第16話

 討伐報告を終えた私達は、今度は買い取り受付へと足を運ぶ。


17名の犯罪歴をざっと見た女性が、『これは・・報奨金がかなり期待できるでしょう』と言っていたので、彼らからはぎ取った装備類については、おまけくらいにしか期待していなかった。


「こんにちは。

装備の買い取りをお願いします」


ここ数日で大分気心の知れた間柄となった女性に、笑顔で挨拶する。


「あらいらっしゃい。

相変わらず稼いでるみたいね。

・・今日は珍しく男連れなんだね。

奥へ行く?」


「そうですね。

結構数があるので」


「じゃあ行きましょう」


『作業中』の札を出した女性が、2人を奥に案内する。


「これで全部です」


私とカズヤがアイテムボックスから出した装備類を床に並べる。


「・・なるほど。

3分頂戴」


女性が1つ1つ装備を確かめて、それをメモに取っていく。


「・・お待たせ。

全部で6万3000ギルだね。

この3つは1つ当たり5000ギル。

その他はどれも大したことないね。

纏めて4万8000ギルかな。

あんたの持ち込む物はどれも奇麗な状態だから助かるよ。

それで、どうする?」


「その額でお願いします」


「はいよ」


「もう1つ見て貰いたいものがある。

・・宝石類なんだが」


「良いけど、たくさんあるのかい?」


「いや、4つだけだ」


「じゃあ査定カウンターに戻って、そこで見せて貰うよ」


「分った」


「どれ、見せてごらん」


席に戻った女性が、カズヤに声をかける。


「これだ」


彼が宝石をカウンターに載せる。


「!!」


女性の目が鋭くなる。


ルーペのような物を取り出し、念入りに調べ始めた。


その後、何かのスキルを使っているような表情をして、深く息を吐いた。


「・・あんた、これを何処で?」


「討伐した盗賊が隠し持っていた」


「なるほど。

じゃあやっぱりそうなんだね。

・・1年くらい前、ある貴族のお屋敷から、代々受け継がれてきた家宝の宝石類が盗まれたんだ。

使用人の男の仕業だったんだが、その男は逃走中に何者かに殺されてね。

それ以来、宝石類の行方が分らなくなってたんだ。

・・間違いなく、この4つはその宝石類だね。

これはうちでは買い取れない。

元の貴族様にお返しして、謝礼を貰うことしかできないよ」


「それで良い」


「手数料がかかるけど、ギルドを通してお返しするかい?

それともあんたが自分で返しに行く?」


「そちらから返却してくれ」


「分った。

大体2日くらいかかるから、その後にまたここにおいで」


「了解した」


装備を売却した代金だけを受け取って、その日はそれでギルドを後にした。



 「ねえ、これからお風呂に行かない?」


「ん?

・・君は既に入っただろう?」


「もう一度ちゃんと洗いたいの。

さっきは彼女達のお世話で、私はよく洗えていないから。

入る前に浄化で落としたけれど、何だかまだ血が付いているような気がして嫌なの」


「分った。

なら今日はここで別れよう」


「駄目よ!

あなただってあそこに居たんだから、しっかりと洗わないと」


「自分は風呂に入るなら、他に人がいない方が良いのだが」


「大丈夫。

あそこの公衆浴場、別料金で個室が使えるみたいだから」


「・・ならまあ良いか」


「フフッ。

行きましょ」


逃がさないように、しっかりと腕を組んだ。



 「済みません、個室をお願いします」


公衆浴場の、普段とは異なる入り口で、受付の女性にそう告げる。


「・・2時間で1000ギルになります」


料金を支払うと、係の女性が入り口まで案内してくれる。


「こちらです」


「ありがとう。

・・さ、入って」


案内してくれた女性にお礼を言い、ドアを開けてカズヤを促す。


「君は通常の浴場を使うのだな。

どれくらいで出てくれば良い?」


「ここまで一緒に来て、そんな訳ないじゃない」


カズヤを中に押し込め、ドアの内鍵をかける。


「・・どういうつもりだ?」


彼の声が少し低くなる。


「お礼がしたいの。

今までもそうだったけれど、今回はあなたにたくさんのことを教わった。

お陰で、今後もこの世界でやっていく自信がついた。

あなた、ドロップ品や装備を売って得たお金は全く受け取ってくれないし、私にはこれくらいしか恩を返せないから」


必死に言い訳を試みる。


「自分はな、お礼や義務なんかで身体を差し出す女性が好きではない」


「義務なんかじゃ決してない!

