第11話
今日は朝食後、直ぐに神殿へと向かう。
昨日の夜、宿で寛いでいた私に、女神様からメールが送られてきたのだ。
『明日の朝、早々に神殿に来るように』、そう書かれていた。
この世界に来てから早寝早起きの私は、7時には神殿の前にいた。
宿の朝食は、朝6時から迷宮に入る人がいるため、5時から食べられる。
受付の方に銀貨1枚のお布施を支払い、巨大な女神像の前で両手を組んで跪く。
『女神様、おはようございます。
お呼びにより参上致しました』
『ご苦労様。
今日はあなたに、ご褒美を差し上げようと思います』
『ご褒美、でございますか?』
『そうです。
・・
『いえいえ、こちらの方が随分お世話になっております。
寧ろ私の方が無理を言って会っていただいているので』
『でもお友達になったのでしょう?
彼は優しいですが、その交友関係には明確な基準を持っています。
そのお眼鏡に適わなければ、決して友人にはなれません』
『そうなのですか?』
『ええ。
くれぐれも彼を裏切らないように。
それがあなたのためです』
『勿論そのつもりでおります』
『ご褒美はアイテムボックスに入れておきました。
後でその性能を確認すると良いでしょう。
・・以上です』
『ありがとうございます。
それでは失礼致します』
静かに立ち上がり、神殿を後にする。
迷宮に入る前にアイテムボックスを確認すると、『回収と連絡の指輪』が入れられている。
その説明文を読むと、『迷宮内でドロップしたアイテムの自動回収、及び特定相手との念話機能』とある。
どうやら、この指輪を
念話とは、女神様としているような会話のことで、事前に設定した3人までと行えるようだ。
どちらの機能も今1番欲しかったものなので、思わず笑みが零れる。
一度嵌めたら、元の世界に帰るまでは外せないようなので、
女神様に頂いた物は言うに及ばず、迷宮内でドロップした装備品は、それを身に付ける者のサイズに合わせて、その大きさが変化する。
外部で職人に作らせた装備品はこの限りではないが、その装備者が迷宮内で命を落とすと、装備はドロップ品扱いになり、以後は誰でも使用できるようサイズが変化する。
8時を少し回ったところで迷宮に辿り着き、3階層から上を目指していく。
自己の転移スキルはFでもMPを300も使うので、なるべく温存している。
3、4階層は立ち止まらずに魔法だけで攻撃し、どんどん進む。
4階層の地図を描き終え、5階層への階段を見つけた。
時刻を確認するとまだ11時前なので、そのまま5階層に足を踏み入れる。
この階層の魔物はリトルボア。
小さいと言っても、体長は150㎝くらいある。
でもレベル3の火魔法を放つと、それも肉を500ℊ落として消滅した。
目に付いた魔物を片っ端から攻撃する。
レアアイテムは、100ℊくらいある、黒トリュフの塊だった。
この階層で地図を描き始めた時、頭の中で効果音がした。
ステータスウインドウを確認すると、スキル欄に<PO:地図作製1>が増えていた。
鉛筆とノートを終い、心の中で叫ぶ。
『やっとめんどうな作業から解放された!』
正直、手が塞がったままだと剣が持てないので、地図を描く前には一旦周囲を掃除する必要がある。
もたもた描いていると、また数分で魔物が涌くので非常に慌ただしい。
しかも、これまではドロップ品をも拾わねばならなかった。
迷宮攻略なら地図関係のスキルくらいあるだろうと、早めに始めといて正解だった。
攻略速度が以前の倍以上に跳ね上がった私は、昼食の時間まで徹底的にリトルボアを倒す。
この肉を使った料理はなかなか美味しいのだ。
300以上倒して満足してから、4階層のカズヤとの待ち合わせ場所に向かった。
「今日もしっかり鍛えてね」
時間通りに現れたカズヤに、挨拶と共にそう急かす。
「やる気満々だな」
「勿論。
あなたという良い友達ができたし、もう二度とあんな奴らに後れを取りたくないから」
「良い心がけだ。
始める前に昨日思ったことを言っておく。
君は空いている方の手に、盾か、もう1本剣を持った方が良い」
「私もそう感じていたんです。
この剣、片手で振り回せるくらい軽いから」
