4.劣等生と恐怖
昨晩僕は人生で初めて魔法を使った。魔力を持たないこの僕がだ。遂に夢がかなったのだ。
残念なことに魔物は倒せなかった上に殺されたが何故か僕は生きているのでそこは結果オーライだ。
あまりの嬉しさに口元がにやけてしまう。
「ライトニングブレス。ふふ、ライトニング!ブレス!ふふふ」
(独り言はやめろ!気持ちが悪いぞ少年!)
「だって魔法が使えたんだよ僕!魔力のなかったこの僕が!魔法を!こんなの喜ばないでどうすんのって話でしょ」
(言っておくがお前が使ったのは魔法じゃないぞ)
「??」
こいつ曰く昨晩僕が使ったのは魔法ではなくこいつの本来の姿?である雷龍の力だそうだ。
雷龍とは電気を司っている原生生物『最古の龍』と言ってもドラゴンではなくワームらしい。電気に纏わることならなんでもできるという。たまたま僕のイメージした電気の力が魔法の形を成していただけで別に魔法を使っていたわけではないというのが真実だ。
だけどそれがどうした?原理が違くとも結果的には魔法と同じようなことをしたんだ。
僕が魔法に代わる何かを行使したことに変わりはないのだからあの感動に偽りはない。
「それでさ。一番気になってたことなんだけどさ。僕何で死んでないの?これも雷龍ってやつのおかげ?僕不老不死にでもなったの?」
(違う。雷龍含め原生生物は確かに不老不死だがそれとは関係ない。これは神の欠片の力だ)
「つまりは君のってこと?」
(違う。俺は力じゃない。生命だ。生きている方の神の欠片だ)
「???ごめん。よくわからない。てか神の欠片って何なの?」
(仕方がない説明しよう)
そこから先は無駄に長い物語の冒頭みたいな説明が始まった。
(『昔々とても遠い昔。ただ単純なエネルギーや物質のみが存在していた時代。神という世界のすべてを構成する意識を持った概念的な存在がいました。
意識を持っている神は世界のバランスを保つため、エネルギーや物質が変化しないように努力していました。
何故なら世界が崩れると概念的な存在である神も同時に崩れてしまうからです。
ですがその努力はなかなか実のらず、世界は物理法則により変化し続けていました。エネルギー同士は打ち消し合い。物質は時がたつ毎にその形を崩して変えてゆく。
神は困りました。これではいつかこの世界に終わりが来てしまう。自分だけで世界を保つには無理があると思った神はあることを思いつきました。
自分以外の意識を持った何かを作りそれらに世界が崩れないよう頑張ってもらえばいい。
そうして神は自分の意識を模倣してあるものを作りました。それが生命です。
その生命は様々なものに宿り形を作っていきました。最初はエネルギーだけの存在でしたがそれが徐々に物質に移り、生物という新たな存在を築き上げました。
神はいつかこの生物という存在が自分の代わりに世界を保ってくることを願いました。
ですが物事はそううまくはいきません。神は知らなかったのです。意識を持つものと意識を持つものがぶつかり合うと何が起こるのか。
今まで安定的に進化してきた生物に、ある時異様な変化が訪れました。
生物と生物の間で感じたことのない何かが発生し始めていたのです。新たなエネルギー、感情です。
かつて世界には存在していなかった生命を持つ生物と彼らが生み出す感情というエネルギーは凄まじい勢いで変化を繰り返しながら増え続けました。
さらに厄介なことにこの感情というエネルギーは無限と言わんばかりにその種類を枝分かれさせているのでキリがありません。
いつしか単純なエネルギーや物質のみが存在した世界で構成された概念的な存在である神は増え続ける莫大な感情のエネルギーに耐え切れずその形を崩してしまいました。
一つの概念的な存在だったものは感情の数だけその数を増してしまい、さらには世界を構成するエネルギーと物質を兼ね備えた生物的な体も手にしてしまったのです。
しかし出来立ての神の体はその急激な変化に耐え切れず感情の数だけ分裂してしまいました。
その分裂によって生まれたのが一つの感情と何かしらの世界を構成するエネルギーと物質を兼ね備えた生命『原生生物』と、バラバラになった神が持つ世界の形を保つための力の塊。
あまりにも不安定な状態で発生したそれらはその形を保つことが出来ず『感情と生命を宿した神の欠片』と『神の力を宿した神の欠片』という形に収まったのです。
そして『感情と生命を宿した神の欠片』達は生物に寄生して体を手に入れるために生物がいる世界へと向かい。『神の力を宿した神の欠片』は那由他の数を超える世界に散らばりました。
『感情と生命を宿した神の欠片』達はそれぞれが神の力を取り戻すべく数多の世界に散らばってしまった『神の力を宿した神の欠片』をかき集めるためにお互いにある時は殺し合い、またある時協力し合い、そしてまたある時は裏切り合いながら那由他の数を超える世界をめぐる旅に出たのでした。』
めでたしめでたし)
「めでたくない上に話が長いし意味が分からない」
(要約すれば神の欠片は神が崩壊した姿だ)
神の欠片は神の崩壊した姿。これで分かったのは最古の龍って名乗った理由だけ、他に関してはいまいち理解に苦しむ。
「それで僕が死ななかった理由は?」
(俺はすでに3つ『神の力を宿した神のっ)
「長い。力の欠片でいいだろ」
(俺はすでに3つ力の欠片を持ってる。死んだお前をよみがえらせたのはそのうちの一つ。保存と復元の欠片の力だ)
「保存と復元?」
(名前の通り物を保存したり復元したり出来る。俺がお前に寄生した時点でお前のすべては保存した。だから死んでも復元できる。因みに物や自分以外の生物を復元するのは無駄に力使うから自己回復以外の使い道はあんま期待するなよ?)
