揚げ出し豆腐

シカンタザ(AI使用)

揚げ出し豆腐

コロナ禍になって家にいることが増えたので料理を趣味にするようになった。今日は揚げ出し豆腐を作った。味見をし、満足して食べ始めようとした時だった。ふと気付く。揚げ出し豆腐には大根おろしが欠かせない!そう思いだした私は大慌てで冷蔵庫に向かった。しかし、そこにお目当てのものは存在しなかった……。あぁ、どうしよう!? ……と、思ったけどよく考えればそもそも私が作ろうとしたメニューには大根がなかったから大丈夫なのだけれどね?

「というわけでお邪魔するぞ」

私の家に来るなり唐突な挨拶をした彼女は手土産を差し出してきた。それを受け取って台所に置く。ちなみに彼女の言う「と言うわけで」の意味はまったく理解できないのだが、いつものことなので今更ツッコミを入れることはしない。

「それで、何を作ったんだ?」

「揚げ出し豆腐だよ」

「なるほど。それは美味そうだな」

嬉しそうな顔をしながら彼女が呟く。

「でも、その前に一つ確認したいことがあるんだけどいいかな?」

「なんだ?」

「君は確か……揚げ出し豆腐って好きじゃなかったよね?」

私の言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が凍りついた。まるでこの世の終わりを見たかのような顔をしている。そしてそのまま崩れ落ちるように膝をつくと頭を抱え始めた。

「うぅ……なんでそんなことを聞くんだよぉ……」

「いや、だって君が来る前に揚げ出し豆腐を作ろうとしたら大根がないことに気づいたからさ。だから君もきっと嫌いだろうなって思ってたんだよね」

「別に私は揚げ出し豆腐なんて好きじゃないぞ!」

「えっ!?嘘だよね!?」

まさかの発言に驚く。あれだけ美味しい料理なのにどうして好きではないのか不思議でしょうがない。すると彼女はこちらを見つめながら口を開いた。

「確かにあの料理は好きだよ。だけど、それはあくまで揚げ物の中での話であって決して主食になるようなものではないんだ。それに……揚げ物は太るじゃないか!」「…………」

「揚げ出し豆腐なんてカロリーの高いものを食べるくらいならご飯を食べたい。それが本音だよ」

「なるほどねぇ……」

確かに彼女らしい意見だと納得してしまう。ただ、私はそこまで気にしていないので少しだけ心配になった。

「大丈夫だよ。揚げ出し豆腐くらいなら全然平気だと思うから」

「甘いぞ。砂糖のように甘すぎる。揚げ物を一日に五回食べるだけでどれだけ体重が増えるか知っているか?」

「いや、知らないけど」

「揚げ物一個につき100グラム増えると仮定した場合、単純に計算すれば一日あたり0.5キログラム体重が増えることになるのだ」

「へぇ……」

「これを聞いてお前は何も感じないのか?明らかに体に悪いだろ。いくら美味しくても毎日食べたらダメなものはあると思うんだ」

「まぁ、言いたいことは分かるよ」

「つまり揚げ出し豆腐とはそういう食べ物なんだよ。だからお前も絶対に食べちゃだめだ。分かったな?」

「はいはい。分かりましたよーっと」

適当に返事をする。すると彼女は不満げな表情を浮かべて頬を膨らませた。

「おい、ちゃんと聞いているのか?」

「うん、聞いてる聞いてる。それよりさっきからずっと喋っているけど、そっちの方がカロリー高いんじゃない?」

「むっ……それもそうかもしれないな」

「やっぱりね。ところで一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「なんだ?」

「君は揚げ出し豆腐が好きなんだよね?」

私の質問に対して彼女は目を逸らす。どう考えても答えを知っている反応だった。

「ふふん、やはりバレてしまったか。仕方がない。正直に白状しよう。実は私は揚げ出し豆腐が大好きなんだよ」

「やっぱりそうなんだ」

「揚げ出し豆腐が嫌いな女子などいない!これは真理と言ってもいいだろう。だが、私の場合はちょっと特殊でな。揚げ出し豆腐は大好きなのだが、他の料理は基本的に苦手なのだ。例えばハンバーグとかカレーライスとか」