「今後仲間に入れる相手次第で、どちらも使えるようにしておいた方が良いな」
「分ったわ。
今日の訓練が終わったら、武器屋を覗いてみる」
「では、始めよう。
ここだと他人の邪魔になるから、中央付近に転移するぞ」
「はい」
転移先にはトレントが溢れていたが、火魔法を連続発射して広場を確保する。
「やり方は昨日と同じ。
回復してやるから無心で剣を振れ」
「はい、いきます!」
最初から全力で向かっていく。
少しでも大振りになると、頭やお尻にハリセンが飛んで来て、パーンと良い音を立てる。
「剣の軌道がずれてるぞ。
奇策でないなら刃は地面と平行にしろ。
空気抵抗を受けて速度が落ちる」
「はい」
「君の体重で長々と男と鍔迫り合いしても無駄だ。
ヒットアンドアウェイに徹した方が良い」
「まさか私の体重を知ってるの!?」
「五十・・」
「それ以上は言わせない!」
キン、キン、キン。
がむしゃらに剣を振る。
「女性の身体は、程好く肉が付いていた方が美しいと思うが・・」
「そうだけど、数字には拘りたいのが女なの!」
キン、キン。
「数字など、普段は見えないではないか」
「女の付加価値として大事なのよ」
キン。
「女性のプロフィール欄で、バストの数字の隣にアルファベットの記載があれば、男が喜ぶのと同じよ」
キン、キン。
「フム、それは確かに」
「おい、あいつら何か喋りながら戦ってるけど、殺し合いじゃないよな?」
「放っておきなさい。
只の痴話喧嘩よ」
少し離れた場所を通り過ぎて行くパーティーから、そんな声が聞こえてくる。
「・・気にせず続けよう」
「そうね」
それから4時間ほどぶっ通しで訓練して、今日はお開きにする。
「ありがとうございました」
友達だけど、私は親友のつもりだけど、教えを乞うた後はきちんとお礼を述べる。
「・・あの、少し良い?」
「何だ?」
「実は今朝、女神様から直にお品を頂いたの」
この人なら、話しても平気だろう。
「そのリングのことか?」
「え、どうして分るの?
手袋してるのに・・」
「見えるからな」
バッ。
真っ赤になって、両手で胸と股間の場所を隠す。
「・・透けて見えるなんて一言も言ってないぞ。
そこから強い魔力を感じると言ったのだ」
「何だ、びっくりさせないでよ」
「それで、そのリングがどうした?」
「女神様が仰るには、このリングにはドロップ品の自動回収と、特定相手との念話ができる機能があるらしいのだけど、それには予め登録が必要みたいなの。
・・お願いしても良い?」
上目遣いで頼んでみる。
「どうすれば良いのだ?」
「ちょっと待って。
今説明を読んでみる。
・・お互いの身体に、魔力を循環させれば良いみたい。
でも一体どうやるんだろ?」
「手袋を脱いで、自分と両手を組み合わせれば良い。
数十秒で済むだろう」
「そうなの?
じゃあお願いします」
言われた通りに、彼と両手を握り合う。
彼の大きく逞しい手に、顔が自然と赤くなる。
「魔力を通すぞ」
「ええ」
・・ン、・・ンンッ。
やだ、何だか気持ち良い。
「これで良いはずだ」
手を放され、合わせていた部分の熱が冷めることに、多少の寂しさを感じる。
「念話を試してみても良い?」
「ああ」
彼を見つめながら、頭の中で言葉を考える。
『何を言おう。
こういう時、私達くらいの年齢なら、何の話題が無難かな』
「思ったことが、そのまま伝わってるぞ」
「え!?」
「念話を送るなら、余計なことは考えない方が良い」
「ご、ごめんなさい」
うう、恥ずかしい。
『今日の訓練もなかなか良かった。
やはり君には才能がある』
「え?」
彼の方から念話を使ってくれる。
『焦らず頑張ることだ』
『・・うん。
ありがとう』
『明日も訓練するか?』
『ええ、是非。
今日と同じ時間で、5階層で待ち合わせ。
それで大丈夫?』
『ああ』
「おい、何かあいつら、じっと見つめ合ってるぞ。
取り込み中か?」
「こら、邪魔しちゃ駄目だって。
これから良いところなんだよ、きっと」
近くを通り過ぎたパーティーから、そんな声が聞こえてくる。
もう、折角の雰囲気が台無しだよ。
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