第15話

 「先ずは彼女達を風呂に入れてやってくれ」


町へと転移したカズヤは、夏海にそう頼んで皆を公衆浴場へと連れて行く。


彼女にお金を渡し、受付でそれぞれのタオルと石鹸を購入させようとしたら、『タオル以外は私のを貸すから大丈夫』と言われ、入浴料とタオル代だけを支払った。


「ゆっくり浸かって良いぞ。

いろいろなものを、ここで全部洗い流していくと良い」


彼女達にそう告げたカズヤは、独り何処かに消えて行く。


「・・じゃあ入ろうか。

石鹸やシャンプーは私のを貸してあげる」


カズヤの背を見送り、4人を連れて、中に入って行く夏海。


2時間以上かけ、それぞれの背中を擦り、シャンプーの使い方を教え、歯ブラシをあげて歯も磨かせる。


広い浴室から脱衣所に出てきた時には、4人ともかなりさっぱりしていた。


「お客様に、お連れの方からこれをお渡しするよう仰せつかっております」


夏海達を見て、受付の女性が4つの麻袋を渡してくる。


事前に彼女達のステータスウインドウを覗いたのか、袋にはそれぞれの名前が付いており、中には新しい下着類と服が入れられていた。


「・・新しい服なんて初めて」


少女が嬉しそうに言葉を漏らす。


「ちゃんとサイズが合ってるね。

どうして分ったんだろ」


他の女性達も、嬉しそうにそれを着ながら首をかしげている。


心当たりのある夏海は、苦笑いしていた。


外に出ると、カズヤが入り口付近で待っていた。


「次は食事に行こう」


夏海が通っている定食屋に全員が連れて行かれる。


「好きな物を好きなだけ頼んで良いぞ。

尤も、普段そんなに食べていなかったのなら、いきなり食べると身体が受け付けないから気を付けろ」


「・・お酒も飲んで良いですか?」


女性の1人がおずおずとそう口にする。


「酔わない程度になら好きに飲んで良い」


「ありがとうございます」


その女性が初めて微笑んだ。


料理が全て揃い、皆が食べ始めると、カズヤが話し始める。


「食べながらで良いから聴いてくれ。

君達の今後についてだ。

もし元居た場所に帰りたいというなら、そこまで送ろう。

もう行く所がないというのなら、この町で住む場所を見つけると良い。

どうしたい?」


「え?

私達を自由にしてくれるんですか?」


それまでカズヤに対して言葉を発しなかった3人目の女性が、驚いたように聴いてくる。


「何故そんなことを聴く?」


カズヤが怪訝な顔をする。


「盗賊達に捕まった者は、貴族や騎士、聖職者を除き、その討伐者が自由に処分して良い決まりです。

彼らに正当な報酬を支払えないなら、奴隷に売られることもあります。

私達にはそんなお金はないので、この後奴隷に売られるのだとばかり・・。

身奇麗にして、栄養を摂らせたうえで、奴隷商に高く売りつけるのかと思っていました」


「・・・」


「彼はそんなこと考えもしないわよ」


少し傷ついたようなカズヤを見て、夏海が口を挟む。


「この人は本当に良い人よ。

ちょっと無愛想だけど、とても優しい人なの。

今日だって、これからパーティーを組んで戦っていく私の為に、いろいろと心構えをさせてくれたの。

私も以前、彼に命を救われたけど、何一つ要求されたことなんてない」


穏やかな声でそう言う夏海を見て、その女性はカズヤに頭を下げた。


「ごめんなさい。

辛いことが多過ぎて、ここに居る3人以外はなかなか人を信じることができなくて・・。

ごめんなさい」


涙ぐむ女性に、リーダー格の女性が声をかける。


「あれだけのことをされたんじゃ、そうなっても仕方ないさ。

折角の彼のご厚意だから、美味しいご飯を食べながら、ゆっくり考えようよ。

ねえ、みんな?」


それぞれが、目を潤ませながら頷く。


場が少ししんみりしてしまったが、どうにか食事を再開させる。


「あたしもそうだけど、他のみんなも帰る場所なんてないよね?

