死にかけた話
これは私が高校に在学してた頃の話です。
私はとある床屋の常連で、いつもスポーツ刈りにしてもらっています。 店主の爺さんとも良好な関係を築けており、まるで一種の家族のような感じでした。
ある日の事です。 文化祭に備えて髪を切ってスッキリしようと思った私は、いつも通り床屋へ訪れました。
入り口の側に自転車を停め、私は意気揚々とガラス張り扉を開けました。 このとき私は一年に一回の文化祭で素敵な思い出を作ろうと思い、それに見合う位のスポーツ刈りにしてもらおうと考えていました。
その考えは一瞬で吹き飛びました。
ドアを開けて入った瞬間とんでもない異臭を感じ取りました。 床屋の見た目自体はそこまで変わっていなくて、店主の爺さんもいつも通りの元気そうな笑顔でカウンターに佇んでいました。
違うところと言えば見たことのない太った婆さんが隣に座っててパーマをかけていました。 僕は一種この婆さんが匂いのもとかと思いました。
僕は婆さんの近くでバレないように匂ってみましたが老婆の匂いしかしなかったため、彼女が匂いのもとではないことが分かりました。
その後、いつも通り床屋のおじさんによる散髪が始まり、僕はキツい匂いに耐えながらスポーツ刈りにされてました。 僕は散髪中、鼻呼吸を辞めて口呼吸にすることで匂いを感じないようにしましたが、何故か口からもその臭みを感じ取ってしまい、ずっと苦痛
散髪の途中、爺さんは僕にこう問いかけました。
「いい匂い…するでしょ…」
私は耳を疑いました。 この鼻をひん曲げようとする殺意に満ちた匂いが? いい匂い? ん? え? はぁ?
「いやいやいやいや!!かなり臭いですよ!今まで我慢してましたけど鼻がもげそうです!」
「えぇ、でもバニラの匂いだよお?」
「ん?え?バニ?ええ?」
その時の自分はバニラがいい香りを出してて香水の方に使われる『植物』としてのバニラを知らず、アイスクリームのバニラ味の方だと考えてました。
「いや〜、いい香りだよね!買ってよかったわ!」
その後も彼はバニラについて意気揚々と話していましたが、私は匂いがキツすぎて話を右から左へと聞き流すしかありませんでした。
散髪後、あの後もまだ匂いが蔓延した店でずっと苦悶に満ちた表情のまま散髪代を払う私を他所に、爺さんは部屋の隅から何かを取り出しました。
それは小さな黒い枝を二本入れたガラスの瓶でした。
「これがバニラ、臭ってみる?」
諸悪の根源を持ってきた爺さんが急にとんでもない事を持ち掛けて来ました。 その時の私は彼が悪魔のように見えました。
「………」
彼は悪魔は悪魔でも欲を操る方の厄介なやつだったのでしょう、私は謎の誘惑に囚われてしまいその瓶へと顔を近づけ、「スン」とちょっとだけ匂ってみました。
吹き飛びました。
悪魔が持ち出してきたバニラの香りは、臭い物を通り越して只の凶器と化していました。
ただ鼻や脳を刺激するだけじゃないです。 遥か彼方まで突き抜けて行くほどの衝撃がその匂いにそなってたため、生身の人間が耐える事自体が出来ず、私の体はガラスの扉の方へ飛んでいき、そして意識を失いました。
意識を失う寸前に私が見た爺さんの姿は酷く慌てていました、婆さんも慌てていました。
これが原因なのか現在まで床屋ではあのバニラの匂いは一度も香ってきてません。
練習用短編集 Yujin23Duo @jackqueen1997rasy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。練習用短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます