第20話
「ご主人様、これから宜しくお願い致します」
館の外に出ると、リーシャが丁寧に頭を下げながら、そう言ってくる。
「こちらこそ宜しくね。
お腹空いてる?」
「いえ、朝食はしっかりと頂きましたので」
「じゃあお風呂に入りに行こう。
ちょっと2人きりで話したいこともあるし。
あ、別にあなたが汚れているなんて考えてないからね?」
「フフッ、かしこまりました」
嬉しそうに笑ってくれる。
彼女を連れ、いつもの公衆浴場の、個室に入る。
いろいろ聴きたい事もあるし、いつもの倍、4時間分を借りた。
「脱いだ物は私に預けて。
アイテムボックスが使えるし、返す時には奇麗になってるから」
更衣室で、お互いに服を脱ぎながら、そう話す。
「ご主人様は優秀なのですね。
私と同じご年齢なのに」
普通の人は、ジョブレベルが30以上にならないと使えないからかな。
「はいこれタオル。
出た時にはバスタオルを渡すから、それは身体を洗うやつね。
石鹸やシャンプーは中で同じ物を使えば良いから」
「ありがとうございます」
浴室に入り、かけ湯をして中に入ろうとした時、優しく左腕を取られ、引き寄せられて抱き締められる。
「え?」
驚いていると、身体を離したリーシャが目を閉じながら、ゆっくりと唇を寄せてきた。
呆気にとられたが、何とか反応して彼女にデコピンを食らわす。
「痛っ!」
「何のつもりかな?」
「え?
いきなり入浴に誘われましたので、てっきりご奉仕を要求されているのだとばかり・・。
勘違いでしたでしょうか?」
「・・ああ、ごめんね。
2人きりで大事な話がしたかったから、他の誰にも聞かれない場所が良いと思って。
今滞在してる宿は、少し壁が薄いから」
「そうでしたか。
・・でも、私は別に嫌ではありませんから、必要な時は遠慮なく仰ってくださいね」
「え、やっぱりそういう気があるの?」
「?
やっぱりとは?」
「あなたのステータスウインドウを覗いた時、感情・気分欄に、好意や親愛が現れていたから」
「!!
・・何故見えたのです?」
初めて彼女が、少し警戒する素振りを見せた。
「まあ、その辺りの事も含めて話し合おうと思ってね。
とりあえず、一旦湯に浸かろうよ」
「さて、何から話そうか。
先ずはリーシャが奴隷になろうとした
何処かの王女様だったんでしょ?」
隣ではなく、対面に浸かった彼女にそう問いかける。
「・・話しても良いですが、その代わり、ご主人様のことも聴かせてくださいね?」
「その前に言っておくね。
私のことは『夏海』と呼び捨てでお願い。
私はリーシャを奴隷だとは思ってないの。
友達、仲間だと思ってる。
ただ、奴隷という立場であなたを縛らないと、私の側から離れて行ってしまうのが怖いから、解放はできない。
私には、この世界で頼れる人がまだ1人しかいないから。
でもその人は、ずっと側にいてくれる訳じゃない。
だからあなたを求めた。
私の背中を守り、私と共に戦って、その苦楽を分かち合ってくれるなら、敬語も必要ないし、遠慮も要らない。
友人のように、家族のように接していって欲しいの」
「そこまで私を求めてくださるのですね?」
「敬語は不要ね。
あと、性的には求めてないから。
私、綺麗な女性を見るのは好きだけど、実際に愛そうとは考えてないの。
好きな男性がいるから」
「・・そんなに良い男なの?」
拗ねたような顔でそう言われる。
「それはもう。
リーシャも彼に会えば惚れちゃうかも」
「私、男に興味ないから」
「うわ、ガチでそっち系の人?」
「そうよ?
女性の方が、男よりずっと綺麗だし」
「でも、まだ男性の裸を知らないんじゃないの?」
処女だしね。
「彫像でなら見たことあるから」
フフッ。
「笑ったわね?
夏海はあるとでも言うの?」
「勿論。
もう彼とはここで一緒にお風呂に入ったから」
「!!!」
「言っておくけど、それだけよ?
私だってまだ経験ないし」
「何だ、びっくりさせないでよ。
でもその男のこと、少し見直した。
夏海の裸を見て我慢できるなんて、凄いことだもの」
「えーっ、そう?
