰う以上、ちゃんとお金を支払いたいの」


「・・ありがとう」


「お礼を言われるようなことじゃないよ?

当然のことだから」


ミーナに金貨5枚を渡し、リーシャにも尋ねる。


「リーシャはお金大丈夫?

無くなったら言ってね?」


「全然減っていないわ。

使う時がないもの」


「たはは。

来週から週1でお休みを入れるから。

とりあえずレベル30になるまで頑張ろう」


「ええ」


「因みにミーナ、【騎士】のジョブ取得条件は、戦闘基本職1つと、<盾>と<乗馬>のスキルで合ってる?」


「ええ、そうよ」


「やっぱりそうなのね。

私は明日から、ソニの村で毎朝1時間、遠乗りしてくる。

地図スキルも上げたいし、転移で行ける場所を増やしたいから。

リーシャは迷宮で槍を使い続けて、【槍使い】を取ろう。

ミーナも槍か斧を使って頑張ってね。

恐らくだけど、戦闘基本職を3つ以上取れば、【戦士】のジョブが得られるはずだから。

上位ジョブを増やせば、その分HPとMPが加算されるから、積極的に狙っていこうね」


「ええ、分ったわ」


「夏海の迷宮攻略は異常よ。

慣れるまでは大変だから、無理しないでね」


「え、そうなの?」


「恐らく、騎士団での訓練がお遊びに思えるわ」


「・・・」


「そんな、大袈裟だよ」


「まだ時間もあるし、これから試しに潜りましょうよ」


「行く?

あ、でもその前に、ミーナの防具を揃えないとね」


騎士団を辞める際、彼女の騎士としての装備は、全て返却してしまったのだ。


町の防具屋の1つに入り、彼女用の兜に鎧、籠手とロングブーツを探すと、ちょうど入荷があったばかりで、質の良い、ぴったりの物が見つかった。


全部で1万4000ギルを支払い、一式を揃える。


夕方6時まで、あと2時間くらい。


入り口で15階層まで跳んで、16階層への階段を目指すことにした。


迷宮に入る時、ミーナを見た騎士達が、驚いた顔をする。


彼女が事情を説明すると、皆が(団長への)怒りと悲しみの表情を浮かべて嘆いていた。


「随分好かれていたのね」


リーシャが慈しむような声で、ミーナにそう告げる。


「さあ、どうでしょう?

確かに団長以外とは普通に接していましたが」


「私が男だったら、毎晩リーシャとミーナを取っ替え引っ替えしてるから」


「そ、そう?」


何だか嬉しそうなミーナ。


「夏海はむっつりだから、実際には手を出してこないんだけどね」


「酷い。

そんなこと言うなら、今夜は寝かさないよ?」


「良いわよ?」


「・・さあ、お仕事頑張ろう」


口ではリーシャに勝てない彼女は、あからさまに話題を逸らした。



 「たった2時間弱でそれ?」


ミーナを新たにパーティー登録して、3人で迎えた戦闘は、夏海は勿論のこと、リーシャとミーナの物理組にも大きな効果をもたらした。


ミーナのジョブを3つまで設定できるようになり、【騎士】と【魔法使い】の他に【剣士】まで加えられた結果、その分余計に『攻撃力上昇(小)』の効果が加算される。


【騎士】は☆が付く戦闘上位職なので、元々『防御力上昇(中)』が付いている。


15階層の魔物程度では、魔法をも駆使した2人の槍に、全く歯が立たなかった。


夏海が魔法でどんどん魔物を倒すたび、5割を超える勢いでドロップする品々。


1個600ギルで売れる白トリュフが、この2時間で50個以上落ちたことを知らされたミーナが呆然とする。


夕方6時5分前まで粘って、16階層への階段を踏みしめたら、急いで転移して迷宮を出る。


「先ずは宿に挨拶に行かなきゃね」


この町で住む場所を得たため、これまでずっとお世話になっていた宿を出ることになる。


お弁当までお願いしていた宿なので、きちんと挨拶しておきたい。


宿の主人に事情を話し、お礼を告げて、残りの予約はキャンセルせずに料金はそのまま収めて貰った。


「次は買い出しだね」


これからは、朝食と昼食を自分達でどうにかしないといけない。


方針が決まるまでは、市場や屋台で買った物を食べるしかない。


ミーナは料理スキルが高いが、レベル30以上になるまでは戦闘に力を入れて貰いたい。


前回、急な討伐で食料に不自由した経験から、馴染みのお店で白パンを買い占め、市場で皆が好きな果物と野菜を数週間分購入し、塩や胡椒、醬油などの調味料も揃えて、屋台でもそれぞれが食べたいと思う料理を1週間分買った。


その後、いつもの定食屋に入り、3人で簡単なお祝いをする。


私がこの世界に居る間は、この2人とは離れない。


戦闘もお風呂も寝る時も、ずっと一緒にいたい。


あ、お風呂だけは時々別になるかな。


私がカズヤと入る際は、他の2人は嫌がるかもしれないし。


とにかく、リーシャとミーナは、私が久しく失っていた家族も同様。


大切に、大事に、仲良く過ごしていきたい。


そのためには皆がもっと強くなり、魔物は勿論、外部からの悪意に耐えられるだけの存在にならねばならない。


平穏を得るためには十分な力を。


これは、どの世界でも当てはまる事実だと思うから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る