第12話

 何処かに帰るカズヤと別れ、迷宮から出た私は、そのまま武器屋に足を運んだ。


あまり立派なお店ではなく、実用重視に徹していそうな、渋いお店に入る。


<特殊鑑定S>を使って、お値打ち品を探したが、盾には良い物がなかった。


だが、長剣類を見た時、その中に☆マークが表示されたものが1つあった。


より詳しく調べると、その剣で人や魔物を倒した時、その総数によって☆マークが増えていき、攻撃力に補正が付くらしい。


☆1つは魔物などを300体以上倒した証で、攻撃が2倍になるクリティカル確率が3%付く。


☆2つは更に600体以上倒した証で、クリティカル確率が5%になる。


☆3つにするには更に1200体以上倒す必要があり、クリティカル率は8%だった。


☆の数は最大で5つまであり、そうするには全部で9300体以上の魔物などを倒す必要があるが、付加されるクリティカル率は15%と破格だった。


その長剣の☆の数は2つ。


値段を見ると、500ギルだった。


「おじさん、この剣だけどうして安いの?」


「もうあまり使えないからだよ。

良い剣なんだが、多分あと10回も戦えば折れる」


「修理できないのですか?」


「可能だが、それには魔鉱石が一定数要る。

迷宮の10階層にいるフロアボスが希に落とすが、確率はかなり低い。

おまけに、それが手に入ったとしても、今度は打ち直しに3000ギルくらいかかるだろう」


「剣の修復には全て魔鉱石が必要なのですか?」


「いいや、特殊な物だけさ。

普通の鍛冶で直せなかった物だけに要求されるんだ」


「これ買います」


「良いのかい?

本当に直ぐ折れるよ?」


「何だか愛着が涌いたので」


「はは、毎度あり」


お金を払い、店から出ると、今度は夕食を食べにいく。


注文をして料理を待っている間に、アイテムボックス内にある、女神様に頂いた鋼の剣を調べた。


・・やっぱり。


☆マークが1つ付いている。


ただ、あのおじさんの説明からすると、全部の武器に☆が付く訳ではないのだろう。


それに、どうやらあのおじさんには、☆マークが見えていない気がする。


<特殊鑑定>が上位ランクでないと見えないのだろうか。


料理が運ばれてきたので、そこで思考をストップする。


食べる時にはそれに集中しないと。


『いただきます』



 「ふーっ、気持ち良いーっ」


公衆浴場の湯船で、思い切り身体を伸ばす。


頭には、洗い立ての長い髪をまとめるタオルを巻いている。


伸びをした際、湯の中で重そうに揺れた自身の胸を見ながら、『もう少し瘦せたほうが良いかなー』なんて考えるが、カズヤは今のままが好みのようだし、腰回りにだけ気を付けてれば良いやと思い直す。


彼、今何してるのかな。


帰る時、『メール気分であまり頻繁に念話を送ってこないように。必要な時だけにして欲しい』と念を押された。


忙しくて、いちいち対応できない時もあるらしい。


彼、一体何者なんだろう?


