第ニ章 新たに仲間を加えて

第21話

 「宿に戻る前に、鍛冶屋に寄っていくね」


「ええ」


それらしい店が固まった場所に赴き、信頼できそうな相手を<特殊鑑定>で以て探す。


ふと、逞しい身体をした女性に目がいく。


まだ若く、工房も比較的新しい。


犯罪歴、状態、スキルなどを盗み見ていく。


<PO:鍛冶4>、<PA:特殊鑑定E>、<PA:アイテムボックスF>を見つけ、その女性に声をかけた。


「済みません、剣の打ち直しをお願いできませんか?」


「ん?

・・構わないよ。

物を見せてくれる?」


「こちらです」


以前手に入れた、☆2の長剣を差し出す。


「・・こりゃあもう直ぐ折れるね。

ただ、通常の鍛冶では駄目かもしれない。

魔鉱石が必要になると思うけど、持ってるかい?」


「ええ。

どのくらい必要ですか?」


「3つくらいだね」


「ではこれを」


アイテムボックスから3つ出して渡す。


「・・もしかして、余分に持ってるのかい?」


「はい。

まだそれなりにあります」


「剣の打ち直し、それも魔鉱石を使っての仕事なら、本来は3000ギルくらいなんだが、もし魔鉱石で払ってくれるのなら1つで良い。

どうだい?」


「じゃあそれでお願いします」


更に2つ差し出す。


「ん、1つで良いよ?」


「運良くたくさん手に入れたので、お近づきの印に差し上げます」


「そうかい!?

凄く助かるよ。

2日で仕上げるから、それ以降に取りに来てくれる?」


「分りました」


引換証を貰い、店を離れる。


「・・良い剣だったわね」


「剣を鑑定して、何か見えた?」


「ええ。

☆が2つも付いていたわね」


「やはり見えるんだ?

<特殊鑑定>がどれくらいのレベルだと可能なんだろ?」


「さあ?

少なくとも、以前の私の周囲には、他に居なかったわね」


「今度は服屋に寄ろう。

あなたの衣類を揃えないと」


あの館から持参したリーシャの荷物は鞄1つと装備類だけで、衣服はよそ行き用の豪華なものが1点と、3枚の下着しか持っていなかった。


今着ている服も、鞄に終ってある物ほどではないが、品の良い高価な品で、とても迷宮内の戦闘では着れない。


この国に辿り着くまでに着ていた戦闘服は、ボロボロになったので捨てたと言っていた。


「ありがとう。

さすがにこの格好では戦えないものね」


以前立ち寄った店に足を運び、リーシャ自身に好きに選ばせる。


戦闘用の服は、意外にも私と同じ黒だった。


「その色で良いの?

あなたには少し地味なんじゃない?」


「どうせ汚れるんだし、この色の方が目立たないから。

夏海と同じ色だしね」


「ベルトに通すポーチも買ってね。

まだアイテムボックスが使えないでしょう?」


「そうね。

じゃあ遠慮なく」


下着類も予備を数枚買い足して、私の物と共に精算する。


「折角だから靴も見ていこう」


今まではずっと初期装備のブーツを履いていたが、宿や家では楽な物に履き替えたい。


木靴と違って革靴はそれなりの値段がしたが、1足700ギルくらいなので、2人分買った。


「神殿に寄ってからご飯にするね」


「女神様にご挨拶するの?」


「そう。

あなたをご紹介しないと」


少し離れた場所にあるし、もうそれなりの時間なので、リーシャの手を取り転移で跳ぶ。


受付で2人分のお布施を渡し、女神像の前で2人揃って跪いた。


『女神様、奴隷として仲間を迎え入れましたので、ご挨拶に参りました』


『・・心身共に美しい娘ですね。

安心致しました』


『彼女には既に私の立場を話し、理解と協力の意を得ております。

どうか私共々宜しくお願い致します』


『分りました。

細やかながら、その娘にも便宜を図りましょう。

あなたが直接操作することで、その娘にはジョブを3つまで付けることを可能にします。

励みなさい』


『ありがとうございます!

