第二話 ヴァンパイアの秘密 ⑤

「で、それって責任とれる?もし、違ってたらどうするの?」

 暁人は上司である崎田に、容疑者を任意同行させたいと申し出ていた。

「ですが、総合的に判断して……」

判断した……そうでしょう?この事件は警視庁の威信がかかってる。任意同行掛けたけど間違いでした……なんて、世間の目は怖いよ~?」

 崎田がそう言うが、暁人も引かない。

「確かに、間違いは許されません。ですが、マリア先生が言っていることに間違いはないと、俺は信じてます」

 崎田が口を開こうとした瞬間、黒田が割入った。

「任意同行かけてください、青井くん」

「え?あ、はいっ!春日部、行くぞ!」

 暁人がペアの春日部を連れて走っていく。

「警視監、間違っていたらどうなさるおつもりです?」

「う~ん、間違ってたら、どうしようか……」

 彼は微笑み、その場を去った。



「俺と春日部で聴取をしますから、先生はここで大人しくしててください」

 暁人がそう伝える。

 会議室を区切り、半分に容疑者を。半分にはマリアと鳴海が待機し、会話を聞いていた。もちろん、部屋の外には警察官が待機している。

「お待たせしてすみません。少しお話を聞かせていただきたくて、お呼びしました」

「あの……私は何か疑われてるんでしょうか」

 暁人の目の前に座る男性は、おどおどしながらそう尋ねる。時折部屋の中に視線をやり、辺りを見回している。暁人は「疑っているのではなく」と前置きしたうえで、会話を続けた。

「お話を聞かせてもらうためにご足労いただきました」

 彼はそう言い、名前と職業など事情聴取の基本的なことを聞いていた。

梅木貢うめきみつぐ、鈴森健診センターで技師をしています」

 彼はそう名乗った。

「梅木さんですね、ありがとうございます。あなたは、七月一日から二十日までに企業や学校などの検診に行かれてませんか?」

 暁人がそう尋ねると、梅木は手帳を確認しながら答える。

「はい、確かに三日と十三日、二十日にそれぞれ検診に伺っています。うちは一日である程度の健康診断を終えられますし、結果も早いですから、企業からは重宝されていて……それがどうかしましたか?」

「いえ、それがどうというわけでもないんです。ただ、その三日間のうちに検診を受けた方が亡くなっていまして、何か病気があったのかと思いましてね。お話を聞かせてもらっているだけなんです」

 暁人がそう言うと、彼はどこかばつの悪そうな表情を浮かべた。

「どうかされました?」

「へ?あ、いえ。ただ……検診を受けたのに亡くなるなんて、何とも……。うちがもっと早く結果を出せれば亡くならなかったのかもしれないと思って……」

 その後も暁人と春日部による聴取は続いた。

 その間、マリアは暁人が言ったように珍しく、鳴海と大人しくしていた。

「マリア先生は、あの刑事さんとペアを組んでいるんですか?」

「暁人か?うん、ペアを組んで捜査して、私の研究に活かす手伝いをしてもらってる。あ、私は捜査の権限はないからあくまでも研究の為ってやつだけど。本当だぞ?私は捜査はしてないからな!」

「え、ええ。それはそうと、どうして彼らのプロファイリングを私に頼んだんです?ほかの人間でもよかったんじゃありません?」

「何でか知らないけど、私だと誰も引き受けてくれないんだよ。で、まこっちゃんが、あんたなら引き受けるかもしれないって言うから頼んだだけだ」

 マリアはそう言って、再び聴取に耳を傾ける。



「お待たせしました。中へどうぞ」

 春日部が廊下に待機している男性に声を掛けた。

「し、失礼します……」

 男性はやはりおどおどとしており、動きもぎこちない。

 警察に呼ばれた人間は部屋を見渡す習性なのか?マリアは、わずかな隙間から向こう側をのぞいていた。

「あなたも鈴森健診センターの技師さんですよね?」

「え、あ、はい……検査技師の高倉徹たかくらとおると言います」

 彼はそう名乗った。

 春日部は手元の資料に視線を落とす。さすがに名前を偽ることはないか……。前もって調べておいた資料にも、名乗った通りの名前が記載されていた。

「あ、あの……僕と梅木さんはどうして呼ばれたんです……?」

「実は、鈴森健診センターで検診を受けた方が亡くなりまして……何か病気が……」

「すみません……っ!」

 突然彼は謝罪の言葉を述べた。

「どういうことです?」

「け、検査の結果が通常よりも遅れていて……普通なら五日もあれば全ての結果が出るんですけど……システムの関係で結果が……それで検査結果が出るのが遅くて……ほんと……すみませんっ!」

 彼は頭を何度も下げる。

「システムのことですから、誰のせいと言うわけでも……」

「でも、すみません!」

 彼は責任感が強いのだろうか。結果が遅れたことで亡くなったと思っていた。

「高倉さん、亡くなった方に関してなんですが……」

「彼らのことは分からないんです……僕らはあくまでも技師なので……」

 暁人の顔色が変わる。それと同時に、大人しくしていたはずのマリアが動き出した。

「お前、犯人だろ?どうやって吸血してんだ?」

 鳴海が慌てて腕を掴もうとするが時すでに遅し。

 彼女は暁人の後ろから小さな体を乗り出し、高倉をじっと見つめた。

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