第19話

 翌朝、6時から10時まで迷宮に入り、10階層のフロアボス戦を50回繰り返す。


前回分と合わせて、魔鉱石が30個溜まったところで切り上げ、奴隷商の館に赴く。


入り口を覗くと、以前会話した女主人と目が合って、向こうからドアを開けてくれる。


「いらっしゃいませ。

お待ち致しておりました」


「こんにちは。

今日は奴隷の購入と、トイレットペーパーなどの買い取りをお願いに来ました」


「ありがとうございます。

では先ずトイレットペーパーと歯磨粉の買い取りから致しましょう」


女主人は入り口の鍵を掛け、来客中の札を掲げて、私を奥の部屋へと案内する。


応接室と思われる落ち着いた部屋の中で、彼女が私に声をかける。


「ここに品物を出していただけますか?」


大きなテーブルに向けられた彼女の掌を見ながら、私は問いかける。


「どのくらい必要ですか?」


「そんなにたくさんお持ちなのですか?」


「ええ。

それぞれ100ずつは出せますが・・」


「それは有難い。

全部お願い致します」


「分りました」


自分で使う分を除き、トイレットペーパー120個と歯磨粉100個をテーブルの上に載せる。


「美品ばかりですね。

確認させていただきます」


女主人がスキルを使う素振りを見せ、2分もしないで声に出す。


「確かに。

では料金をお支払い致します」


彼女が部屋に備え付けの鈴を鳴らすと、何処からかメイドが1人現れる。


「これらをみな資材倉庫に。

それが終わったら、紅茶を2つお願い」


「かしこまりました」


アイテムボックス持ちなのか、品物を一度に全部運び出し、退出していく。


「トイレットペーパーが120個で8400ギル。

歯磨粉100個で1万5000ギル。

合わせて2万3400ギルになります。

どうぞお納めください」


専用のトレーごと、アイテムボックスからお金を取り出した彼女が、私を見てそう告げる。


「ありがとうございます」


「次に、ご購入予定の奴隷についてですが、再度ご希望をお聞かせいただけますか?」


私がお金を終うのを見計らい、こちらに椅子を勧めながら、そう尋ねてくる。


「最初にお尋ねしておきたいのですが、女性で処女の方は、こちらにどのくらい居るのですか?」


「現在ですと7名です。

その中で2名が獣人になります。

当館は、奴隷に対しても質の高い扱いをモットーにしております故、その分維持費がかかります。

なのであまり在庫を抱えることができず、全体でも12名しかおりません。

内、男性は3名。

最低年齢は男性の12歳、最高は女性の非処女で23歳になります。

主な取引先は貴族様と大商人ですので、当然、犯罪奴隷は扱っておりません」


「実は私、<特殊鑑定>のスキルを持っているのですが、対象となる人間の方、5人全員を見せていただくことは可能でしょうか?」


「可能です」


そこでドアがノックされ、メイドが紅茶を運んでくる。


「この5名をここへ。

案内は例の者に」


「かしこまりました」


メモらしき物を渡されたメイドが、一礼して去って行く。


暫くして、地球のとある宗教の女性達が身に付けているような、黒い衣服で全身を包み込んだ女性が、5人の少女達を従えて部屋に入ってくる。


「もしお尋ねになりたいことがございましたら、ご遠慮なく当人に」


少女達が横一列に並ぶと、女主人はそれだけを口にして、後は好きに選ばせてくれる。


5名を順に見ていく。


高級店だけあって、皆それぞれに美しい娘達だ。


どの娘も日本の高校でなら、学校で1番かわいいとさえ言われるだろう。


<特殊鑑定S>を発動させ、そのステータスウインドウを見せて貰う。


ジョブもスキルもまちまちだが、ユニークスキルを持っている者はいない。


内3名は、主人となる私が女性だからか、顔には出さないが、気分欄に『今一つ』と表示されている。