・・耕作に必要な年寄り以外は、村ごと滅ぼされたようなもんだし・・」


「若い人達はどんどん町に流れてしまうからね」


「私の家族は抵抗して皆殺しにされた」


「・・やっぱりこの町に住むしかないか。

でも、先立つものがないしねー」


「それなら心配いらない。

あの盗賊達が貯め込んでいた金の中から、半分を君達に渡そう」


「え!?

お金をくれるの?」


「ああ」


「でもそれじゃあ、あなた達に一体何の得が?

私達を奴隷にしないのに・・。

ギルドの依頼じゃないのでしょう?」


「違うな。

でもちゃんと得られるものはあった。

だから、自分はそれで良い。

金額にして40万ギルくらいあったから、その半分、20万ギルを君達に渡す。

皆で分けるなり、それで何かをするなりすれば良い」


「20万!?」


「・・この町でも小さな家を買えるわね」


「・・お店を開けるんじゃない?」


「みんなで一緒に暮らしたい」


嬉しそうに相談し始めた4人を、カズヤが穏やかな眼で見つめている。


そしてその彼を、夏海が愛しげに見ている。


長く遅い昼食が終わると、カズヤは彼女達を夏海が泊っている宿へと案内し、彼が1週間分の宿代を支払って、4人の部屋を取った。


20万ギル入りの革袋をリーダー格の女性に渡して、『辛かったことを忘れろとは言わないが、できることなら今後の人生を楽しんで欲しい』、そう告げて宿を去る。


夏海は勿論、彼に付いてきた。


「・・彼女達の力になってくれると嬉しい」


「分ってる。

困ってるようなら、できるだけのことはするつもり」


「ギルドに行くから付いてきてくれ」


「うん」


「・・何故腕を組む?

歩きづらいのだが・・」


「友達同士なら、これくらいは普通よ。

『嘘だけど』

ましてやあなたはマブダチだもの」


「君は少し変わっているな。

なかなか面白い」


「それ褒めてるの?」


「勿論」


「あなただって、十分に変(素敵)だしね」



 「済みません、盗賊団を潰してきたので、彼らの身分証を提出したいのですが」


ギルドのいつもの受付で、馴染みの女性にそう告げる。


「・・お一人でですか?」


「いいえ、相棒の彼と2人でです」


自分の少し後ろにいるカズヤをちらりと見る。


「あなたの身分証とギルドカード、それから没収した盗賊の身分証をお預かり致します」


「はい、こちらです」


「随分数が多いですね。

・・17名ですか。

パーティー名が未記入ですが、まだお決めになっていらっしゃらないのですか?」


「・・実はまだ、正式にパーティーを組んでいなくて」


外部での戦闘は、迷宮内とは異なり、先に手を出した者(パーティー)以外も攻撃に参加できる。


なので、後々トラブルになることが多く、最悪そのことで殺し合いにまで発展する。


まあ、そんな礼儀知らずなことをするのはごく少数だし、そうした者はギルド内の冒険者達から憎まれるから、大抵長生きできないが。


「お早めにお決めになることをお勧め致します。

・・あなた、最近注目されていますよ。

いつまでもお一人だと、いろいろと周りがうるさくなるでしょう」


「はい。

・・だそうだけど?」


受付の女性に返事をし、後を見る。


「自分を君のパーティーに入れたいと言うのなら、臨時扱いにしてくれ。

こちらが好きな時に入り、好きな時に抜ける。

その繰り返しで良いなら了承する」


「そういうことは可能ですか?」


受付の彼女に確認する。


「・・可能です。

初めてのケースになりますが」


「じゃあ今直ぐ登録をお願いします。

パーティー名は・・『黒の使徒』で」


「申し訳ありませんが、『女神』や『使徒』といった、女神様との関係を暗示するような単語は、パーティー名に使用できません。

神殿の許可がりませんので」


「・・なら『黒い関係』でお願いします」


「かしこまりました」


数分後、私のギルドカードには、パーティー名とそのメンバーが記載された。


______________________________________


氏名:水月 夏海 ○

個人ランク:D

所属パーティー名:『黒い関係』

所属メンバー:カズヤ(臨時)

現在受けている依頼名とその期限:


依頼放棄件数:0

未評価魔物討伐数:0


______________________________________


うん、これで良し。


カズヤは微妙な顔をしていたけどね。

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