第3話 九世機構
『組織』の研究員達は深い諦念に包まれながらも、未だ少女を捜し続けている。
狭い研究所内は暗鬱として、誰一人楽観的な言動を発しない。それを許さぬ空気を皆が共有している。
組織は『九世機構きゅうせいきこう』と呼ばれていた。
歴史の節目節目に名前や在り方、規模も変わっているそうだ。それぐらい組織の来歴は旧く、設立が日本史上いつの年代だったのかは、誰も知らない。
私も知らない。知る必要は無い。興味も無い。
「駄目です。世界樹の化身に関しては、手がかり一つ掴めません」
男性研究員が、重苦しい声音で告げた。
「そうか。そんな状況で『オムパロス計画<プラン>』だけが進行してしまうとは――世界樹の観測に成功してしまったことが、そもそもの過ちであったか」
「やはり枝<チャート>が失われた今、手は残されていないのでしょうか、須藤すどう室長」
研究員は暗澹たる表情を浮かべている。
「……組織は必ず残してみせる。ただでさえこの社会は力を失っているのだ。我らが潰えれば、すぐにでも滅びてしまうだろう」
大仰な表現ではあるまい。確かにこの国の情勢は異常だ。道を選ばずに歩もうとしても、その道が元から存在しない。若き芽は日に日に摘まれていく。
「怠惰になってはならぬ。かつての私達は積極的に政治に介入してでも、社会の根幹を支えてきたのだ」
私もその全てを知っているわけでは無いが、戦前に民族融和を進めようとする軍部の影にも組織の干渉があったのだそうだ。
組織が扱う民族は、同じ民族でも質が違う。豊富な資本さえあれば、組織は目的を果たせる。あの世界樹でさえ、組織にとっては道具の一つに過ぎなかったのだから。
「今しばらくは、私に皆の力をくれ。世界樹の枝<ユグドラシル・チャート>を持つ者は、今も我らを見つめているのだから」
若い研究員達が、尊敬の眼差しでこちらを見て、
「須藤様のご随意に――」
声を揃えた。
彼らは、私の視線に気づくことは無い。
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