金曜日の訪問者

katsumi

第1話

俺は大学を卒業し、就職も決まり今年からようやく念願の一人暮らしを始めることができた。とても閑静な住宅地で自分としてはとても気持ちが楽である。親にはうるさくこれで言われることもないだろうから。

そんな中、俺は金曜日になると一人の訪問者が訪れる。年齢は自分と近い感じがする。名前も知らない、住んでいるところも知らない。そんな女が訪問してくるようになった。


キッカケは彼女が雨の中一人で公園に座っていたところから始まった。

俺も彼女がこのままでは風邪引くと思い、声をかけた。

「おーい、そんなところへいたら風邪引くぞ、タオル貸してやるからあがってこいよ」


しかし、その時の彼女の態度はこちらにも振り向かず、俺の反応に全く応じない様子だった。

「勝手にしろ!」

そして数分後、俺の部屋からインターホンが鳴った。ドアを開けてみると先ほどの彼女だった。俺はタオルを持って彼女にそれを渡した。ところがタオルで拭くと彼女の頭から血が出ていたのが解った。

「頭、血出てるよ」

「大丈夫」

「・・・ところで、君なんであんなところに一人にいたの?」

俺がそう言うと、彼女は突然俺に抱きついてきた。

「ねぇ・・・寒い・・・温めてよ」

「え?」

突然彼女のほうから俺に近寄ってきたのだった。誓って言うが俺は彼女に対し、全くそんな気はなかった。ただなんというか、俺の心の一瞬の隙を彼女の心と身体がすべりこむように入ってきて、そして気づくと彼女の華奢きゃしゃな体が俺の下にあった・・・。


俺はやばいなとは思いつつも彼女を抱いた・・・。そしてそれが終わると彼女は俺に手を伸ばして求めてくる。そうお金を求めてきたのだ。だけどこのまま何かあると俺が不利になりそうだ。やばいことをしたのだから、お金で解決できるならそれで良いと思い、俺はお金を渡そうと声をかける。


「いくら?」

「いくらでもいい」

と、彼女は答える。でも今の俺の所持金は二万円しかなくとりあえずそれを渡した。

「また私を抱きたい?」

「え?」

「嫌?」

「そうじゃない」

俺がそういうと無言で彼女は立ち去る。これ以来、毎週金曜日必ず訪れるようになった。しかし、止血しているとはいえ頭の傷は気になる。

 

「何ぼーっとしてるの? するんでしょ?」

「あ・・ああ」

お互いの事何も話そうとしない二人そして俺も彼女もそれを聞こうとはしなかった。

毎週金曜日ただ体を重ねるだけの日々を送っていた・・。そしてその都度お金を渡していた。金額はその時にあった所持金を渡す。1000円のときもあった。でも彼女は何も言わない。


そしてそれが終わると今日は雨だった。このまま彼女を帰すと風邪を引きかねないと

思いしばらく様子を見ることにした。

「ねぇ・・寒い・・・温めてよ」

「そうか? そんなに寒いか?」

「今日は私のことずっと・・・抱いて・・・」

俺は彼女の言われた通りずっと抱きしめた。

「もっと私を満たして欲しい・・・」


俺は今できることは彼女を抱いてやることで充分満たしているつもりだ。

どうすればそれ以上のことを満たせるというのだろう・・。

とにかく俺は彼女が求めるものすべてに答えてあげようと努力した。

「どうしたらいい?」

「抱きしめて欲しい」


彼女がそう望むので、俺は彼女を抱く。それでも彼女の表情に笑みはない。やがて雨もやみ夜が明けそうになった頃、彼女は帰ろうとしたが、俺は彼女の正体が知りたくなったので腕をつかんだ。


「ずっと聞いてなかったね君は何者なの?どうしてあの雨の日ずっと1人でいたの?頭の傷なんで癒えないの?」

ずっと聞けなかった答えを聞く。

「私の事まだ解らないの?」

「解らない」

「そう・・・じゃあ私と会えて良かった?」

「最初は、困惑したけど今じゃ俺は君と会えて嬉しいよ。可愛いと思うし、君を見てると、解らないが守ってやりたい感じがある」


すると彼女は泣いた。その後は無言のまま立ち去った。次の週から彼女は来なかった。そしてしばらく経ったある日、俺のポストからは今まで俺が彼女にあげたお金と週刊誌のような雑誌が入っていた。少し汚く折り目が入っていたのでそれを読んで驚愕した。




それは彼女の写真と彼女の事が書かれている記事だった。記事を読み終えると内容はこうだ。


それは彼女と出会う1か月ほど前の話だ。彼女は両親から虐待を受けて育ち、いつも1人で寂しく施設で育った彼女は、ほぼ誰からも話をかけられない生活を送っていた。ある日、親の命令に背いたと思いこんだ父親は勢い余って彼女の頭を殴り病院へ搬送され死亡。それが日付をみると曜日が金曜日だった。父親は逮捕された。この父親は実の父でもないことも記されている。母親もまもなく逮捕。虐待の原因は母親により彼女を邪魔扱いした事とも書いてある。実の父については事故死と書かれている。



その時俺は気づいた。彼女は充分な愛情が欲しかったために、俺のところへ来たのだと・・。お金を払ったのは俺があの時お金で解決できるならば、という気持ちを読まれていたかもしれない。俺のところへやって来た理由もあの日、声をかけたからだろうか。ほぼ誰にも愛されることがなかった彼女は、俺の告白により去っていった。


しかし、数年後俺の会社に一人の女性が入社してきた。あの日の彼女にそっくりだった。何事もなく業務を終えると、帰り道一緒になった。気になった俺は聞いてみた。


「君はもしかして・・・」

「そうだよあの時の私だよ」

「あの、じゃあ毎週金曜日に来ていたのは?」

「毎日来たら迷惑かけると思ったから、その間は必死で逃げていた。あの記事は虐待両親から逃げるために作成した記事。死亡以外は本当の事よ」

彼女はそう静かに告げる。

「大変だったんだな」

「それであの時の話の続きなんだけど」

「守るよ。大丈夫寒くない?」

と、俺が言うと彼女は嬉しそうにこう言った。

「もう温まったよ」

それは彼女が俺に見せる初めての笑顔だった。


ー完ー





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金曜日の訪問者 katsumi @katsumi2003

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