二度と人前には出てこられない
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城門に近くなったところで不意に声をかけられた。
「ソロ同士、一緒に組みませんか」
そう言われたが、別に行動を共にする必要を感じない。
せっかくソロに戻ったのだから、しばらくはソロで活動したいと思ってもいた。
「ことわる」
「え、なんでですか?」
「なんで? そんなこと関係ない」
「関係なくないですよお! ずっと一緒に組みたいって思ってて、やっと追放されたというのにぃー」
その言葉に作為を感じた。
「オレの追放に加担したようだな」
「あ……ち、違うの。私は一緒に組みたかったから……だから」
「ふざけんじゃねえぞ、おいコラ。クランメンバー以外が追放に加担するということがどれだけ重い罪か分かっているんだろうな」
「お願い! 謝るから……だから一緒に」
『一緒に組む』ということは、この女の言動を許したということになる。
しきりにオレを好きだった、とか世迷言を繰り返す女の言葉が増えるに従って、オレの心が1度ずつ冷えていく。
その言葉も悪事がバレた今、罰を受けたくないからの世迷い言だろう。
……これが真実だったらさらにタチが悪い。
「オレをクランから追放する悪事に加担したくせに。『愛しているから』ってだけで許されるような甘いものではないことくらい知っているだろう。それ以上にクランから追放させてソロになったところを言い寄ることに悪意を感じる。一方的な押し付けの愛情などゴメンだ。この際、死んでも構わん。いや、重罰の魔物化になればいい。付き纏われても迷惑でしかない。【加担した者は罪相当の罰を受けろ】」
オレの言葉に目の前の女が「いやぁぁぁぁ‼︎」と叫ぶ。
それは周囲にも広がっていく。
「え?」
「お、おい。……まさか?」
「ウソでしょう?」
悲鳴をあげて蹲る男女たち。
その数、ざっと6人。
ただしそれはこの場にいるだけで、だ。
周囲の建物から腕が、足が、耳が。
ある者は魔獣の体毛を。
ある者には尖った耳や牙を。
ある者の両手には指より伸びた爪を。
あげている悲鳴が魔物の雄叫びに変化していく。
その
ギルド違反による魔物化、これを倒せばレベルが簡単に上がるのだ。
そして報酬も大きなものだ。
討伐報酬に緊急事態に参加したことで貰える名声。
魔物化はその者の犯した罪の大きさによって決まるからだ。
「ギルドの契約を甘く見た結果だ」
「ダズげで……いギャア……ま、もドにバ……なディダグ……」
この騒動に加担した女は悪魔系の魔物に変わり始めている。
悪魔系は一番罪が大きい。
つまり、彼女は追放を誘導したということだろう。
「いつまでもオレにかかわるな。ここにいれば討伐されるぜ」
たとえ魔物化しても人間としての意識は残っている。
そんな連中に「逃げないと殺されるぞ」と脅す。
だからこそ苦しんでいるのだ。
しかし、人間としての知能が『ここで
建物の外に出ていた半魔物化人間たちは口々に「死にたくない」(たぶん)と唸り声をあげて手を振り回しながら城門の外へと一斉に走り出した。
彼らを止めることはできない。
まだ完全に魔物化していないからだ。
現時点で殺したら殺人、それも同じ冒険者を殺したとしてギルド違反にあたる。
そして魔物化して討伐されるのが自分になる。
あとを追いかけることもできない。
ただ、逃げ出した彼らは二度と人間の前に出てこないだろう。
変わった姿を見られたくないだろうし、魔物として討伐されるからだ。
今まで自分たちは討伐する側だった。
魔物でも、魔物に変化した者でも。
自分たちが目の色を変えてしてきたことを受ける側になった。
できるのは、見つからない場所に隠れて棲むこと。
死にたくなければ……二度と人前には出てこられない。
これですっかり終わったわけではない。
まだ逃げ遅れて建物の中で魔物化しているのが、魔物の呻き声でわかる。
それがわかっているから、逃げ出した半魔物は見逃された。
ただ、この町は小さくても普通の住人もいる普通の町だ。
そしてこの町の冒険者ギルドは、ここ3年ほどの間に増えた魔物を討伐するために集まった冒険者を管理するために設置された、比較的新しいギルドだ。
今回のことは町のほんの一画で起きたことでも、町全体が冒険者に向ける感情に不和が生まれるだろう。
この騒ぎを最小限で収め、町に住む一般人にどれだけ迷惑をかけずにいられるか。
……そんな能力が足りないと思っているからこそ、オレは巻き込まれる前に戦闘態勢になって
半魔物が現れたことで混乱している城門を後にしたオレは、森に向かう街道に歩を進めた。
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