第3話

 意識を取り戻した時、私は太い樹の根元にもたれていた。


ゆっくりと、今の自分の姿を確認する。


私が元々身に付けていた衣類ではない。


上半身には、タートルネックの黒い長袖のシャツの上から、茶色いノースリーブの革製の鎧を身に付けている。


なかなか分厚いが、不思議とその重さを感じないし、まるでオーダーメイドのようにぴったりと身体にフィットしている。


下半身には同じく黒い長ズボンを穿いていて、足には鎧と同色の、革製のロングブーツを履いている。


ズボンを吊る太めの革製ベルトは黒い。


女神様は、黒がお好きなのかもしれない。


両手には、肘近くまである、茶色い革の手袋を嵌めている。


周囲を見渡すと、数百メートル先の前方に、都市のようなものが見える。


先程から視界の一部がチカチカする。


そこに意識を集中すると、頭の中に文字が浮かんだ。


「ステータスウインドウ、オープン」


言葉に出すと、眼前に、大きな雑誌程度の透明な板が現れる。


「まるでゲームの世界みたい」


私だって、人気があった何本かのゲームはしたことがある。


ただ、そこに表示された内容は、私が知っているものとは大分違った。


______________________________________


氏名:水月みづき 夏海なつみ

人種:人間

性別:女性【処女】

年齢:17

*スタイル:164・88(F)・55・85 

地位:平民

所有奴隷:なし


ジョブ(レベル表示。特殊鑑定A所持者でも、他者のはメインとサブしか見ることができない):【市民】1 ★【賢者】1 ☆【魔法使い】1 ☆【神官】1


HP:2320

MP:5120


スキル(レベル表示。本人の選択で、一部非表示にすることが可能):<PO:模倣1> 


*ユニークスキル(Sが最高。但し主人公のみ。通常はAからF):<PA:アイテムボックスS> <PA:転移F> <PA:特殊鑑定S> <PO:言語能力S> <PO:レアアイテムドロップ率S> <PO:全状態異常無効> <PO:物理耐性D> <PO:全魔法耐性S>


魔法(レベル表示。【魔法使い】をジョブに設定していないと、主人公以外には内容を確認することができない。【回復魔法】も、【神官】をジョブに設定していた時のみ、主人公以外の他者から確認できる):【回復魔法】1 【水魔法】1 【火魔法】1


生活魔法(レベル表示):【浄化】4 【ライト】(迷宮内限定。レベルなし)


*〖魔物図鑑〗:0%


状態:異常なし

*感情・気分:良好

犯罪歴:なし


*〖女神の加護〗:3


*〖ボーナスポイント〗:0


*所持金:25万ギル 内訳表示(銀貨500、大銀貨10、金貨15)


現在地:『第7迷宮の町』近郊


*〖メール(受信のみ)〗:


______________________________________


「・・女神様、一部に納得できない表示があるのですが」


『処女』って、わざわざ記載する必要あります?


文句を言いかけて、以前読んだ異世界漫画をふと思い出した。


そこでは、奴隷に売られた女性達が処女検査をさせられていた。


女性の場合、それが買い値と売り値に直結するから、当たり前のことらしい。


そう考えると、奴隷に落ちる気は更々ないけれど、知らない誰かに強制的に検査されるよりはましだと思える。


表示を見るだけで分るのなら、恥ずかしいけれど、その方が良い。


『スタイル』って、何の役に立つのでしょう?


ダイエットの目安にしろということですか?


左端に*のマークが付いているので、疑問に思って指でタップしてみると、表示が出る。


この印が付いた項目は、本人以外では、私にしか見えないものらしい。


〖 〗でくくられた項目は、それが私専用のもの、つまり私にしかないものであることを示していた。


安堵と更なる疑問を感じて今度は<特殊鑑定>を叩いてみる。


幾つかの項目が現れて、その中から『スキル内容』を選ぶ。


『天賦のパッシィブスキル。

ランクに応じて、あらゆる物の鑑定が可能になる。

FからSまであり、Sだけは特別で、それが女神自身に直接与えられたことを意味する』


次に『使用』の項目を選ぶ。


目の前にある景色全てに、いちいち説明が表示され始めた。


少し鬱陶しい。


『解除』をタップすると景色に表示された説明が消え、更にその2つの項目まで消滅する。


「え?

もう使えなくなった?

女神様済みません!

鬱陶しいなんてもう思いません!」


慌てて謝るが、『使用』と『解除』の項目は復活されない。


泣きそうになりながら説明文をしっかり読むと、どうやら一度使えば、次からはいちいちステータスウインドウを開かなくても、脳内で使用、解除の意思表示をすれば良いらしい。


調べたい対象のみに焦点を絞ることによって、他の物の表示を出さないで済むことも分った。


ほっとして力が抜ける。


異世界に1人でやって来た自分には、女神様に頂いたもの以外、頼れるものがない。


特別な能力なら、その消失は己の死に繋がる可能性がある。


気を引き締め直した。


【賢者】の左端に付いた印が気になって調べると、★は最上位のジョブ、☆は上位のジョブであることも分った。


何故私に最上位のジョブが付与されているのか気になって調べ、その『取得条件』の説明文に笑ってしまう。


『学校またはそれに準ずる場所で、10年間真剣に学び、平均して優秀な成績を収めることで習得する』


そう書かれている。


私の場合、小・中・高で計11年弱学校に通ったことになり、小学生の時の通知表はほぼ5(5段階評価)、中学、高校での模試の偏差値は、最低でも70だった。


苦労した両親から、常々勉強の大切さを説かれていたので、日々しっかりと学習していた。


そのことが、まさかこんなところで報われるとは。


【神官】の『取得条件』を見ると、『日々神に祈ることで、希に得られる』とある。


私、そんなことをしていたっけ?


過去を振り返るが、思い当たることは1つしかない。


食事をする時、両手を合わせて『いただきます』をやっていた。


何事にも、感謝は大事。


そういうことなんですね。


【魔法使い】の『取得条件』は、『その理を知る者か、天賦』と記載されている。


うーん、私には、理科の実験くらいしか思い当たらないかな。


更にその『取得効果』の説明を少し読む。


★のジョブを1つ得るごとに、HPが1000、MPは3000増える。


☆の場合はHPが500、MPは1000だった。


因みに無印のジョブは、幾つ増やしても全く加算されない。


HPやMPを増やすには、新たな上位以上のジョブを入手して、その報酬的な意味合いの加算値を貰うか、ジョブ自体のレベルを上げるしかないことも理解する。


各ジョブのレベルを1つ上げるごとに、HPとMPが、それぞれ30ずつ増えるようだ。


なお、この増やし方では、上位や最上位のジョブでも加算値は同じであった。


また、これとは別に、3歳と8歳になった時、それぞれHPが100ずつ加算されるみたいだ。


病気などで、簡単に死なないように保護するためらしい。


お腹が減ってきたので、知識の吸収や確認作業を一旦止め、女神様がくださった道具類を見てみる。


アイテムボックスの中身を表示(ゲーム内で見られるような物品の絵と、品名、所持数での表示)させると、幾つかの品物の記載がある。


先ずはお金。


これはステータスウインドウにも表示されていたが、この金額が多いのかどうかは分らない。


少なくはないと思うが、物価を知らないから判断しようがない。


入れられていた硬貨の説明文により、次のことが判明する。


硬貨の種類は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の7種類。


名前に『大』と表示がある物は、その50枚分の価値がある。


銅貨1枚が1ギルに相当し、各硬貨は100枚で1つ上位の硬貨と同じ価値になる。


例えば、銀貨100枚で金貨1枚分。


つまり、白金貨は100万ギルの価値がある。


実はその上に白金のインゴットが存在するらしいが、庶民は見る機会すらないそうだ。


その価値は白金貨50枚分、5000万ギルである。


お金の他には、ハイポーションとハイエーテルがそれぞれ10本ずつ。


鋼の剣が1本。


茶色い革の兜が1つ。


鉛筆30本とノート5冊。


200枚入りのティッシュペーパーの箱が50個と、トイレットペーパーのロールが200個、石鹸が100個にシャンプーが30本、200本入りの綿棒の箱が50個、歯磨粉50(『本』ではない理由は後で判明する)。


鏡や櫛、爪切り、毛抜きなどの身だしなみの道具と、大中小のタオルセットが10組、歯ブラシが50本。


そして身分証が入っていた。


「え?

・・身分証?」


てっきり、ステータスウインドウがそうなのだとばかり思っていた。


気にはなったが、お腹が空いているし、とりあえず立ち上がって、前方に見える都市へ向けて歩き出した。

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