第3話父母

流れ出る涙に前も見えずに歩いて行く荒野

悲しみの感情に押し流されて前も見えないくらい

とめどなく涙は光を受け輝くダイヤモンドのように

太陽の声を聴き月の声に泣く孤独な一夜

バンシーの声を聴き続ける三日間

精霊の歌を知る無意識の領域で

泣き泣き泣き泣きに濡れる膝の腿


崩れ去る土砂のように押し流される

脆く雨水を吸い込む地肌のように

地面に吸い込まれた涙は溜まって行き

地中深くの水源になってこんこんと溢れる

誰かの愛情の発露となる井戸の水は天からの恵みで

夢を見ているわけじゃない、生きているからだ


ただ愛に生き愛に死ぬ男は狂う

その背中の男は愛を背後に守る

ただ一つの誇りを背負う逆境でも死地でも

夢語らん宿した赤子に名をつけ

温かい消え去る父親の手

母が触れる赤子の頬に

熱い体温の父親の腕は逞しく残っている

その記憶もないのになぜだろう


母なる慕情に夢を見ている。

母が父となり代わりに育てきる覚悟は獰猛な女獅子のよう

語りかける歌声は揺れるゆりかごのようで

歌は世界に広がり父親の亡骸に届くだろう。

骨となるまで戦い抜いた男の誇りは

語り継がれて繋いでいく血の継承

うまく言えない時でも誰かに疎まれても


子供は母の子守唄を呟く口ずさむ

慰めになる声を思い出し

たどり、たどり、歌い継ぐ

馴れ初めの話など母親に聞いてみる

聞いてハンバーガーでも食べながら恋人に話してみる

なぜか涙を流す恋人に抱きしめる僕

一生の恋人を見つけた気がした心からそう思う


母に連絡して日取りを決めると彼女は興奮していた

応援してくれる母と彼女に一息いれる

一枚限りの父親の写真は逞しい背中に愛を感じる、照れくささも

愛を感じる二十歳の僕がいるのが不思議でたまらなかった

涙が出る意味も知らず何もわからなかった

それが意味もなく大事だと実感できる僕の涙が知らせていた

父親の誇り高い背中に追いつこうと走り始めた自分に

「パン」と背中を叩かれたようで振り向いても誰もいなかった

それがとても寂し気に映る自分がいた

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旅人 灰児 @hurusawa-99

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