お礼という表現だって、本音を言うのが恥ずかしかったからよ!

・・私、男性に裸を見せるの、これが初めてなんだよ?

この意味、分ってくれるよね?」


彼に拒絶されるのが怖くて、思わず泣きそうになる。


「・・一緒に入るだけだぞ?」


溜息をきながら、カズヤが声質を元に戻してくれる。


「うん、ありがとう!

あ、でも身体は洗わせて」


「背中だけな」


「・・まあ、それで手を打ちましょう」


「ちょうど良いからこれを渡しておく。

盗賊達から得たお金の半分、20万ギルだ」


お互いが服を脱ぎ始めてから、彼が私に革袋を差し出してくる。


「え、要らないよ。

あなたが貰ってよ」


「受け取らないなら、一緒に風呂に入らない」


「ウーッ。

分ったわよ。

受け取ります!」


「君は早急に仲間を増やしたいのだろう?

何故そんなに嫌がるのだ?」


「だってあなたに何の得もないんだもん」


「あると言っただろう。

因みに、宝石類の謝礼が届いたら、それも全部受け取るように」


「ええーっ」


「嫌なら・・」


「受け取らせていただきます!」


最後の1枚を勢いよく脱ぎ捨てて、アイテムボックスに放り込んだ。



 「我がまま言ってごめんね」


並んで入った浴槽内で、彼の肩にもたれながら、謝罪の言葉を述べる。


個室の家族風呂のようだが、浴室は結構広く、大人でも4、5人は入れるだろう。


「もう怒っていない」


浴槽の縁に両腕を広げ、凭れるように身体を伸ばしているカズヤが、目を閉じたまま穏やかにそう言ってくれる。


「でも、いつもの君らしくはなかったな」


背中を擦るついでに洗ってあげた彼の黒髪から、湯の雫が零れ落ちる。


「焦っていたんだと思う。

少しでも早く、あなたと確かな絆を作っておきたかったの。

・・私、本当にあなたを頼りにしてるから。

・・(異性として)必要としてるから」


アイテムボックスにしまったハンドタオルを再び取り出し、彼の顔に落ちた雫を拭いて、自分の汗もぬぐう。


「もう友人になっているではないか」


「それだけじゃ不安だもの。

あなただけにしかしない、特別なものが欲しかったから」


「・・・」


「心配しないで。

別にあなたを束縛しようなんて思ってない。

私だけのものにしたいなんて考えてない。

でも私だけは、・・あなたを自分にとっての『特別』だと思いたいの」


「まあ、内心の自由は保障されるべきだな」


「フフッ、言ったわね。

あーんな事やこーんな事まで考えてやるんだから」


「・・やっぱり君は少し変だし、そして面白い」


「飽きが来なくて良いでしょ?

長いお付き合いになるんだし」


「・・そうかもな」


「ええ。

きっとそうなるわ」



 お風呂から出て、『今日はもう帰る時間だ』というカズヤを見送る。


やる事ができた私は、その足で神殿へと向かう。


受付でお布施を渡し、女神像の前で跪く。


『女神様、今回は懺悔ざんげに参りました』


『・・・聴きましょう』


暫く経ってから、少し硬いお声でそうお返事下さる。


『申し訳ありません。

彼と一緒に入浴を致しました』


『共にお風呂に浸かった。

ただそれだけですか?』


『背中と髪を洗いました』


『・・何故そのようなことを?』


『彼との明確な絆を欲したからです』


『そこに欲望の類はなかったのですね?』


『・・全くなかったと言えば、嘘になると思います』


『・・まあ、となら、共にお風呂に入るくらいは許しましょう。

あなたも若い、健康的な女性です。

偶にはそういった感情も涌くでしょう。

共に湯に浸かり、互いの心を通わせるだけなら、わたくしは不健全とは言いません。

彼とだけなら、混浴を許可します』


『ありがとうございます!』


『彼を楽しませてくれているようですね。

今後も期待していますよ?』


『はい、頑張ります』


良かった。


認めていただけて、本当に良かった。

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