確かに自信はあったけど、私からすれば、リーシャの身体の方が男受けしそうな気がする」
肩下までの、奇麗で厚みのある金髪。
澄んだ碧眼に、美しく通った鼻筋、艶のあるピンク色の小さな唇。
白い素肌には
切れ長の美しい臍に、ビキニがさぞ似合いそうなウエストライン。
ガーターストッキングが映えそうな太股、その付け根に生える、黄金色の陰り。
もし私が男だったら、きっと押し倒している。
「私から見れば、夏海の容姿は最高です。
胸元までの、艶やかな漆黒の髪。
その髪と同じ色の、澄んだ切れ長の瞳に、すっきりとした鼻筋と美しい
暖かな色合いの素肌に、自己主張するかのような形良い胸と臀部。
切れ長の臍から漆黒の陰りへと続くラインは、思わず撫でたくなります」
同性とはいえ、その表現は照れる。
あ、それは私も同じか。
「適度なスキンシップは構わないけど、エロさを感じさせる行いはNGね」
「キスは?」
「唇は駄目。
初めてだし、あげたい人がいるから」
「お風呂で抱き締めるのは?」
「・・変な所を触らなければ良いよ」
「夏海は私に第三者との性交を禁じたけれど、あなたも私に触れてはくれないの?」
「え?
・・そこまで考えてなかった」
「私、死ぬまでずっと生殺し?」
「いや、そんなことはさせないけど・・。
あ、次に新しく仲間に入れる女性となら良いよ?」
「私は夏海が良いんだけどな。
誰でも良い訳じゃないし」
「・・因みに、これまでにそういった経験あるの?」
「ないわよ。
立場上無理だったから」
「メイドに手を出したりはしなかったんだ?」
「そんなことする人は三流よ」
そうよね。
彼女達の仕事に、そんなものは入ってないんだし。
「話を戻すけど、どうして奴隷志願に?」
「よくある継承問題よ。
私には異母兄弟が2人いて、私は長女で、しかも1番優秀だった。
私を次の王にと推す人が多い中、政略結婚を断り続けた私には政敵も多く、兄弟の派閥からは何度か命を狙われた。
そんな中、私を庇って親しかった護衛の2人が命を落とし、そこで『もう良いや』と思ってしまったの。
継承権を放棄し、王族の地位も捨て、国から出ることにした。
出国の際、手切れ金として兄弟に貰った50万ギルの残り、16万ギルは、私に付いて来てくれた世話係の2人に全部あげて、あの奴隷商人に条件付きで匿って貰った訳。
自分で選んだ相手なら不満はないし、奴隷になれば、元王女という肩書が消える。
あとは主人となった相手に尽くして、愛を交わしながら生きれば良いと考えてたわ」
「・・侵略されて、家族皆殺しとかいう悲惨なものでなくて安心したけど、それでもかなりきついね。
折角それだけの才能があるのに・・」
「そう、それよ!
夏海、もしかして私のステータスウインドウが全部見えるの?
『感情・気分』は本人にしか見えないはずでしょ?
ユニークスキルも見えてるの?」
「ええ。
魅了や言語能力、全魔法耐性、物理耐性があるね。
特殊鑑定がBなのも凄いけど、1番驚いたのは、全状態異常耐性がAなことかな」
「どうして見えるの!?
・・そういえば、私からは夏海のステータスウインドウが一切確認できない」
「私、特殊鑑定がSだから」
「!!!
じゃあ女神様から直に・・」
「そう」
「他にも何を持ってるの?
護衛に必要だから教えて」
「大体はあなたと同じよ。
アイテムボックスS、転移F、レアアイテムドロップ率S、言語能力S、全状態異常無効、全魔法耐性S、物理耐性Dかな」
「何よそれ!!
ほとんどが女神様からの・・。
・・あなた、一体何者なの?」
「いわゆる『使徒』という存在かな。
私はね、こことは違う世界から来たの。
これは内緒ね」
「・・・護衛なんて要らないんじゃない?」
「要るわよ!
こちらに来て直ぐ、ごろつき共に殺されかけたし」
「!!!」
「それを助けてくれたのが
向こうの世界では戦いに無縁だったから、頭が真っ白になって、何もできなかったの」
「その男性の評価が更に上がったわ。
夏海が無事で、本当に良かった」
「私はね、向こうの世界では独りぼっちだったの。
両親とも事故で亡くなり、身内と呼べる人は誰もいない。
だからここでは友達、仲間が欲しかった。
家族のように接することができる相手が必要だったの。
リーシャ、あなたはもう、私の家族も同様だから」
「ありがとう。
恋人だったら、もっと嬉しかったけどね」
「女同士なら、そう大して変わらないでしょ?」
「・・まあ、気長にいくわ。
先は長いんだしね。
身体を洗ってあげる」
「元王女様に洗われるなんて、なんだか素敵。
私も背中を流してあげるね」
「夏海って、少し変よね。
そう言われたことない?」
それから約3時間、湯船の縁に腰かけたりしながら、2人でたくさんの事を話した。
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