切望
(天敵、先生、か)
背中が少し硬いなと感じる下布団に反して、すごく柔らかい上布団の感触に保健室かと思いながら意識が浮上した先に、なぜか噛みついてしまった男性がいた。
瞬発的に起き上がろうとしたのに、眠気にひたっていた身体も思考も追いつかなかったらしい。
まどろみの中、横たわってまま、なんとか目を開けたままにしようとしたが、男性がまた眠れなんて優しい声で言うので抗う気になれず、瞼を閉じた。
次に龍が起きた時には、とっくに授業もHRも終わって部活生くらいしか残っていない時刻だった。
なにかあったらいつでも来ていいからと言ってくれた保健室の先生に、あいまいに頷いて保健室から出ようとする前に、男性と流竜が迎えに来てくれた。
龍は知らず、制服をぎゅっと掴んでいた。
ちょうど胸の辺りだった。
男性の名前は世司。
黒ふくろうで、流竜の使い魔で、魔法部の顧問で外部の先生だった。
恋心は預かると流竜に言われた龍は今、のろのろと制服から部屋着に着替えて自室のベッドに横たわっていた。
食欲はないので眠ると言っておいた。
考えたかったのだ。
衝動的に世司に噛みついた理由を。
天敵だから。
本当に?
頭を撫でられてから、ずっと身体がふわふわと浮き立っているのはどうして?
世司の少し低く静かな声を思い出すたびに、ぴりぴりと電気でくすぐられているように感じるのはどうして?
世司の顔を思い出すだけで、顔が、特に頬が火照るのはどうして?
叫びたくなるのは?
泣きたくなるのは?
転げ回りたくなるのは?
走り出したくなるのは?
惚れてしまったのか?
また?
今までと違って匂いはしないのに?
(天敵で、先生で、大人で。うんっと大人で)
かんちがいだと思った。
また。
すぐに冷めるだろう。
匂いがする時だけ。
目に入った時だけ。
この学校にいる時だけ。
そう言い聞かせないと。
はれんちだ。不誠実だ。おかしい。
だってずっと運命の相手を恋焦がれていたのに。
ずっとずっと待っていたのに。
待って。
待って?
恋って待つものだっけ?
(2022.6.13)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます