「幼馴染は希少価値」←だからなんですか?

まちゃみる

プロローグ

突然だが、陽キャというのは誰彼構わず絡んでくる生き物なのだろうか?

今僕の隣にはクラス一の陽キャ、松浦冬華(まつうらとうか)が何故かいる。僕たちの接点など一つもないのに、2週間程前から急に絡み始めてきた。

それなのにこちらから理由を聞いても話を逸らしたり、黙ってその場をやり過ごしたりと、何一つしゃべろうとしない。

まあ、無理に詮索する気はない。唯一心配なことは僕の幼馴染の西条香澄(さいじょうかすみ)と険悪な雰囲気にならないかどうかだ。

香澄は幼い頃の親友で僕の唯一の女友達だ。趣味も合うし、昔からの友達なので僕みたいな陰キャでも楽しく話が出来た。だからこそ心配だった。

彼女いない歴=年齢の僕からしたら、女性は全くもって未知数の存在なので日常の何がトリガーになるかも分からない。

そんな不安の種を背負っていたある日のこと。

「ねえ、今日の放課後暇?暇ならちょっと付き合ってほしいんだけど。」

「え?まあいいけど、委員会の仕事で遅くなってもいいかな?」

突然の誘いだったが、悪い子ではないので遊ぶくらいならいいだろう。

「いいよー。とりあえずいつものとこね~。」そういうと冬華が足早に立ち去った。


「でさ、いきなり誘われたからつい乗っちゃった。まあでも悪い子じゃないしいいか。」

委員会活動中、僕は香澄に今日のことを話していた。運よく香澄と同じ委員会だったので活動中はよく話をする。

「ふーん、そうなんだ。やっぱり凛翔(りひと)は優しいね。」

「そうかなぁ?変に断ったら可哀想じゃない?」

「ほら、そういう所。まあでも優しい男はモテるからね~、注意しなよ?」

「はいはい、冗談はそこまでにしましょうね~。第一、僕みたいなやつ誰も興味ないでしょ。」

「全く、何で自分を悪く見ちゃうわけ?凛翔はもうちょっと自信を持ちましょう!」

香澄はやっぱり優しい子だ。僕みたいな奴とも楽しそうに喋ってくれる。

(ホントにありがとう、香澄。)


委員会の仕事が終わり、僕は駅前のファストフード店に向かっていた。

目的地に着くと、やはり冬華が居た。

「ごめんごめん、待ったよね。」

「いや、別にそんなことないけど、、、」

「貴重な時間無駄にさせてホントにごめん!」

「はあぁぁぁ」

大きな溜息をする冬華。その様子を見ようとしたとき、

「んっ!?」

急に両頬をつままれた。いきなりの事だったため、情けない声を出してしまったが冬華はそんなことお構いなしに

「誰も迷惑なんて言ってないんだけど?何でそんなびくびくしてるわけ?」

「それは、その、、」

「は~もう、とりあえず行くよ!」

「どこに?」

「ついてくればわかるからっ!」

そう言うと冬華は僕の手を掴み人混みを搔き分け進んで行く。

そして向かった先は、、、喫茶店だった。

だが明らかに列の長さがおかしい。一目見るだけでも店内に入るのに数時間以上かかるのが想像できる。

「なにこの列の長さ、、何かやってるの?」

「おっ、凛翔にしては鋭いねぇ。実はここ、キャンペーンやってて限定スイーツがあるんだけど私一人じゃ無理なんだよねえ。」

「なんで?ふつうに頼べばいいんじゃ」

「そのスイーツ、カップル限定なんだよね。」



「まあ要は今だけカップルの設定でよろしくってこと。」

「ええええ!そんな急に言われても、、」

「だいじょぶだってー、とりあえず私に合わせればいいから。」

そんな感じで半ば強引に同伴させられたが、やったことはまあ、言わないでおこう。(情けなさすぎた為)

数時間に思えるほど長かった20分の拘束時間が終わり帰ろうとした時

「最後に寄りたい場所があるんだけどいい?」

「まあ、いいけど。」

先程とは打って変わって落ち着いたトーンで話す冬華を気になったが、そのことは聞かずに後をついていく。

歩みを進め、辿り着いた所には一棟の団地があった。

「私の家って貧乏なんだよね。」

唐突に放たれた言葉、その声の主である冬華からはどことなく悲しい雰囲気を感じた。

「私が5人姉弟の長女でね、お母さんがずっと働きに出てるから基本的に面倒を見るのは私。小中の時なんか遊ぶ暇すらなくてよくクラスの連中に馬鹿にされたよ。」

笑ってごまかしているが確かに彼女の頬には涙が伝っている。

「そんな中高校に入ってさ、イメチェンして陽キャ演じてたけどお母さんが限界来たみたいで倒れたんだよね。今は大丈夫だけどまたいつ倒れるかも分からない人に仕事させるわけにはいかないでしょ。」

「だから、私決めたんだ。家族は私が支えるって。その為に仕事も探したし、友達にも遠回しに遊べなくなるって伝えた。で、最後にやりたかったのがさっきみたいに恋人って言われる人と、遊ぶこと」

「でもそれなら、他の人でも良かったんじゃ、、」

「影薄い凛翔ならクラスの皆に言わないでくれると思ってね。それはホントにごめん。まあでもこれでやりたい事できたしもういいや、迷惑かけてごめんね。」

冬華は背を向けて歩き始めた。僕は冬華の手を取った。

「誰も迷惑なんて言ってない。」

「え」

「僕なんかでよければだけど、ちゃんと頼りにして欲しい。こんな陰キャでも家事とかはある程度できるし、弟君達の面倒も見れるし、冬華さんのお願いだって出来る範囲で聞いてあげるし、、」

「、、ホントに凛翔って優しいね。少し見直した。じゃあさ、これからも仲良くしてくれる?」

「はっ、はい!」

暗くなりつつある景色。だがそこには太陽のように眩しい爽やかな笑顔が咲いていた。




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