「あぁ、なんか想像できるかも」

「だろ?特にハンバーグに関しては最悪なのだが、あいつは肉の中に大量のタバスコを入れてしまう癖があってだな。小さい頃はよくそれで泣いたものだ」

懐かしいなぁ……と呟きながら遠い目をしている。きっと昔を思い出しているのだろう。あいつって誰だろう。そんな彼女に私は問いかけた。

「ちなみにどんな味がするの?」

「そうだなぁ……。例えるならば辛いというより痛いといった方が適切だろうか。とにかく舌がヒリヒリしてしばらく何も食べられなくなるレベルだ」

「うわぁ……」

「ちなみにタバスコは一回で1瓶入れるのがマイルールらしくて、それを守らないとキレてくる。本当に面倒くさい奴だよ。あいつは」

「うわぁ……」

「あと、あいつには一つ大きな欠点があるのだが、それは何か分かるか?」

「分からないかな」

「ではヒントをあげよう。まず最初に『揚げ出し豆腐』という言葉が出てくる時点でもうおかしいと思わないか?」

「どういうこと?」

「いいか?揚げ出し豆腐と言えば和食の代表格である。つまり洋風系の料理を出す店でも普通にメニューとして存在していることが多い。それをわざわざ中華料理屋に行って頼むやつがいると思うか?いや、いないだろう」

「たしかに……」

「しかも、あいつは中華街にある老舗の店で働いているにも関わらず、自分で作った揚げ出し豆腐が一番美味しいと思っているから質が悪いんだ。まったく……あれだけ美味しいものを作れるのだから、もっと違う場所で活かせないものなのか……。私としてはそれが一番の問題だな」

「うぅん……確かにそれは問題だね」

「だろ?だから私は揚げ出し豆腐が嫌いなんだ。あんな不味いものを好んで食べるやつの気が知れないよ」

「……」

「おっと、話が逸れてしまったな。というわけで私は揚げ出し豆腐が嫌いなので絶対に食べません。以上です」

「いやいやいや、ちょっと待って。今の話を聞いてると、まるで君が揚げ出し豆腐を食べていないみたいじゃないか」

「その通りだぞ。そもそも私が住んでいるアパートの近くには中華料理店がないし、あったとしても高級料理店ばかりだからな。そんなところに一人で行く勇気はない」

「なるほどねぇ」

「そういうことだから、お前も絶対に食べるんじゃないぞ。分かったな?」

念押ししてくる彼女を見て思わず苦笑してしまう。どうやら揚げ出し豆腐を食べさせたくてしょうがないらしい。だけど、残念ながら彼女の言う通りにするつもりはなかった。

「大丈夫だよ。別にそこまで好きじゃないから」

「えぇ……」

「それにさっき言ったでしょ。私は揚げ物がそこまで好きじゃないって。もし揚げ物を食べるとしたら、唐揚げかトンカツくらいかな」

「なんだ。お前も揚げ物好きじゃないんじゃないか」

「揚げ物好きじゃない人なんてたくさんいるよ。それに私の場合はお酒を飲む時くらいだし」

「そういえばお前は飲める口だったな」

「うん。といってもビールを一杯飲む程度なんだけどね」

「それでも十分すごいと思うけどな」

「そう?ありがとう」

「おう」

二人で笑い合う。しかし、彼女はすぐに真面目な表情を浮かべてこちらを見つめてきた。

「ところで一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「うん、いいよ」

「最近、私の扱いが悪くないか?」

「……」

「おい、黙るなよ。そこは否定するところだろ」

「いや、だって事実じゃん」

「そんなことはない!少なくとも他の二人に比べれば私の方がまだマシだ!」

「いや、そういう話じゃないんだけど……」

「じゃあどういう話なんだよ」

「うーん……」

私は腕を組んで考え込む。すると彼女は少し不安そうな様子を見せた。どうやら私の反応に怯えているようだ。こういうところがポンコツと言われる所以だと思うけど、本人は気付いていないのだろう。

私は小さくため息をつく。そして、ゆっくりと深呼吸をして彼女に話しかけた。

「とりあえず話を整理させてもらってもいいかな?」

「あぁ、もちろん構わないぞ」

「ありがと。じゃあ、まずは最初の質問ね。どうして私に相談してきたのか教えてくれるかな?」

「あぁ、それか。それはだな……まぁ、なんだ。なんとなくだ」

「なんとなくかぁ……」

「あぁ、そうだ。なんとなくお前が適任だと思ったんだ」

「そっかぁ……」

適当に返事をする。すると、彼女は不満げな表情を浮かべて頬を膨らませた。

「おい、ちゃんと聞いてるのか?」

「はいはい。聞いてますよ」

「むっ……本当に聞いていたか怪しいものだな。よし、もう一度言ってくれ」

「嫌です」

「なぜだ!理由を教えてくれ!」

「どうしても?」

「どうしてもだ」

「仕方ないなぁ……。理由は簡単だよ。単純に面倒くさいから」

「うぐっ……」

「あと、もう眠いから」

そう言って彼女に帰ってもらった。

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