変化
魔法部に入りたい。
龍が世司に噛みついてから翌日。
今日も羊雲が空を占める中。
龍の恋心であるよもぎのぬいぐるみがいつの間にか消えていたことを知らせるために急いで学校へと向かった流竜に、龍は言った。
昇降口で、部活の入部届けを見せながら、やけにすっきりした顔で。
流竜は上履きに履き替えて靴を靴箱に仕舞ってから、入部届けを受け取った。
「じゃあ、放課後に魔法部に来て」
「ああ」
「それで、消えたんだけど。ぬいぐるみ」
「ああ。迷惑をかけたな」
「解決した?」
流竜が驚かない龍にやっぱりと思いながら並んで教室へと向かう中、龍は前を向いたまま苦笑した。
「どう、だろうな。まだわかんねえ。新しい問題ができて考えることが増えたけど、匂いは薄まったから、少しは解決したのかもな」
「見つかったんだ」
「たぶん、な」
「そっか」
「ああ」
「魔法部、まだ私一人だから」
「ああ」
「世司、超スパルタだから」
「望むところだ」
「じゃあ、また放課後」
「笹田」
教室の入り口でそれぞれの席に着くために別れようとしたが、流竜は呼び止められたので振り返り龍を見た。
「なに?」
「いや、あの。これからよろしくな」
はにかむ笑顔を向けて来る龍の両頬を思いっ切り伸ばしてやりたいと思ったが、止めた流竜はよろしくと言った。
末永く。
心中でそう付け加えて。
(まあ、ちょっといいなって思っただけだしなあ)
朝の読書時間中。
紅葉したよもぎのぬいぐるみを思い出していた。
龍の恋心、ではなく、自分のだ。
自室の本棚の上で、白黒の箱に入れておいた恋心のぬいぐるみが、桜からよもぎに変わっていた。
理由はわかっていた。
龍の世司へ向けるまなざしを見て、自分の気持ちにも変化が生じたのだと。
それに。
(世司もまんざらじゃなかったようだし。自分に突進してくる生物、大好きだもんなあ)
恐らく両想いになるだろうから。
気楽に見させてもらいましょうか。
なんて。幼かった自分に声を大にして忠告してやりたい。
関わるな。逃げろって。
いつまでたっても秘めたままにしてイライラするから。
(あーもう。お互いに好きだって言いたい!)
言ったところで素直に聞き入れないだろけど!もう!
(2022.6.14)
よもぎもみじ 藤泉都理 @fujitori
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