『う~ん』


悩んでいると、女主人が口を開いた。


「そろそろ宜しいでしょうか?」


「・・はい」


「では一旦彼女達を下げます」


女主人が黒衣の女性に合図を送ると、彼女は皆を連れて部屋を出て行く。


それを見送って、再度女主人と2人だけで話し合いを始めようとした時、ドアがノックされ、黒衣の女性だけが戻ってきた。


「・・そういうこと?」


女主人の問いに、黒衣の女性が頷く。


「お客様、大変申し訳ありませんでした。

実は、当館には先程の娘達の他に、もう1人、飛び切りの女性がおります。

ですが、その者との契約で、その者が認める相手にしかご紹介ができなかったのです。

今回、お客様はその者のお眼鏡に適いました。

あちらの彼女がそうです。

・・ご覧になりますか?」


「はい、是非」


正直、先程の少女達にはあまり興味が涌かなかった。


なのでこの提案は、渡りに舟である。


私の言葉を受けて、黒衣の女性が衣服を脱ぐ。


「!!!」


綺麗。


それに凄いスタイル。


下着姿になった彼女を、思わず<特殊鑑定S>を用いてつぶさに調べる。


______________________________________


氏名:リーシャ・エテルナ・ハイヨルド

人種:人間

性別:女性【処女】

年齢:17

*スタイル:169・95(H)・56・90

地位:平民(元第1王女)

所属奴隷:なし


ジョブ:【剣士】20 ☆【魔法使い】12 【都民】4


HP:1780

MP:2080


スキル:<PA:盾2> <PO:統治能力4>


*ユニークスキル:<PA:魅了E> <PA:特殊鑑定B> <PO:言語能力C> <PO:全状態異常耐性A> <PO:物理耐性F> <PO:全魔法耐性C>


魔法:【土魔法】4


生活魔法:【浄化】2


状態:異常なし

*感情・気分:高揚 好意 親愛

犯罪歴:なし


*所持金:0


現在地:『第7迷宮の町』


______________________________________


「・・彼女、お幾らでしょうか?」


そのあまりの内容に、もう1つの大事な疑問を後回しにして、そう尋ねてしまう。


「お気に召したようですね。

本来なら、彼女は150万ギルクラス。

ですが、仕入れ値がまるでかかっておりませんので、諸経費込みで80万ギルでお譲りできます」


どうやらこの女主人は、彼女のユニークスキルは知らないらしい。


いや、知らされていないのか。


普通なら、300万ギル以上はすると思うもの。


「やはり彼女は奴隷ではないのですね」


「ええ。

単にこちらで保護しているだけです」


「でもその場合、私が購入したらどうなるのですか?

奴隷契約なしでは、料金だけ支払って、逃げられてしまう恐れもありますが」


「勿論、お客様がご購入なさる際は、正式に奴隷契約を行います。

奴隷紋をお好きな場所に入れ、彼女を支配することが可能です」


「支配、ですか?」


「ええそうです。

奴隷には、主人に対して守るべき、3つの義務が課されます。

これは以前にご説明した主人と奴隷間の義務ではなく、奴隷と第三者の間のものです。

例えば、『主人の許可なく第三者と性交できない』、『主人の許可なく移住、移転ができない』、『主人の許可なく財産を処分できない』などです。

最初のものは言うに及ばず、移住や移転も、他の誰かと暮らそうとしてもそれが叶わず、お金を使う際にもいちいち許可が要るとなれば、買い物はおろか、自分の好きな相手や家に、お金を渡すことすらできません。

予め登録した3つの義務に違反しようとすれば、女神様により心身に激痛が生じる警告が与えられ、それでも行おうとすれば、その場で死に至ります」


「1つ疑問が生じました。

最初の例で、本人の意思に反して襲われた場合はどうなるのですか?

