第18話

 朝6時。


直ぐに9階層に跳び、リザードマンをガンガン狩り始める。


火魔法のレベルは3のまま。


歩きながら、視界に入った相手をことごとく倒していく。


リチャージまで1秒なので、あっという間に周囲の敵を倒し切り、どんどん先へ進む。


敵に出会わない間は、昨日カズヤに指示された、障壁を出す訓練を続けた。


最初は3回に1回くらいしか出なかったが、4時間もするとほぼ毎回出せるようになる。


今の障壁の大きさは、大きな盾1つ分くらい。


私の上半身がすっぽりと隠れるくらいだ。


必要なMPは30。


カズヤは物によっては1500くらい必要と言っていたから、複数のパーティーメンバーを護る分厚い障壁を作れれば、それくらいになるのだろう。


魔法で数を1体まで減らした後、残ったリザードマンと剣で戦って、何度かその攻撃を障壁で受けてみたが、びくともしなかった。


更に2時間、1体も見逃さずに敵を倒して進んだ先に、10階層への階段を見つける。


上に上がると、少し先に大きな扉があるだけだった。


とりあえず、ここで昼食を取る。


食べ終えて水を飲んでいると、珍しくカズヤから念話が送られてきた。


『君はそのままそこで待っていてくれ。

今日はフロアボスと戦おう』


『一緒に戦ってくれるの?』


『ああ。

フロアボス戦は敵が複数出てくる。

ある程度は手助けしてやるから頑張れ』


『分った。

宜しくね』


初めてのボス戦。


勝てばCランクだ。



 「敵が3体いるね。

ゴブリンのようだけど・・」


50mくらい先に、武装した魔物が武器を構えている。


<特殊鑑定S>を使って見ると、『ハイゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンランサー』と出る。