どんな暮らしをしてるのかな。


女神様の関係者なのは間違いないだろうが、あまり深く聴いてはいけない気がする。


明日も朝早いし、もう少しだけ湯に浸かったら、宿に帰って寝ることにした。



 翌朝7時。


今日はカズヤに会う前に、6階層をクリアすることにした。


時間が惜しいので、5階層までスキルで転移し、そこから進む。


因みに、迷宮の外からは転移せず、きちんと入場料を支払う。


税金は、何処でどんな使われ方をしているか分らない。


払わない人がいれば、その分困る人が出るかもしれないのだ。


人がいない場所では火魔法を連発し、できるだけリトルボアを倒す。


2時間ほどで6階層への階段に辿り着き、上へと昇る。


石畳の少し先に、スケルトンが立っていた。


真っ白い骸骨が、剣だけを持って静かに佇んでいる。


「ちょうど良いわね。

ここで剣の練習をしましょう」


アイテムボックスから鋼の剣を取り出し、敵に斬りかかる。


ザン。


「あれ?」


意外に脆い。


そしてお金を落とした。


200ギル。


嬉しくなって、どんどん倒す。


レアはゴルフボールくらいの魔石だった。


頭の片隅で、自動で地図が作成されていくのを確認したら、一旦それを非表示にして、6階層を駆け回る。


疲れたら自身に回復魔法をかけるが、カズヤの魔法のように、精神力までは回復しない。


周囲を倒し切ったらゆっくり歩いて、気を休める。


スケルトンの攻撃速度は、3日前の私のものと大差ないくらい。


相手の剣をわざわざ受けることなく倒せる。


何より、倒せば2分の1でアイテム、4分の1以上でお金が落ちるから、モチベーションの維持に事欠かない。


この世界に来る直前は、本当にお金で苦労したから、稼げる時は、稼げるだけ稼ぐことにしている。


お昼を食べる時間をいつもの半分にして、ぎりぎりまでスケルトンを倒した。



 「何か嬉しそうだな」


「ええ、まあ。

今日は稼ぎが良かったので」


「・・そんなにお金に困っているのか?」


「いえ、そういう訳ではなくて・・。

以前、短い間でしたがお金に苦労したので、その時の感覚が未だに抜け切らないみたいです」


「まあ、ないよりはあった方が安心するのは確かだな」


「・・軽蔑しないでくれると嬉しいな」


今の自分の顔は、欲にまみれていたであろうか。


カズヤに嫌われたくなくて、思わず下を向く。


「する訳ないだろう。

それが不法なものでなければ、お金を稼ぐことは美徳でもある。

稼いだお金で家族を養い、余剰金ができれば寄付行為をして他者をも救える。

お金は、善意だけでは決して救えない者を救済できる、ほぼ万能に近いツールなのだ。

ただ、お金それ自体は中立だが、使い方によっては善にも悪にもなる。

もし君が気を付けるとしたら、そこだけだ」


「うん、ありがとう。

心に刻んでおくね」


「では今日も訓練しよう。

剣か盾は手に入ったか?」


「武器屋を覗いたんだけど、盾は良い物がなかったの。

剣は1本だけ良い物があったけど、修理するまでは使えそうになくて・・」


「フム。

・・ちょっと待ってくれ」


彼がアイテムボックス内を探す素振りを見せる。


「これを君に進呈する。

鋼の盾だが、軽量化の魔法が掛かっているうえ、オリハルコン以上の武器でなければ傷も付かない」


「良いの?」


「ああ。

その程度の物なら構わないだろう」


「?

ありがとう。

大事にするね」


大き過ぎず、小さ過ぎず、肘までがすっぽり隠れるくらいの銀色の盾。


とても軽くて、走っても邪魔にならない。


「今日からはそれを装備して訓練しよう。

そろそろ、こちらからも隙を見て攻撃を加えるから」


「はい、宜しくお願いします」



 4時間が経過した。


「うう、今日は惨敗でした」


「盾は今日が初めてなのだから当たり前だ。

剣で弾くか、盾で受けるかの判断も、まだ咄嗟にはつかないだろう。

でも剣筋はどんどん良くなってるぞ」


「カズヤが付きっ切りで教えてくれるから。

疲れないし、1日で何日分もの訓練になるもの。

ねえ、盾も貰ったし、何かお礼がしたい。

私にして貰いたいこと、何かない?」


「ないな。

自分とこうして遊んでくれれば、それで十分だ」


「・・ちょっとくらいなら、見せてあげるよ?」


「はあ?

・・何を?」


怪訝な顔をされる。


「見たくなったら言ってね」


「・・何だか知らんが、結構余裕があるみたいだな。

まだ少し早いと思ったが、この辺りで実戦を経験しておくか。

明日の訓練は外部で行う。

こことはまるで違うから、しっかりと心の準備をしておけよ」


「外部?」


「迷宮内で暮らす訳ではないのだから、外での戦いにも慣れておく必要があるだろう。

実際に人や魔物を切れば、血が飛び散るし、首や腕が飛ぶ。

それに慣れずして、この遊び場だけで戦った気になるのは非常に危険だ」


「・・そうよね。

頑張ります」


そうなのだ。


私が今居る世界は、そういう世界なのだ。


ゲーム感覚で人や魔物を殺しても、したる罪悪感もなければ、嫌悪感も涌かないが、実際に血が出れば違うはずだ。


でも、私はそれに耐えなければならない。


ここで生きていくために。


他ならぬ、私自身の未来のために。


「実は、少し前から気になっていた盗賊達がいてな。

この際だから、潰しておこうと思う」


「私達2人だけで?」


「勿論。

20人はいないから、魔法が使えるなら君でも十分戦える」


「ううっ。

危なくなったら、助けてくれますよね?」


「当たり前だ。

自分がいる前で、君に危害など加えさせはしない」


まだ一度しか見たことのない、カズヤの真剣な表情。


出会いのあの時みたいに、物凄い威圧感がある。


「うん。

頼りにしてる」


「・・では明日は、7時に君の宿の前に集合だ。

言っておくが、朝食は食べない方が良いぞ」


「分った」


今日中に、いろいろとできることをしておこう。

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