第6話
公衆浴場にはシャワーがなかったが、広くて湯量は豊富だった。
入浴料が50ギルもするので、庶民が毎日入るのは難しそうだ。
女神様から頂いたシャンプーはリンス入りの物だったので、さっぱりした気分でお風呂から出てくる。
因みに、お風呂に入る時は手ぶらで入る。
中で使うタオルや石鹼、シャンプーは、必要な時にアイテムボックスから出せるからだ。
入浴前、アイテムボックスについての項目を調べると、裸でも使えるし、物を中に終う際にも、生き物が駄目なこと以外、他に何の制約もないことが分った。
汚れていても、濡れていても、中に終ってから取り出すと、奇麗で乾いた状態で出てくる。
その容量も、『無限ではないが、気にしなくても大丈夫』との説明が付加されていた。
更に、中では時間の概念がないので、入れた物がそのままの鮮度を保ち、腐ることがない。
収納箱としての他、洗濯乾燥機と冷蔵庫のような機能を併せ持っている。
勿論、普通のアイテムボックスにはここまでの機能はなく、女神様から直接頂いたランクS特有の機能であると説明されていた。
盗難防止のため、脱衣所の籠には何も入れておかなかったから、アイテムボックスから奇麗になった衣類を取り出して身に付ける。
中に入れた物が多過ぎて、何を入れたのか忘れた場合は、ステータスウインドウを開いて、アイテムボックスの中身を調べれば良い。
使いかけ、食べかけのものは、特に頭で念じて指定しない限り、入れた順番で出てくる。
便利で良い。
外に出るとまだお昼前なので、町の中をぶらぶらと歩く。
領主や他の貴族達の屋敷は専用の区画に固まっているそうなので、ここは何かのお店のようだ。
看板に描かれた首輪の絵が気になったので、少し尋ねてみることにして、扉の向こう側でこちらを見ている女性に合図を送る。
内側から
「当館に何か御用でしょうか?」
「済みません。
少しお尋ねしたいのですが、こちらは何を扱っているお店なのでしょうか?」
「奴隷でございます」
やっぱり。
「私は奴隷の扱いやその相場についてはまだ何も知らないので、今後のためにも、今回はお話だけを聴かせていただくことは可能でしょうか?」
「奴隷を購入するご予定がおありなのですか?」
「確定ではございませんが、迷宮に入って生計を立てねばなりませんので、その確率は高いと考えています」
「中へどうぞ」
私が入るスペースを空けてくれながら、その女性が微笑む。
「ありがとうございます」
入り口から少し歩いた所にある、ソファーへと案内される。
「さて、何からお話し致しましょうか?」
腰を下ろすなり、そう声をかけられる。
「先ずは大体の相場を教えてください。
若くて、戦闘ができる方が良いです」
「そういったご要望にお答えするのが、実は1番難しいのです。
性別や人種、処女、ジョブやスキルなどの特定を頂かないと、こちらではお客様がどういった場面でどのようにお使いになるのかが分りませんから、最適な奴隷をお勧めできません」
「なるほど。
では人間の、20歳までの女性で処女。
ジョブは戦闘系なら何でも良いです。
スキルは1つ以上あれば、その内容は問いません」
最初に仲間に加えるなら同じ人間の女性が良いし、敢えて条件に処女を加えたのは、身持ちが堅い方が信用でき、病気の類も持っていないと判断したからだ。
「・・それですと、うちの商品なら40万ギルからになりますね」
「やはりお高いのですね。
では、人間の女性で25歳まで、処女以外の条件はなしだとどうなりますか?」
ジョブなんて、私が既に複数持っていることを考えれば、後からどうとでもなる気がする。
スキルにしても、これまでやったことのあるゲームの傾向から、何かを継続的に行っていれば覚えそうなものだ。
「その場合は、・・30万ギルくらいからになるでしょう」
それでも高いのね。
「次に、奴隷を購入した後、守らねばならない義務のようなものはありますか?」
「ございます。
所有する奴隷の数だけ、税金を納めねばなりません。
人種、性別に拘らず、1人当たり年5000ギルです。
それから、最低限の衣食住の保証。
正当な理由なく殺せば、国に処罰されます」
「では逆に、奴隷に対する主人の権利があればそれを教えてください」
「虐待でなければ、ほぼ何でもできます。
たとえその意に反する性行為でも、奴隷に対する主人の性的欲求は、正当なものとしてみなされますので。
解放、転売の権利もありますし、自分との間にできた子供を、奴隷として売ることも可能です」