「別に期待してないけど?にしても凄いね。実感わかないよ。僕とんでもない力を手に入れたって事だよね?」
(ん?まぁそうだな)
神様は僕を見放していなかった。魔法の才能に恵まれなかった僕にもやっと転機が訪れたのだ。
これで僕を馬鹿にしたデッブス達やみんなを見返してやる。今度こそ父上も認めてくれるはずだ。僕は凄い力を手に入れたんだ。
ガサガサ、草むらから音がした。振り返ってみると魔物がいた。喜びのあまり僕は思わず手を掲げた。
「丁度いい!僕の力見せてやる!」
(あ、少年やめた方が、)
「我が身を駆け巡る稲妻よ、我が手に収斂し虚飾の力を纏いたまえ、叶うのならばその雷鳴の如き咆哮を持って、悉くを凌駕して見せよ!『ライトニングブレス』」
2回目のライトニングブレスだ。これは雷龍の力なんだろうけど魔法を使っているかのようだ。僕はもう劣等生のレッドじゃないんだ。
これで今すぐにでも歴史に名を遺す偉大な魔法使いになってやる!そう意気込んだところだった。
いきなり膝から崩れ落ちるほど凄まじい疲労感が僕を襲った。
「はぁ..はぁ..何だぁ..これぇ....」
(だから言ったのに、この世界に来てまだ寄生したばっかなんだぜ。今の俺にはほとんど力がないんだよ)
「???」
(ないものはあるもので補われる。つまりは今、俺の力の代わりにお前の体力が全部持っていかれたってわけ)
「なる..ほどねぇ..」
(因みに言うと体力全部持っていかれたら次は体だぜ。ほら見ろ。お前の右腕)
血がしたり落ちていた。僕の右腕のひじから先はいったいどこへ行ったのだろう?さっきまで疲労感に誤魔化されていたであろう痛みが一度に僕を襲った。
「僕の、腕があ゙あ゙あ゙ぁ!はあ゙ぁ..はあ゙ぁ...」
(あんま無茶すると簡単に死ぬぞ)
「先に..言え゙よぉ...」
(いや、俺が言う前に詠唱し始めたお前が悪いだろ。因みに今力残ってないからしばらく我慢しろよ)
「嘘..だよね?」
なんでもできるといっても無限に力を行使できるわけじゃないらしい。これからはもう少し慎重になろう。
しばらく時間がたって腕も生え始めた。五体満足の体がどれだけ素晴らしいのか改めて分からせられたよ。
にしても力を手に入れたはいいけど。毎度毎度こんな死にかけになるのはごめんだ。
正直死ぬときの痛みとか絶望感とかになれる気はしない。
「なぁ、どうやったら君の力をもっとたくさん使えるの?」
(お前らが言ってる魔物の心臓石ってやつあるだろ?多分それだ。形それっぽいし何か慣れ親しんだ力を感じる)
「心臓石が?魔石じゃなくて?」
(俺らは魔力を使ってるわけじゃない。必要なのはあの心臓石の力だ)
「っぷwこれだから学がない奴は困るよ。心臓石には力はないよ?確かに20年前に初めて観測された変異種である心臓石を持った魔物は一般的な魔物に比べて特質した力を持つものが多いがそれは心臓石のせいじゃないよ。単純に魔力が増えすぎたことによる変化さ。その際に魔力が一番流れる心臓が魔石化現象を起こしたのが心臓石なんだよ。神なのにそんなことも分からないんだね。もっとお勉強した方がいいよ」
(調子に乗るなよガキ、復元能力はどんな状態にでも復元ができるんだ。今から腕が消えたところに戻してやってもいいんだぞ)
「ごめんなさい。僕頭がいいから少し間違ったことを言ってる人を見るとちょっとイラついちゃって」
(いいからさっき倒した魔物の心臓石を体に吸収してみろ)
「分かった」
といったものの、一体どうやって石を吸収すればよいのだろうか?
手に触れさせたもののこいつの時みたいに体に入り込みもしなければ魔石みたく光るわけでもない。
どうすれば体内に入るのか皆目見当がつかない。
(食え)
回答は意外にシンプルだった。シンプル過ぎるがゆえによくわからなかった。
「これ一応石だよ?」
(大丈夫お前なら食える)
本人もそう言っていたので僕は意を決してそれを口の中へ投げ入れた。
多少のどに詰まるくらいは覚悟していたが不思議なことに詰まるどころか喉を通る感覚すらなかった。
「どう?」
(ビンゴだ。やっぱこれっぽいな。まぁ分かってたけど、それにしても20年か。大分スタートダッシュ遅れたな。見た目にこだわり過ぎたか)
「何?」
(気にしなくていいやつだ)
「別に気にしてないけど?とりあえずこれでパワーアップってこと?」
(あぁ、後50個くらい集めればライトニング何とかってやつは1回くらい使っても体を持っていかれる心配はなくなる)
「なるほど分かった。それ桁数合ってる?」
(うん)
正気の沙汰じゃない。50個集めてもライトニングブレス一回分?しかもその50個集めるために僕は後何回片腕喪失の痛みを味合わなければいけないのだろうか?
それに50個集めても体力は全部持っていかれるのか。歴史に名を遺す偉大な魔法使いになる僕の夢が少しづつ曇っていく。
でも僕はもう逃げ出したくない。せっかく手に入れた力だ。努力すれば確実に強くなる力だ。魔力を持たない僕が魔法使いになるためのチャンスが目の前にあるというのにわざわざそれを逃す理由はない。
僕はみんなを見返したい。父上に認められたい。魔法使いになりたい。そのためなら棘の道にだって自ら足を踏み入れてやる。
「いいよ。やるよ。まずは50個だろ?何回死ねば辿り着ける?」
僕の気持ちを察したのだろう。こいつは微かに笑いこう答えた。
(そいつはお前が決めろ)
覚悟は固まった。僕は魔法使いになって見せる。いや超えて見せる。
ここから先僕は地獄の夏休みを過ごした。朝から夕暮れ時にかけて森へと足を運び心臓石を集める毎日。
何回死んだのかも数えきれない。炎で焼かれたり、腹を穴だらけにされたり、生きたまま食われたり、四肢を引きちぎられたり、窒息させられたり、体を毒に侵されたり、死にきれず痛みに耐えかねて自害したりと多分世の中で存在する老死以外の死に方は体験したと思う。
だけど何回経験しても痛みと死への恐怖は変わらなかった。復元できるってわかっても痛いものは痛いし生き返るってわかっても死ぬ瞬間は辛い。
精神が壊れなかったのが我ながら凄いと思う。因みにこれでも痛みの6、7割はこいつが担っているらしい。
そんな地獄の1カ月を僕は文字通り死ぬ気で乗り切った。そして一か月後だ。
死亡回数452回、集まった心臓石の数54個。この努力の結果を確かめる日がやってきた。
(やって見せろ)
一息空気を吸いこんだ。そして手を前へ掲げ、目を見開き、詠唱をした。
「我が身を駆け巡る稲妻よ、我が手に収斂し虚飾の力を纏いたまえ、叶うのならばその雷鳴の如き咆哮を持って、悉くを凌駕して見せよ!『ライトニングブレス』」
(来るぞ)
直後に疲労感が襲ってきた。体が前に倒れこむ。だが、
ドスっ
倒れそうになる体を支えるために足で地面を蹴り僕はぎりぎりの状態で立ち尽くした。
「はぁ..因みにぃ..だけど..体力、まだ残ってるよ...」
(よく頑張った。おめでとう)
僕は腕を大きく空に掲げた。ガッツポーズだ。こいつが言うにはある世界の人々がとてつもない喜びや達成感を感じた時にする行為らしい。
努力はこれまで誰よりもしてきたつもりだったがこんな大きな達成感と喜びは今まで感じたことがなかった。
僕は初めて人生で何かに本気で立ち向かった気がする。歴史に名を遺す偉大な魔法使いになる夢はまだはるか空の彼方だけど初めの一歩はもう踏み出した。
後はこの勢いに任せて走るのみだ。僕に道を示して導いてくれたこいつには感謝してもしきれない。でも何かを見落としている気がする。
「ありがとう。君のおかげで僕もみんなを見返せそうだよ。きっと父上もこれで喜ぶ」
(感謝はいらないぜ。キブアンドテイクってやつだ。俺がお前を助けてお前は俺を助ける。winwinな関係だろ?)
「だね......」
(..........)
そうだった。こいつは僕に寄生して何かをさせようとしていたんだ。死に過ぎてすっかり忘れていた。
あれ?でも何をするんだっけ?思い出せない。
(まずは俺たち『恐怖を司る神の欠片』以外の感情を司る神の欠片を宿す人間を殺してもらう)
「え?」
(例えこの世界を恐怖で満たすようなことになろうとも、今度の力の欠片は俺が貰う。恐王の名に懸けて)
僕と恐王の異世界転生譚 ~魔法の才能に恵まれなかった僕がいずれ恐王たらしめる時まで魔法使いとして世界中に僕らの強さを分からせる旅に出ます~ ガゼル!インペラー!カモシカ! @774nanasi
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