第37話 苦闘

王都から宿に戻り、クエストを受注する。

ロードを避けて受注出来そうなクエストはガルダ、マンティコア、バジリスクあたりの討伐依頼だ。

ルージュを回避盾として活かす戦術上、速度に優れるガルダは相性が悪く除外。バジリスクは相性は悪くないものの石化などという馬鹿げたステータス異常を受けると治癒が必須になることで俺の動きが拘束される。するとバフのループが切れるのがリスクとなるため一旦除外。消去法でマンティコアを選んだ。


マンティコアはRPGではキマイラの色違いとして登場することが多く、俺もそんなものだろうと高を括っていたが、残念ながら伝承通り人の顔を持ち、獅子の体を持つ怪物だった。

人の顔と獣の体という冒涜的なキメラは実際に目にすると想像以上に不気味で、本能的な不快感が沸き上がった。そもそも、無表情で妙にリアルな巨大な中年男性の顔に覗き込まれるというの自体かなり気味が悪い。いや、今回は中年男性だったが、他の個体は別の顔かもしれない。ただ、どんな顔で想像を代替してもやはり気持ちが悪そうだという感想を重ねることしか出来なかった。

そんなマンティコアだが、人間の頭部を持っているというのは伊達ではなく、その知能からか香の効果が薄かった。ルージュへの攻撃集中を期待しにくく、基本戦略を折られる面倒な展開に頭を悩ませた。

攻撃手段も獅子の体から繰り出す高速な物理攻撃に加え、人頭が魔法を詠唱するため、多彩だ。物理、魔法どちらのバフを切らすことも出来ない。さらに面倒なことに人頭が詠唱する魔法で露骨に後衛を狙ってくるため、リリカが魔法に集中しにくく、完成に時間が掛かる。

一方で戦闘能力自体はそこまで高くないようで、一発一発の攻撃は被弾しても継戦に影響が出るダメージにはならなかった。

時間は要したものの最もダメージ蓄積が重いナッシュの動きに明確な悪影響が出るよりは早くリリカのカラミティフレアで頭部を焼くことに成功した。だが、この時の叫び声がまた最悪で、人間を生きたまま焼いているかのような錯覚を覚えさせる。

さらに、そのおぞましい断末魔のような絶叫と怨嗟を響かせ、頭部の機能を完全に失った状態でも獣の体のみで動いてくる生命力の高さも持ち合わせていた。もはや原型を留めていない頭部からドロドロの液体を飛び散らせて動き回るその姿はさながらアンデッドのようで、戦闘としての趨勢は決しているにも関わらず最期のその瞬間まで本能的な恐怖との戦いを余儀なくされることになった。


肉体的にもナッシュがかなりダメージを負っただけでなく、俺やリリカもそこそこのダメージを負ったが、その数倍は精神的に疲れる相手だった。体力面で十分に癒えるだけの休憩を挟んだ後も俺を含めて士気が低く、すぐに次のクエストに行く気は起きなかった。結果として休憩時間もいつもよりかなり多めに取ることとなり、総じて時間が掛かり、疲れた。

安全面ではそこまで懸念のない相手だが、1日にこれと2回以上戦うのは御免被りたい、というのが素直な感想だ。そもそも出来れば再戦を拒否したい。

なお、討伐報酬は2500万Gのクエスト報酬に加えて性能的に現在の装備に劣るため売却用となる装飾品、さらに購入すれば1500万G程度になるであろう杖を落とした。これにより俺のバフが微更新される。心象は最悪だったが、時間効率で見ると悪くはない。


結局、その後あまりにも危険そうなら大人しく引く前提で追加でリザードロードを討伐するともう日が暮れていた。幸い、今回も危険なロード個体は引かなかったが、オークロードと違ってリザードロードは部下を積極的に使い、乱戦状態を作ろうと働き掛けて来たためこちらもルージュに上手く引き付けて戦うことは上手く出来ず総力戦になった。単純に戦力差を押し付けて消耗戦に勝利した形だ。

こちらの報酬では装備は全く更新されず、クエスト報酬とドロップ品の売却を合わせると2000万Gは上回りそうだという程度だ。


次はナッシュの武器更新あたりをしようかと考えつつも明日の効率的な稼ぎのプランがまとまらず、悩みながら宿に帰還するとお頭から声が掛かる。


「お疲…おや、珍しく浮かない顔をしているね?」

「…そうですね。ちょっと今日のクエストがイマイチな手応えだったので明日以降どのクエストをこなしていこうか、悩んでいるところです。」

「なるほどねぇ。まぁ、お前さん達は働き過ぎだから、少しゆっくりしても良いとは思うよ。

ただ、実は気分を変えるのにちょうど良い話があってね。

どうも今、魔物の大群が王都に向けて侵攻して来てるらしくて、明日、王都前で防衛線を行うことになってる。

うちのギルドにも早速要員を出すようお達しが来てるんだが…参加するかい?」


願ってもない話だった。俺は一も二もなく首を縦に振った。

前に聞いたお頭の話では報酬はかなり良いらしいので、他の敵を試しやすくなるかもしれない。

それに、上位のギルドがどの程度のものか、実際に目にして確かめてみたい。

どの程度の強さで次のハードルに挑戦すべきか、その目安も立てやすくなりそうだ。


その後はA級らしい立派な食事を平らげ、明日へ向け休むことにした。

今日はプレイヤーの状況は大きく変わらずといった状況だった。

脱落者は1名だけで残り48名とまだ大きく動く気配はなかった。

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性悪ゲーマーのメタバース英雄譚 平林瑞人 @aruzisan

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