ーーエンド2『二人を守る為に』ーー(後編)

そうだ。

ここか何処かハッキリしていないんだ。

家族でいつも遊びに来ている公園の筈なのに、

初めて来たかのような新鮮さを感じている。


これは一体…

いや、そもそもこの公園の名前は何だ。

それすら思い出せなくなっている。

  

もしかして…

俺は最悪の結末を予想してしまった。  

 

周りを見渡して実感した。

少しずつ、しかし確実に意識と

人間の時の記憶が無くなっている。

このままでは数時間後にはこの記憶は

完全に無くなってしまうだろう。




つまり俺は「ただの怪獣」になってしまう。




そうなってしまう前にせめて

最後に愛する家族に会いたい。


俺は勢い良くと立ち上がり 

住んでいた町に向かって走り出した。


俺の急な動きに人間は騒ついた。

大人しい恐竜と思っていた生き物が

いきなり活発に動きだしたのだ。


住民は叫びながら逃げ出して、

警察は近隣住民やマスコミに退避を命令し

準備していた簡易バリケードを展開する。


しかし高さ数メートルのバリケードなぞ

20メートルある俺の障害にはならない!

太い尻尾で一掃した。

 

人間は状況が一変したのを認識しただろう。

当初考えていたシナリオは完全に破綻してしまった。


障害を排除して公園の外に出た所で

遂に自衛隊も攻撃を開始した。

機関銃程度の火力ではこの身体を

傷つける事は出来やしない。


しかし心は別だ。

俺は人間では無い事をこの銃弾は

心に刻んでいくのだ。


………


住んでいるマンションが見えてきた。

あそこに行けば家族に会える。

薄れゆく記憶と意識の中、

それだけを願い走る。


……

  

絶え間ない機関銃による多少の痛みと

悲鳴をあげるような心の痛みを受けながら、

そして消えていく記憶を忘れまいと

家族の顔を必死に思い出しながら、

どうにかマンションの手前まで来れた。


その時、俺は安堵で気を抜いてしまった……

  

………

……


目の前の建物を覗いてみた。

窓の向こうには女性と子供が一人いた。

二人は何故か部屋から逃げる事はなく

俺の顔をじっと見つめている。

何故だろう、嬉しいけどすごく悲しい。


そして、何故俺はここに来たのだろう。

  


居た堪れない。辛い。悲しい。

思い切り叫びたい。狂ったように叫びたい。

全てを無かった事にしたくて。

全てを終わらせたくて。

  


思いっきり叫ぼうと

息を可能な限り吸い込むと

胸がこれまでになく熱くなった。

その熱さは胸から喉へ、そして

喉から口へ急速に上がって行く…



もう我慢出来ない!



と思った瞬間、

マンションの中にいる子供が目に入った。

その時、とあるメロディーが頭をよぎった。

懐かしくてとても心が躍り楽しくなる曲。

…そうだ。これは怪獣大戦争マーチだ!


その瞬間、俺は思い出した。

目の前にいる人間が誰なのかを!


いけない!止めるんだ!!

全てを理解した俺は必死で抑えようとする

しかし、口元まで来たこいつは

もう止められない!


俺は最後の力で首を真上にあげて。

今まで溜めていた物を一気に空に放出する!



「グオオオオオオオオオオン!!!」




断末魔のような、地響きのような叫びの後

口から青白い怪光線を発射した。

  

昼にも関わらすその光は眩しいくらい輝き、

光線はそのまま雲に突き刺さり、

そのまま空に吸い込まれていった。  



……とても気持ちよかった。

全てを忘れるぐらい。最高だった。


…そっか。俺は完全に怪獣なんだな。

これでは人間とは共存なぞ不可能だ。 

だって、俺はまたこの怪光線を

撃ちたくてウズウズしてるんたよ。  



再度薄れていく意識。

おそらくこれは最後のチャンス。

俺は最後にしなければいけない事がある…!


俺はマンションの前から立ち去り、

近くにあった高圧変電所に噛み付いた。

体験した事のないショックと痛みが俺を襲う。

 

死ねるかどうかはわからない。

いや俺は死ななければならない!

ここで死ななければ俺はきっと

たくさんの人間を殺してしまう!


煙と焦げ臭い臭いが周辺を包む。

強靭なこの身体でも耐えられまい。

痛みで堪えていた意識も薄れてきた。



これで…終わる…この地獄からも…




意識が途切れる瞬間、俺は

愛する妻と息子の泣き声を聞いた気がした。




ーーエンド2『二人を守る為に』ーー  




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【小説版】怪獣の人 ~かいじゅうのひと~ TEKKON @TEKKON

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