その奴隷は何ら悪くないのに、命を落としかねませんが」


「その場合は、性欲で以て奴隷を襲った者だけが死にます。

女神様は、そういった事に関しては、非常に厳格です。

罪なき者を死に至らしめることはございません。

なので、奴隷になることは、ある意味女性の身を護ることにも繋がるのです」


「なるほど。

大体は理解できました。

彼女、リーシャさんを購入します」


「ありがとうございます。

身分証と料金をお願い致します」


女主人が満足げにトレーを差し出してくる。


眼前に佇むリーシャの感情・気分欄に、新たに『歓喜』が加わる。


アイテムボックスから身分証と金貨80枚を取り出し、トレーに載せると、その枚数を確認した女主人が立ち上がり、リーシャとの奴隷契約を促す。


「奴隷紋を入れる場所と、3つの義務をご提示ください」


「奴隷紋の大きさって、どれくらいですか?」


「直径5㎝ほどの円形です」


女性だもの、あまり他人からは見えない場所が良いよね。


「ならお尻の右側にお願いします」


「義務はどうなさいますか?」


「その義務を全て入れると、後から口頭で『これは駄目』と言っても、彼女に従う義務はないのでしょうか?」


「対外的にはそうなりますね。

後はお互いの信頼関係のみになります」


「では1つ目。

『主人の許可なく第三者と性交できない』

次いで2つ目。

『主人の許可なく別居、移住ができない』

最後に、『主人が敵対する相手側の味方ができない』

これでお願いします」


「・・かしこまりました。

初めて奴隷をお買いになるお立場と致しましては、非常に賢明なご判断だと思います。

少々お待ちください」


メモを取っていた女主人がリーシャの方に歩み寄ると、リーシャが後ろを向き、パンティーを降ろす。


女主人が彼女の右の尻に手を添え、契約魔法を発動させると、そこに小さな魔法陣が浮かび上がる。


手を添えたまま、彼女はリーシャの義務となる言葉を述べる。


「1つ、主人の許可なく第三者と性交できない」


「1つ、主人の許可なく別居、移住ができない」


「1つ、主人が敵対する相手側の味方ができない」


「以上3つを、リーシャ・エテルナ・ハイヨルドが女神様に誓うものなり」


魔法陣の色が濃くなる。


「主人たる者、水月夏海の魔力、或いは血を以って、ここに奴隷契約を完了する」


そこで女主人が手を離し、自分に視線を向ける。


「さあ、こちらに魔力をお流しください」


「分りました」


リーシャの尻にある魔法陣に手を添え、自身の魔力を送り込む。


刹那、激しく輝いた魔法陣は、3秒ほどで光を失い、くすんだ色に落ち着いた。


「これで彼女との奴隷契約が完了致しました。

こちらでご確認ください」


先程渡した身分証を、リーシャの分と合わせて2枚、返還される。


______________________________________


氏名:水月 夏海

人種:人間

性別:女性

年齢:17

地位:平民

所有奴隷:リーシャ・エテルナ・ハイヨルド

犯罪歴:なし

本年度の納税の有無:支払い済

現在時刻:○○○○年○○月○○日○○時○○分○○秒


______________________________________


______________________________________


氏名:リーシャ・エテルナ・ハイヨルド

人種:人間

性別:女性

年齢:17

地位:奴隷 義務詳細 ○(ここに所有者か奴隷本人が触れると、3つの義務が明示)

所有者:水月 夏海

犯罪歴:なし

本年度の納税の有無:支払い済

現在時刻:○○○○年○○月○○日○○時○○分○○秒


______________________________________


前回確認した時にはなかった項目、『所有奴隷』がある。


リーシャの方にも、『所有者』に私の名前が記載されている。


『義務詳細』と書かれた隣の○印に触れると、私が定めた3つの義務が明示され、指を離すと消える。


良かった。


これでリーシャは私の仲間だ。


眼前で、下ろしたパンティーを穿き直した彼女が、とても嬉しそうに微笑んでいた。

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