「・・・」
「補足事項として、奴隷と婚姻を結ぶには、その奴隷を解放しないといけません。
婚姻は、お互いが平民以上でないとできませんので。
また、主人が亡くなった際、その所有奴隷達は神殿で裁きにかけられます。
主人の死因について、
逆に、生前主人に十分に尽くしたと判断された者は、奴隷から解放されます。
どちらにも該当しない場合は、主人の身内に相続させられるか、国の所有奴隷となります」
「ご説明、ありがとうございました。
明日以降から迷宮に入りますが、十分な資金が貯まり次第、再度こちらにお伺いしたいと思います」
「そうですか。
ご健闘をお祈り致します。
・・時に、既に冒険者ギルドにご登録はお済みでしょうか?」
「はい。
昨日済ませておきました」
「迷宮の浅い階層では、希にトイレットペーパーや歯磨粉を落とす魔物がおります。
もしこれらの品を大量に入手なさった場合には、こちらでも買い取ることが可能です」
「因みに、お幾らくらいになるのですか?」
「トイレットペーパーは1つ70ギル、歯磨粉は1つ150ギルで買い取り致します」
あのお店での売り値がそれぞれ100ギル、200ギルだったから、妥当な値段かな。
この館で使う分だろうか?
「分りました。
その際はお願いします」
互いに立ち上がって、握手をして別れる。
昨日も行った定食屋さんで遅いお昼を食べた後、この町にある神殿へと足を運ぶ。
大きい。
そして奇麗な建物だ。
門を潜り、入り口へと進むと、案内役らしい神官服を着た女性の1人が、優しく声をかけてくる。
「女神様の神殿にようこそ。
本日はどのようなご用件でしょうか?」
「初めてこの町を訪れましたので、女神様にご挨拶に参りました。
お祈りしても宜しいでしょうか?」
銀貨1枚のお布施を渡しながらそう答える。
「まあ、それは信心深いことで。
女神様もお喜びになるでしょう。
ご案内致します」
神殿の奥、巨大な女神像のある前まで案内される。
「ごゆっくり」
私が
『女神様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
お陰様で、無事異世界に到着致しました。
明日から迷宮に入り、ご依頼を達成できるよう、励んで参ります』
両手を組んで目を閉じ、心の中でそう祈る。
『期待しています』
頭の中で、女神様の声がする。
『!!』
『そう驚かずとも良いでしょう。
あなたは言わば、この世界におけるわたくしの使徒のようなもの。
暇な時は、往々にしてあなたを見ておりますよ』
『そうでしたか。
ありがとうございます』
『今回あなたに声をかけたのは、伝え忘れたことがあるからです。
大事なことなので、しっかりと聴いておくように』
『はい』
『奴隷を購入する際は、全て女性に致しなさい』
『元からそのつもりでおりましたが、理由をお尋ねしても宜しいでしょうか?』
『わたくしの気分の問題です。
使徒たるあなたの周りに、男性が侍ることを好みません。
もし男性を奴隷に加えたならば、〖女神の加護〗がなくなるでしょう』
『!!!』
〖女神の加護〗とは、毎日その表示回数分だけ、HPが0になってもリセットされるという超優れもの。
迷宮内は勿論、外部においても、その分は傷一つ負わない。
それが無くなるということは、死にそれだけ近付くことを意味する。
『了解致しました。
必ず女性だけに致します』
『宜しい。
それから、奴隷ではありませんが、この世界でたった1人だけ、あなたのパーティーに加わることをわたくしが許す男性がおります。
彼は臨時でしかあなたのパーティーに加わりませんが、機会があれば、共に戦ってみてください』
『その方はどういったお方なのですか?』
『(ゲームの好きな)遊び人です。
誠実で優しい、とても頼れる女たらしです。
彼は今、この世界でどの女性からも愛されないという、わたくしの罰を受けております。
なので安心して仲間に入れてあげてください。
向こうからは絶対に手を出してはこないので』
『・・遊び人で女たらしなのに、手を出してはこないのですか?』
『彼は大抵、女性を(芸術作品として)見るだけなので』
『・・・。
了解致しました』
『その彼は、常に黒い服装をしています。
それでは頑張ってください』
そこで、女神様との念話は途切れた。
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