第五話 神が授けた者 ⑥
マリアと共に研究室へと戻ってきた黒田。
一同は何一つ変わらない姿勢を彼に向けていた。
「黒田さん、あれ、どうします?」
「そのこと、マリアに話したんだ。マリア、どうする?」
彼女は結城の元へ歩き、手を差し出した。
「え?」
「ちょうだい?USBとか資料とか、全部まこっちゃんが持ってるんだよね?私にくれない?」
何をするのかと不思議に思いながらも、彼はマリアに全ての記録媒体を渡す。
「ありがと」
結城から受け取った全てを手に、マリアは自分のパソコンへとそれを挿入し、スクリーンを下ろした。
「何するんですか?」
「どうせ処分するなら、全てを頭に入れてから処分してやるんだよ」
マリアはそう告げ、一人、スクリーンに向かう。
部屋には彼女が叩くキーボードの音と、記録された音声だけが響いていた。
*
彼女は一切の休憩も取らず、ずっとパソコンの前に座っていた。
「青井くん、なんていうか……感謝しているよ……。君がいなかったら、私はこのまま警察を辞めて、どこかに行っていたかもしれない。マリアともう一度、またこうして話ができるなんて……本当にありがとう」
「何を言ってるんですか。俺は礼を言われるようなことは何も。ただ、マリア先生が信じているあなたが悪い人間じゃないって、そう思っただけですよ」
暁人はそう返す。
黒田は彼に手を伸ばす。その手をしっかり握り返す暁人に、黒田は以前のような覇気のある表情を向けた。
そして、マリアが全ての資料を頭に入れるまで、わずか六時間。
六時間後、彼女は「あそこを燃やしに行くぞ……このまま残しておけない……」と、手製の“調合液”を手に、研究室を後にした。
さすがに“調合液”を持って飛行機に乗る訳にもいかず、一行は交代で運転し、北海道へ向かうことに。
そこに向かうまでの約二十時間。
他愛もない会話ばかりで、誰もそれに触れようとはしなかった。
「じゃあ、次は僕が!……次の四冊うち、推理小説はどれでしょう!」
後部座席では、なぞなぞ大会が開かれていた。春日部と結城に付き合わされた黒田はもちろんのこと、運転する暁人でさえ半強制的に参加させられていた。
マリアはと言うと、彼が運転する助手席で子どものような顔で眠っている。
「“犯人が残した足跡”“砂浜のピエロ”“赤鬼の真実”“新米警察官最初の事件”……はい!これがその四冊。これ簡単ですよ!分かります?」
必死に考えたのだと、結城は春日部に問題を出す。
「黒田さんも考えてくださいよ」
「いや、さすがにこれは簡単だよ……答え言っても……」
「だめです!春日部さんに考えさせたいんですから!青井さんは分かります?」
後部座席から聞こえる声に、暁人は「簡単だよ」とだけ答えた。
「ですよね~黒田さんも青井さんも頭の回転速いですし、なぞなぞとか楽勝ですよね。マリア先生にも聞きたいけど……」
「マリア先生になぞなぞなんか出したら瞬殺だぞ」
暁人は笑いながら言う。
が、腕を組み、必死に考えている春日部に気付いた暁人は「まじかよ……」と苦笑いを浮かべた。
「え、ほんとに分かんない……四冊とも推理小説みたいなタイトルだけど……」
「なぞなぞは春日部さんとやると面白いですよね」
結城はそう言ったが、それすら耳に入らない春日部に、彼は黒田と目を合わせるしかなかった。
「ふわぁ~……今どの辺~?」
マリアが目を覚ます。
「もうじき北海道に入りますよ。寒くないですか?」
「うん……みんな起きてたの?」
ミラー越しに後部座席を確認したマリアはそう聞いた。
「後部座席は絶賛なぞなぞ大会中ですよ」
暁人がそう答えると、「誰が出して誰が考えてんの?」とマリアは興味を湧かせた。
「今は結城が考えて、春日部と俺と黒田さんが考えてたんですけど、春日部だけが悩んでて」
「どんな問題?」
「マリア先生なら楽勝だと思いますけど……」
暁人はそう言うと、結城が出した問題を彼女にも伝えた。すると、暁人が「砂浜のピエロ」と言った瞬間に「それだ」とあっさり答えを言ってしまった。
「あー!先生!今答え言ったでしょ!俺、まだ考えてたんですからねっ!?」
春日部にも聞こえたのか、彼は不貞腐れた。
「こんな簡単な問題にどれだけ時間掛けてんだよ」
マリアが返す。
「というか、なんで砂浜のピエロが答えになるの?」
彼の一言で車内には一瞬、なんとも言えない空気が流れた。
「春日部さん……本気で言ってます?……仕方ないな……じゃあネタばらししますね?」
頭を掻きながら、結城は説明する。
「僕は、問題文の中にヒントを入れてたんです。“推理小説”って。で、“犯人が残した足跡”“砂浜のピエロ”“赤鬼の真実”“新米警察官最初の事件”の中で“す”が入ってる。つまり、“推理”を“すいり”として、“すが入ってる小説は?”と尋ねていたんです。だから、四冊の中で“す”が入ってる“砂浜のピエロ”が答えになるんです。……分かります?」
結城は一気に話したからか、肩で息をしていた。ここまで説明したが、春日部の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。
「そろそろ着くぞ」
答えを聞いても尚考えている春日部。
一同は呆れた様子で、目的地へと降り立った。
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