第9話 アリス(7)

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「そもそもお前らはガツガツ行きすぎだ。どうして俺がお前らよりも彼女と友好的な関係を築いたのか理由を少しでも考えたか? 彼女と付き合いたいお前らは少しの進展もないのに彼女とどうこうなるつもりがない俺は彼女と多少なりとも友好的な会話ができるのには理由があるんだぞ?」

「理由?」


 この世界の男は女性に対してガツガツと猛烈にアタックする人間が多い。

 そう言ったアプローチの仕方でカップルが成立する場合が大半なので、必ずしも彼らの行動が悪い訳では無いのだが、相手がアリスの場合は悪手になるだけの話だ。


「彼女がなんで図書委員になったのかわかるか?」

「それは……」

「本が好き……だから……か?」


 さすがにそれはわかっていたようで軽く安堵する。


「そうだよ。わかってるじゃないか。お前らが知っているかはわからんが、俺も本が好きでしょっちゅう本を読んでいる。共通の趣味があるんだから会話があってもおかしくないだろ?」

「……なるほど」

「いや、だからって」


 どうやら尻乗せじゃない方は納得したようだが、尻乗せ男は納得いかないらしい。


「彼女の性格や好きなものを考えたことがあるか? いきなりデートに誘われて、デートでお互いのことを知ろうとする女もいるだろうが、彼女の場合はそうじゃない。パーソナルスペースが広いんだ」

「パーソナルスペース?」

「すごい雑に言えば、どれくらい仲が良ければ彼女とデートできるかってことだ」


 細かい話は置いておき、二人に関係のあるところだけ理解させておけばいい。


「今まで話したこともない人間でもクラスメイトって共通点だけあればデートに同意するやつはパーソナルスペースが狭い。誰とでもすぐ仲良くなろうとしているからだろうな。だが、カルヴァンさんの場合は、クラスメイトってだけだとデートに同意してくれない。ある程度仲良くなってからじゃないと押しに負けた彼女がデートに同意しても、彼女は気まずい思いをするだけで楽しんでくれることはないだろうな」


 ゲームでのアリスも初デートイベントは中盤以降、全キャラの中でもかなり初デートが遅いキャラだった。

 その代わり、放課後の図書館で好感度を上げるイベントが中心だった。


「そういう意味では、俺がデートに誘っても彼女は断るだろうさ」


 俺もそれほどアリスと仲がいいわけではないとここで念押ししておく。


「じゃあ、どうしろって言うんだ?」

「本気で彼女と付き合いたいなら、まずは彼女と普通に話せるようになれ。まずは共通の趣味ってことで本を読むのがいいだろうな」


 俺の言葉に二人は信じられないと言わんばかりの表情だ。

 前世で言うところの陽キャと陰キャと分けた場合、この世界には圧倒的に陽キャが多い。

 陽キャだと簡単にデートに同意するという話ではなく、大多数の人間にとって男女で出かけることへのハードルが低いのだ。

 お互いのことをまったくと言っていいほど知らなくても、とりあえずデートに誘えば同意を得ることは難しくない。

 デートの中でお互いの趣味や性格的な相性をすり合わせることで関係を進めるのがこの世界における男女交際の主流なのだ。

 とは言え貞操観念がゆるいわけではなく、デートがすなわち肉体関係に発展することと同義にはならない。

 むしろ貴族と平民が同じ場所で学ぶ関係上、恋愛関係には貴族的な価値観の比重が大きいおかげで現代日本よりも清い交際が求められる。

 デートは基本的に人目が多い場所で、二人きりになるような場所にはいかない。

 前世なら遊園地などのアミューズメントパークは問題ないが、カラオケなどに行ってしまえば非難の的となる。

 そう言ったことを常識として、男女で一緒に遊びに行くのが普通のことなのだ。

 そして、その考え方を持った上で恋愛関係に前向き、意欲的な人間が男女ともに多い世界なのである。

 高位貴族の令息、令嬢ともなれば話も変わってくるが、そうでもなければクラスメイトという共通点だけあればデートを断る女子は圧倒的に少数派だ。

 そういう意味では、アリスはかなりの変わり者だと言えるだろう。


「まぁ、信じられないって言うなら好きにすればいい。だが、本気でカルヴァンさんと付き合いたいなら、まずは本を読んで見ることだな。できれば女性向けの恋愛モノの小説を感想が言える程度に読んでみろ」


 いや。

 さすがにほとんど本を読んだことがないだろう二人にいきなりドロドロの愛憎劇が描かれたりするアイリーン夫人みたいな作品を勧めるのは無理があるな。

 話の中でアリスもなかなか幅広いジャンルに手を出しているようだったので、読書という共通の趣味さえあれば、ある程度話の種にはなるだろう。


「とは言っても、普段本を読まないのにいきなり女性向けってのは難しいか。冒険モノなんかの娯楽作でも、カルヴァンさんが図書館にいる時に面白かったから似たような小説を探しているって言えば話の種にはなるだろうよ」


 俺の言葉に感銘を受けたのか、なにやら考え込む様子のじゃない方と納得いかない様子で敵意を隠そうともしない尻乗せ男、と二人の様子は対象的だ。

 さて、このアドバイスで二人とアリスの関係はどうなることやら……

 とりあえず、俺を巻き込むことだけは辞めてほしいものだ。

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なんでお前らは俺(モブ)の周りに集まるんだ? ししだじょうた @shishida

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