きっとすぐには気付きもしないだろう


冒険者ギルドもむごい罰則を与えるもんだな。

いつもそう思うが、正式な罰の発動方法は冒険者学校で習う。

オレもそれを身につけたからギルドの規則に従順だし、規則を破ろうとも思わない。


冒険者ギルドに登録すればすぐに冒険者として活動できる。

しかし冒険者ギルドに登録する前に学校で学ぶことで、罰の起動など冒険者の基礎知識を得ることが出来る。

さらに初歩魔法から武術の基礎もひととおり習える。

何より魔導具の使い方を教わってから学校を卒業する。

授業で実際に使っていた魔導具はそのまま与えられるだけでなく、成績によっては卒業の際に貴重な魔導具を与えられることもある。


もちろんオレ以外にも卒業生はいる。

しかし卒業後は世界各国に散らばるため、滅多に会うことはない。

ただ、会えばなんとなくわかる。

卒業と同時に与えられる魔導具が共鳴するからだ。

……残念ながら一度も会ったことはないけど。

そして学校を卒業してからもいくつか試練がある。


『クランに一定期間所属すること』


それも試練のひとつだ。

ソロのオレがクランに加わっていたのもそれが理由だ。

すでにそれも既定の日数は超えたため試練はクリアしている。

同時に『製造部門を修練する』もクリアした。

これで卒業後の試練は全部クリアできた。

ただ、この冒険者ギルドから報告するのが嫌で、別の町に行くことにした。

卒業後の試練を全部クリアすることで報酬が届く。

ここのギルドで受け取ったりしたら、カルトリアに情報を漏らされそうで嫌なのだ。

歴史の浅いギルドがクランの顔色を窺い、ご機嫌伺いをしている日和見気質なのはどこでも同じことだろう。

そして、大罪を犯してもギルドの権限を振り翳して揉み消す可能性もある。

学校に認められた卒業生は、学校から与えられた権限で自らの手で罰を与えることができる。

それを使えるのは、自分が巻き込まれた場合のみ。

そして今回はオレが被害者のため、オレ自身で罰を与えたのだ。

これはギルドとは別の罰だ。

ただ、ギルドから受ける罰はオレから罰を受けたことで軽くなる。

オレのクラン追放に加担した者たちからの慰謝料は、確認していないがすでに支払われた頃だろう。

罪が明らかになった時点で、当人の所持金や所有物から被害者へ自動で支払われる。

たとえ罰で魔物になったとしても討伐されたとしても、逃げ得や死に得にはならない。

所属しているギルドやクランからも慰謝料が支払われるが……慰謝料の総額が足りなければ、クランやギルドが肩代わりすることになる。

運命共同体である以上、仲間の尻拭いで身を滅ぼすことも借金を背負うこともあるのだ。


「アキュート。君たちには救いになるオレからの罰は与えない。その分、この数日以内に支払う慰謝料は今のクランで保有しているほぼすべてを失うほどの額になる」


カルトリアの表クラン『カトレア』は解散して、残されたのはアキュートたち裏クランの冒険者だけだ。

ひと月前に、カトレアに所属していた冒険者たちは別の町に移るためクランを抜けた。

アキュートたちは気づかなかったのか、全員が抜けたとは思わなかったのか。

……たぶん後者だろう。

冒険者としてダンジョンに送り込んでで働かせて、アキュートたちは屋敷アジトで女性と快楽にふける。

そんなリーダーたちに誰がついて行くというのか。

ルルドというあの町がアキュートたちの悪事の温床になっているのであれば、ルルドから離れるのが一番いい手だろう。


カルトリアがオレを追放したことで支払う額は相当のものだ。

残るのはクランの屋敷アジトと3日で尽きる僅かな食糧、地下にある水で薄めたたっぷりのワイン、そして馬のいない簡素な荷馬車が1台くらいだ。

所持金も武器も買い漁った宝石も。

所有権がオレに移されて残っていないことも……きっとすぐには気付きもしないだろう。

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