第8話 アリス(6)

07

 図書館に行きたいところではあるけれど、このまま放置するわけにもいかない。

 俺は溜息を零したくなるのを必死でこらえた。

 この二人は、モブキャラではあるもののゲームに登場したキャラクターでもあるのだ。

 アリスルートで、アリスの好感度を上げていくと今俺が絡まれているのとなじように主人公が絡まれるのだ。

 まったく意図していなかったけれど、俺はアリスのフラグを立ててしまったらしい。

 ゲームでは、この絡まれるイベントはもっとアリスのイベントを進めてから発生するのだが、ゲームが現実になったことの影響だろう。

 まったくもって面倒なことだ。

 なによりも面倒なのは、この二人にきちんと対処しないとアリスルートのバッドエンドに行ってしまう点だろう。

 バッドエンドと言っても、世界の破滅とか断罪、追放みたいな話ではなく嫉妬に駆られた二人の男によってアリスが殺害されるというなんともひどい展開だ。

 アリスとの関係を進めるつもりなどないが、さすがに人死にが出るとわかっているのに放置することなどできはしない。

 まぁ、ゲームと違って現実なのだから対応を間違えなければ問題はない――と、信じたい。


「なぁ、お前らは俺に用があったんじゃないのか?」


 いつまで経っても仲間割れを辞めない二人に声をかける。


「っち、そうだったな」

「お前らはアリスから手を引け!」

「なんだと!?」


 尻乗せ男が俺だけではなくもう一人の方までまとめて排除しようとしたために、また喧嘩になりそうになってしまう。

 本当に困ったものだ。


「待て待て。最初にはっきりさせておくぞ? 勘違いしているようだが、俺はカルヴァンさんと付き合おうだとか思ってない」


 俺の口からアリスを狙っていないと言ったことですぐに納得するかと思ったが、どうにも二人は胡散臭そうな表情を浮かべている。

 口ではそう言っておきながら実は……などとありもしない裏を疑っているのだろう。

 実際、アリスに興味がないというのはゲームで存在する選択肢だ。

 そして、これがバッドエンド行きの選択でもある。

 アリスの好感度が一定以上あるため彼女の方から話しかけてくるのだ。

 粉をかけている自分たちよりも興味が無いと言っていた主人公のほうがアリスと仲がいいことに嫉妬して二人は凶行に及ぶことになる。

 しかし、ゲームでは興味がないという選択肢を選ぶだけで終わってしまうが、現実となった以上そこからさらなる軌道修正が可能なはずだ。


「はぁ……信じられないって言うなら別に構わないが、お前らのやり方だとカルヴァンさんはいつまで経っても振り向いてくれないぞ?」

「なに!?」

「どういう意味だ!?」


 面倒ではあるが、俺の静かな学園生活のために彼らに変わってもらうとしよう。


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