やっぱり大したことはなかったか

≣≣≣≣≣✿≣≣≣≣≣ஜ۩۞۩ஜ≣≣≣≣≣✿≣≣≣≣≣



「っやあ!」


剣で一撃にしたのは一角のウサギ。

オレのレベルでは雑魚の部類にはいる。

絶命したウサギは虹色に光り輝くと15個のドロップアイテムに代わり、腰につけているマジックバックに自動で収納されていった。

これはマジックバック特有の機能で、マジックバックがなければ地面に落ちたアイテムをひとつずつ手で拾って袋に詰めていく。

その際に拾い損ねたアイテムは見つけた者のもの。

そのせいで、マジックバックを持っていない冒険者の後ろを、おこぼれを狙ったコソ泥が付き纏っている。


様々な機能を兼ね備えたマジックバックだが、盗まれる心配はない。

所有者以外がマジックバックに手を出せば、窃盗の現行犯として心臓が止まる。

治癒師が近くにいれば有償で助けてくれるが、犯罪者を無償で助ける奇特な治癒師はいない。

結果、目覚めるのは牢屋の中となる。

犯罪者にとって、一番愚かな捕まり方だ。

それも治癒師の治療代は自身の懐から支払われる。

金がなければ借金だ。

お代は大金貨3枚。

大金貨3枚で生命が助かるなら安いものだろう。

回復士は治癒師の下位職のため、回復リカバリーはできても蘇生リバイブはできない。

そんな理由から、マジックバックを持つオレたちは犯罪者から忌避されている。



「あー、やっぱり大したことはなかったか」


ステータスを開いて、今の戦闘結果をチェックする。

ウサギを8羽倒したが、その中に狙っていたものは入っていなかった。

ドロップアイテムの中にルビーのカケラやツノなどの素材はあったが、食用のウサギ肉は入っていなかったのだ。

宝石などのカケラや素材はマジックバックがあれば合成が可能だ。

しかし、いま手に入ったアイテムでは合成するには個数が足りなかったようで、合成画面が反応しなかった。

この合成機能は錬金や調合に必要となる素材をつくるための前段階。

錬金や調合の本機能は手動設定だから勝手に調合を始めない。

宝石のカケラは15〜20個で宝石1個分に合成される。

個数に差があるのは、ドロップしたカケラの大きさによるから。

運が良ければ宝石そのものがドロップできるが、その確率は2割にも満たない。

カケラに粗悪品が含まれていれば合成は失敗する。

大きさや素材の良し悪しは倒した魔物の強さによって決まるのは、冒険者学校で教わる初歩の初歩ともいえる基本情報。

授業が始まって2時限目に習うからだ。

それでも、学校に通っていない冒険者や錬金を生業にしている職人には知られていない知識で、彼らには『合成は運だ』と思われている。

カケラの粗悪品や合成失敗で砕けた宝石はクズ宝石といわれて二束三文、たまにゴミとして扱われているが……粉にすることで染料となるため、オレは喜んで引き取っている。



5日前に一方的に宣言されたクランからの追放は急で驚いたが、元々学校を卒業してソロの冒険者だったオレは魔導具を所持している。

何より光属性の結界石が組み込まれたテント……一軒家を持っている。

ソロ時代にダンジョンで手に入れたボスのドロップアイテムだ。

これを手に入れるためにオレは15回もダンジョンを周回した。

ある条件でのみ現れるダンジョンボス……それはダンジョン内の全魔物を討伐すること。

ダンジョン内の魔物は知らないうちに湧いて出てくる。

『ソロで一度も休憩をしないでダンジョンボスにたどり着く』という条件が隠れていたことに気づくまで、必ず1回は結界石を使って休憩していた。

ボス戦前は特に。

ダンジョンの特性に気付いたのは偶然。

結界を張って休憩していたオレの目の前に魔物が現れたからだ。

そのダンジョンは休憩の回数だけ一定数の魔物が溢れだす。

それを知った14回目、それを踏まえて休憩なしで攻略した15回目でオレは卒業後の試練『一軒家テントを手に入れること』に成功した。



条件が揃えば必ず手に入るとはいえ激レア指定のアイテムなだけあって、登録者の手から離れてもすぐに本人に戻ってくる機能がついている。

そのときに奪った者の生命も刈り取ってしまう。

フィールドやダンジョンで使用中の場合、結界に触れただけで瞬殺する。

その際の記録は朝まとめてステータスに送られるし、ドロップアイテムは1階にあるアイテム倉庫室に収納される。

そのひと部屋には、時間停止する機能が組み込まれていて生肉でも野菜でも傷まない食糧倉庫がある。

もちろん一軒家のため、キッチンに浴室、トイレもあり、個室は10部屋もある。

個室は魔導具で数を増やすことも部屋の中を広くすることもできる。

そんな理由からクランの屋敷アジトとして登録することもできるのだ。


グゥゥゥ


オレの腹時計は正確なようだ。

テントを置くにはそれだけの広さは必要ない。

ただ『2メートル四方の平地が望ましい』というだけ。

ここは森の中だが、所々にひらけた場所はある。

夜営のために人工的に拓かれた場所から、草原などポッカリと自然にひらいた場所。

そして、不自然に開いた魔素溜まりだった場所。

強敵の棲家だった場所は、そこに棲みついていた魔物が討伐されれば、溜まった魔素は四散して自然界に浄化される。

光属性で浄化されて安全になっているが、浄化した人の技量が足りなければそこにはふたたび魔素が溜まり強敵を生み出してしまう。


「あーあ、ここは駄目だったか」


2年前に討伐されて浄化されたはずの魔素溜まりに鹿がいる。

もちろん魔獣だ。

しかし光属性の浄化の影響か、半魔獣独特の紺色の体毛を持っている。

この場合、討伐はできない。

光魔法を取り込んで聖獣に昇華する可能性があるからだ。

聖獣になれば体毛は輝く瑠璃色になる。

聖獣が誕生したら、この森は魔の森から聖の森となり、荒ぶる魔物は生まれにくくなる。

それは森の周辺に住む人たちも恩恵にあやかれる。

食害など魔物による被害が減るからだ。


戦う意思はなくとも、そのような場所にテントを置けない。

オレは30分ほど先へ進んで、開拓された夜営地にテントを広げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

オレの世界史ー冒険者を甘く見てはいけません- アーエル @marine_air

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