女神様のご意思に沿うよう、今後も精進して参ります』


『期待しています』


念話はそこで途切れた。



 よく行く定食屋で夕食を取り、宿に戻ってくる。


宿の主人に事情を話し、追加料金を支払って、1人部屋から2人部屋に変えて貰う。


部屋に入るなり全体に浄化をかけて、2人とも買ったばかりの部屋着に着替え、靴を脱ぐ。


「はーっ、やっと落ち着いたわね」


ベッドにダイブして、身体を伸ばす。


「夏海って、見た目と違って大分庶民的よね」


椅子に優雅に腰かけたリーシャが笑う。


「それはもう、生まれも育ちもれっきとした庶民ですから」


「ちょっと信じられないけどね。

何処かの国のお姫様と言われても違和感ないわ」


「ありがとう。

でもね、実際になろうとは思わないな。

いろいろ窮屈で大変みたいだし?」


リーシャの顔を見て、意味深に笑う。


「礼儀作法や、見栄を張るのがめんどうなことは認めるわ」


「これからは自由に生きてね。

3つの義務以外、あまり五月蠅いことは言わないから」


一転して、真面目な顔でそう告げる。


「ええ、ありがとう」


「そうだ、自由に使えるお金を渡しておくね」


起き上がり、アイテムボックスから金貨と銀貨を5枚ずつ手渡す。


「こんなに良いの?

今日だけでも相当使ったはずでしょう?

あの女主人、結構吹っ掛けたし。

ごめんね。

ユニークスキルを隠しておけば、もっとずっと安くなると思ったのに・・」


「リーシャは自分の価値をよく分ってないよ。

あれでも安いくらいだって。

300万ギルまでなら、たとえ借金してでも支払うつもりでいたよ?」


「嬉しい。

・・ねえ、キスしても良い?」


「唇と、大事な場所以外ならね」


「女の子同士のキスなら、ファーストキスにカウントされないらしいわよ?」


「それは嘘」


「けち」


「明日は5時起きだから、もう寝ましょ」


「え?

そんなに早く起きるの!?」


「冒険者の朝は早いの。

迷宮は、6時からなら安全に入れるから」


「たはは」


「ここのトイレに紙はないから、行く時にはテーブルの上に置いたトイレットペーパーを持っていってね」


「そうなの!?」


「はい、じゃあおやすみ」


下着だけの姿になると、私はさっさと布団を被った。



 「・・眠い」


「7時間くらい寝たでしょ。

その内慣れるから」


朝6時に迷宮に入り、1階層の転移紋前でリーシャと話す。


「昨日神殿に伺った際、女神様があなたを祝福してくれたの。

私が操作することで、あなた、ジョブを3つまで付けられるわよ」


「!!」


「ただ、まだ【都民】しか選択肢がないから、頑張って他にも覚えよう」


とりあえず食事の際は、手を合わせて『いただきます』と『ごちそうさま』を習慣にして貰った。


理由を話したら、目を丸くして驚いていたけど。


「どの階層から始めるの?」


「リーシャ、迷宮で戦った経験は?」


「8歳から13歳まで、週1くらいでお供の騎士と潜ってたわ。

9階層までは行ったことがある」


「なら大丈夫だね。

装備も良い物みたいだし」


鋼の兜に鋼の鎧、革の手袋の上から鋼の籠手を着け、硬革のロングブーツを履いている。


長剣と盾も鋼だ。


アイテムボックスから出し入れする際、軽かったから軽量化の魔法でも掛かっているのだろう。


「騎士団の初期装備よ。

私が着用していた専用装備は、国を出る際に没収されたから」


「・・世知辛いね」


「気にしてないわ」


「11階層に転移して戦おう。

初めてだけど、2人なら大丈夫だと思う」


「了解」


ここの魔法陣は3階層ごとなので、自分のスキルを用いて11階層まで跳ぶ。


出会った敵は、コボルトだった。


『コボルト。個人推奨ジョブレベル20。弱点属性なし。土魔法及び水魔法のレベル1を使用』と<特殊鑑定>に表示される。


ドロップ品はノーマルが魔石、レアは魔法の杖だった。


「リーシャはまだ障壁が使えないから、相手の魔法は盾で受けて。

撃たれる前になるべく倒すけど」


「分った。

私は剣で攻撃すれば良いのね?」


「うん。

無理しない程度で良いよ」


「私をちゃんとパーティーに入れた?」


「あ、ごめん!

今操作するね」


ステータスウインドウを開き、自分の名前をタップする。


すると『勧誘』と『脱退』の文字が表示され、『脱退』は暗くて選択できない。


『勧誘』をタップして、現れた文字盤にリーシャのフルネームを打ち込んで送信すると、直ぐに彼女から『了承』の文字が送られてきて、これでパーティー登録が完了する(同姓同名の者がいた場合は、勧誘者に最も近い者が選ばれる)。


以前、カズヤに教えられたやり方だ。


「パーティー戦は初めて。

何だか安心する」


「え?

今までずっと1人で戦ってきたの?」


「うん。

危ない時はカズヤが助けてくれたけど」


「カズヤって・・例の男?」


「そう」


「強いの?」


「まるで底が見えない」


「そんなに?」


「私でも、彼のステータスウインドウは一切覗けないの。

こちらは見られ放題」


「・・・」


「敵に見つかった。

来るよ?」


また暫く、戦闘三昧の日々が始まる。

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