続けて『個人推奨ジョブレベル20。弱点属性なし。ドロップ品はノーマルが銀板、レアが魔鉱石』と表示される。


「初めて飛び道具を持つ相手と戦うから、そこだけ気を付ければ大丈夫だろう。

どういう風に戦うのか見ていてやる。

危なくなったら助けてやるから、先ずは好きに戦ってみろ」


「うん」


以前やったゲームを思い出す。


敵が複数いる場合、先ず初めに倒すべきはヒーラー。


次いで魔法使い。


そのどちらもいなければアーチャーからだ。


念のため、火魔法のレベルを5まで上げて、アーチャーにぶっ放す。


向こうも矢を番えていたが、私の攻撃の方が速かった。


1発で敵が消滅する。


それを見て、他の2体がこちらに駆け出してくる。


今度はランサーに向けて魔法を放つと、その相手も1発で消える。


ハイゴブリンの刃を盾で受け、至近距離から火魔法をぶつけると、ドロップ品を残して消え失せた。


「・・・」


「終わりました」


少し誇らしげにそう言うと、カズヤは微妙な表情をしながら口を開いた。


「君の魔法は現段階では強過ぎるな。

これでは訓練にならない。

今度は魔法抜きで戦ってみろ」


「それだと結構厳しそうね。

・・勝てたらご褒美くれる?」


「勝てるだろうが、・・何が欲しいんだ?」


「一緒にお風呂に入って」


「・・まあ、そのくらいなら良いだろう」


「フフフッ。

俄然やる気が出てきた」


ボスを倒したことで、石畳に帰還用の転移魔法陣が浮かび、後方にあった11階層への扉が開かれる。


このフロアは、一旦扉を開けて中に入ると、ボスを倒すか自分達が死ぬまで出られない。


私達は11階層の手前まで進み、扉が閉じたら転移スキルを使って再度10階層の扉の前まで来る。


他に待っている人達もおらず、3分後にまた戦えた。


アーチャーが放ってくる矢を盾で弾き、近付いて来たランサーの槍を障壁で受け止め、先ずはハイゴブリンの首を取る。


それからランサーを片付けて、離れた場所にいるアーチャーの所まで走って行く。


矢を2本も受ければ直ぐ側まで接近できて、あっという間に倒し切る。


「これでも勝負にならないか。

君もそれなりには強くなったのだな」


「まあ、毎日何時間も戦っているしね」


「まだここで戦うか?」


「魔鉱石がもっとたくさん欲しいから、もう少し繰り返しても良い?」


「構わないぞ。

自分は暇だから、入り口付近で休んでいる」


その後、面白いように落ちるドロップ品に味をめた私は、結局20回以上も戦って、彼を呆れさせるのだった。



 「温かい。

・・そして逞しい」


公衆浴場の個室で衣服を脱いだカズヤを、同じく裸になった私が、正面からしっかりと抱き締める。


じっとしたまま動かない彼に、ぴったりと肌を合わせ、その肩に顔を埋める。


私がそのような行動に出るのには理由があった。


『明日から暫く、君と会う時間が取れなくなる』


彼にそう言われたからだ。


何処か他の場所でやる事があるらしく、1、2か月くらい会えなくなるそうだ。


『もしかして、私に飽きたの?』


恐る恐るそう尋ねたら、『そんな訳ないだろう』と穏やかに否定してくれた。


『なら暫く会えない分、あなたを堪能させて』


不安がまだ残っていた私は、彼と素肌を合わせることで、それを取り除こうとした。



 「あなたと会えない間、できれば他の町にも行ってみて、お金を貯めて、家を買おうと思うの」


湯船の中でカズヤに凭れかかり、何気なくそう言ってみる。


脱衣所で20分も彼を抱き締めていたから、湯を浴びる前なのに身体が火照ほてって、気を紛らわせないといけなかった。


ごまかすようにかけ湯をして、彼を急かして共に湯に浸かる。


「仲間ができれば宿屋では不便だろうしな。

それが良いだろう」


目を閉じたまま、湯船の中で身体を伸ばすようにして縁に凭れた彼がそう言う。


「別の迷宮にも入ってみるつもり」


「この世界の迷宮は、場所によってはかなり面白い。

いろいろ試してみると良い」


「・・また会えるようになったら、あなたから連絡をくれるのよね?」


「ああ。

たとえ君が何処に居ても、すぐ分るから安心してくれ」


「うん、待ってる」


この日は時間ぎりぎりまで個室を使い、その後帰ってゆく彼を、名残惜しそうに見つめて見送った。



 「査定をお願いします」


カズヤと別れてから、冒険者ギルドに顔を出して、いつもの窓口でそう申し出る。


「お待ち致しておりました。

盗賊団討伐による騎士団からの報奨金と、貴族様から、宝石類の返還に対する謝礼が届いております。

先ずはギルドカードのご呈示をお願い致します」


「はい」


「・・今回も、僅かな日数で随分倒されましたね。

あ、10階層のフロアボスも倒されたのですね。

おめでとうございます。

Cランクに昇格致しました」


「ありがとうございます」


「Bランクに上がるためには、何れかの迷宮で20階層のフロアボスを倒す必要があります。

焦らず、無理をなさらず、頑張ってくださいね」


「はい」


「少々お待ちください」


女性が席を離れ、奥の別室から何かを持って戻って来る。


「お待たせ致しました。

こちらが騎士団からの報奨金、30万ギル。

そしてこちらが貴族様からの謝礼金、36万ギル。

貴族様の方からは、ギルドの手数料として1割、4万ギルが引かれております。

どうぞお確かめください」


トレーに載せられた2つの革袋から、それぞれの中身を一旦出して、その場で金貨の枚数を数える。


「はい、確かに」


「それではこちらの書類に受け取りのサインをお願い致します」


何故かこちらでも通じる、漢字で署名する。


「ありがとうございます。

・・ここだけの話、ギルドの上層部でも、これだけ短期間に実績を積み重ねているあなたに、注目が集まりつつあります。

私も、個人的に期待致しておりますから」


最後に小声でそう告げられ、受付を後にする。


あまり注目を集めるのは好きではないが(元の世界の学校でりた)、好意は好意として受け取っておく。


その足で素材買い取り受付へ。


「こんにちは。

買い取りをお願いします」


「あら、いらっしゃい。

貴族様からの謝礼はもう受け取った?」


「はい」


「先方はかなりお喜びだったみたい。

半分諦めていたところに、4つ全部が戻って来たからね。

あなたの名前、覚えておくと仰っていたそうよ」


「喜んでいただけて幸いです」


「じゃあ、今回の品物を見せて貰うわね。

奥に行く?」


「はい」


倉庫の片隅で、たくさんの品物を広げる。


「今回も凄いわね。

鱗の盾がこんなにあるなんて初めてだわ。

鉄剣と毛皮も、ここに持ち込まれる半年分くらいよ。

何より、強精剤が大量にあるのが嬉しいわ。

これ、貴族や商人に高く売れるのよ」


何と無く、そんな気がしてた。


後継ぎを作るのは、彼らの大事な責務だものね。


「10分頂戴」


彼女がメモを取りながら、熱心に査定していく。


「お待たせ。

総額39万7500ギル。

内訳は、鼈甲が1つ300ギルで4万2000、強精剤が1つ500ギルで6万5000、グレーウルフの毛皮は1枚50ギルで5500、その魔石が1個300で2万7000、鉄の剣1本400で5万6000、鱗の盾1つ1500で18万ギル、銀板が1枚2000で2万2000だね。

・・因みにこの額ね、平均的なBランク冒険者の年収の、倍以上だよ」


「・・それでお願いします」


「はいよ。

全く、そんだけ美人で、おまけに超高給取り。

絶対に男がほうっておかないね。

・・この間の彼、あんたの男なのかい?」


「・・(私個人の気持ちとしては)そうです」


「良い男だったものね。

頑張りな」


「ありがとう」


お金を受け取り、屋台で夕食を買って、宿へと帰る。


浄化で奇麗にした部屋の中でブーツを脱ぎ、下着だけになって、ベッドに寝そべる。


ステータスウインドウを確認すると、【市民】29、☆【魔法使い】12、【剣士】24、☆【神官】12、★【賢者】6だった。


火魔法はまだレベル5のままだ。


お金も貯まったし、明日は奴隷を買いに行こう。


それから鍛冶屋かな。


どうか良い女性に出会えますように。

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